量子AIの優位性を求めて
量子AI( https://www.sas.com/en_us/insights/analytics/quantum-ai.html )の実現と注目が集まる量子優位性の獲得へ向けて、カウントダウンが始まっています。しかし、多くの経営陣にとって、量子はいまだ不可解な存在であり、大きな可能性を秘めていると認識しているものの理解が追いついていません。
しかしながら、金融分野の次世代リスクシミュレーションから、医療分野の精密診断、行政のリアルタイム災害対応計画まで、スピード、規模、精度が求められる重要な業界で、先行的な活用事例が現れ始めています。
SASの量子製品戦略責任者であるエイミー・スタウト(Amy Stout)と量子システム主席アーキテクトであるビル・ウィソツキー(Bill Wisotsky)が、現在の量子分野に関する議論について詳しく解説しています。量子AIや量子優位性の定義、量子の決定的瞬間に至るまでのタイムライン、そして意思決定者やメディア、一般のユーザーがこのテクノロジーに注目すべき理由を説明しています。
量子AIとは何か? - エイミー・スタウト(量子製品戦略責任者)
量子AIは、人工知能(AI)と量子コンピューティングを組み合わせた新しいタイプのコンピューティング技術です。
今日のノートパソコンやスーパーコンピュータは、従来のコンピューティングと呼ばれる技術で動作し、0か1の値をとるバイナリビットを使用しています。一方、量子コンピュータは、0と1、またはその両方の組み合わせを同時に表現することが可能な量子ビット(qubit)を使用するため、従来の方法とは根本的に異なります。
一見複雑に聞こえますが、基本的に、量子AIを活用することで、特定の問題をより高速かつ正確に解決できます。特に、最適化や機械学習、分子モデリングなどの分野で有効とされ、金融、製造、ライフサイエンスなど、さまざまな分野に影響を与えることが期待されています。
量子優位性とは何か? - ビル・ウィソツキー(量子システム主席アーキテクト)
ニュースでは、量子優位性について繰り返し報道されています。これらの報道では主にスピードに焦点が当てられ、従来のコンピュータでは数十万年かかる問題を、量子コンピュータでは数時間で解けることを示す研究結果が紹介されています。しかし、これらの問題は特定のケースに限られており、量子コンピュータの仕組みを実証するために設計されています。研究における重要なステップではあるものの、顧客向けの実用的な用途とは無関係です。メディアは、量子優位性のスピードだけを紹介する傾向がありますが、実際は多面的に捉える必要があります。
たとえば、量子機械学習における量子優位性とは、従来の機械学習では実現できない量子物理学による高次元の表現にデータを符号化できる能力や、より少ないデータでモデルをトレーニングさせる能力を意味します。量子優位性とは、量子計算が要求する電力消費の著しい削減を意味する可能性もあります。
これが、私の主張の核心です。量子コンピューティングで実用的な問題を解決しようとする場合、量子優位性を多面的に評価する必要があります。重要なのは、この技術の活用を検討する企業にとって有益な実用基準を用いて判断することです。スピードも重要ですが、他にも多くの可能性が考えられます。
現在、量子の転換点に差し掛かっているのか? - エイミー・スタウト
量子分野では常に、「量子は3~5年先のもの」と繰り返されています。多くの専門家は、市場の現状を現実的に捉えようとしており、量子AIが直ちにすべての問題を解決すると考えるのは避けるべきなのです。現在、さまざまな種類のハードウェアが存在し、実際の本番環境における規模の問題に対して具体的な効果をもたらすために必要な規模、スピード、精度を実現するべく、複数ベンダーが量子コンピュータの開発に取り組んでいます。しかし、量子はまだ、技術的に広範かつ成熟した段階には至っていません。
一方で、すでに量子には大きな関心が寄せられ、多額の投資が行われています。業界をリードする複数の企業は、2025年の時点で自社の利益に直結する成果は得られない可能性が高いと十分に理解したうえで、量子分野への投資を行っています。これらの企業が得るのは、技術が成熟した時点での先駆者優位性であり、社内の専門知識や知的財産が含まれます。
私は楽観的に考えており、ハードウェアプロバイダーの研究開発ロードマップや、過去3~5年の経過、今後3~5年の間で期待されていることを見ると、近い将来、比較的取り組みやすい課題に対して、量子優位性を発揮できるコンピュータが登場する可能性は十分にあると考えています。さらに、量子AIが達成できると考えられている高度な事例を目にできることを願っています。
量子技術に関心を持つべき理由とは? - ビル・ウィソツキー
端的に言うと、量子コンピューティングは世界を変える可能性があります。応用分野は非常に多岐にわたりますが、量子コンピューティングの影響を特に大きく受けると考えているのが、AIと医療です。量子コンピュータの性能が向上し、活用方法に関する知見が蓄積されることで、AIは量子コンピューティングが利用する物理法則を計算に活かせるようになります。
創薬とバイオ医薬品の分野では、従来では不可能だった複雑な分子や生物学的プロセスを表現・モデル化できるようになり、大きな恩恵を受けると考えています。これにより、従来では10年かかっていた開発プロセスが大幅に短縮され、より短期間で優れた薬剤を発見し、市場に届けることができるでしょう。
将来的に、一般ユーザーは、目標達成に向けて量子コンピューティングを使っていることすら気づかないかもしれません。量子コンピューティングは、現在私たちが利用している「PU(処理装置)」と同様に、新しいアクセラレーターのような存在になると考えています。一般ユーザーは、使用しているアプリケーションがCPU、GPU、NPUのいずれで動作しているかを意識せず、ただ単にアプリケーションを使用しているだけになると考えています。
*2025年8月11日に米国SAS Institute Inc.より発表されたプレスリリース( https://www.sas.com/en_us/news/press-releases/2025/august/quantum-experts.html )の抄訳です。本プレスリリースの正式言語は英語であり、その内容および解釈については英語を優先します。
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