-
-
-
相模女子大学大学院(神奈川県相模原市南区、学長・田畑雅英)栄養科学研究科の奥村裕司教授と、徳島大学大学院医歯薬学研究部の真板(大野)綾子研究員(現 株式会社キュライオ主任研究員)、二川健教授、先端酵素学研究所の真板宣夫准教授(現 放射線医学総合研究所研究員)らは、共同で新型コロナや鳥インフルエンザのウィルス感染の際に働くプロテアーゼ(MSPL)と阻害剤の結晶構造を初めて報告しました。
この成果は4月5日にLife Science Allianceにオンライン掲載されました。
【学術誌等への掲載状況】
Crystal structure of inhibitor-bound human MSPL that can activate high pathogenic avian influenza
Ayako Ohno, Nobuo Maita, Takanori Tabata, Hikaru Nagano, Kyohei Arita, Mariko Ariyoshi, Takayuki Uchida, Reiko Nakao, Anayt Ulla, Kosuke Sugiura, Koji Kishimoto, Shigetada Teshima-Kondo, Yuushi Okumura and Takeshi Nikawa
Life Science Alliance 採択済み
(研究の背景)
インフルエンザや新型コロナが感染する際にはウィルス表面にある糖タンパク質がヒトの気道表面にあるプロテアーゼによって切断され、感染型に変換することが必要です。ヒトのプロテアーゼは多種類ありますが、インフルエンザではヘマグルチニン(HA)、新型コロナではスパイクタンパク質がフーリンやII型膜貫通型セリンプロテアーゼ(TTSP)によって切断されます。
多くのセリンプロテアーゼはアルギニン残基の直後を切断しますが、アルギニン残基の上流の3残基がリジン/アルギニンに富む配列(マルチベーシック)の場合、フーリン、PC5/6及びTTSPファミリーであるMSPLのみがこれを切断することが出来ます。マルチベーシック配列は主に高病原性鳥インフルエンザのHAで見られ、もし高病原性鳥インフルエンザが人で流行した場合、フーリンやMSPLによるHAの切断を抑えることが感染防止に重要です。マルチベーシック配列の認識機構の解明及び特異的な阻害剤の設計には詳細な立体構造解析が欠かせません。しかし、MSPLや類似タンパク質はこれまで構造が不明でした。
(研究内容と成果)
我々はMSPLがマルチベーシック配列をどのように認識しているかを明らかにするために、MSPLの細胞外領域全体と阻害ペプチドとの複合体結晶構造を2.6Å分解能で明らかにしました(図1)。
MSPLの細胞外領域はLDLA、SRCR、SPD3つのドメインから構成され、それぞれがお互いに接してコンパクトな構造をしていました。MSPLの活性部位表面はマイナスの電荷が多く広がっており、リジン/アルギニンは正電荷を持っているため、マルチベーシックに親和性を持つことが確かめられました(図2)。また、MSPLに非常に構造が似ているものの中に新型コロナのスパイクタンパク質を特異的に切断するTMPRSS2があります(図2)。TTSPファミリーの構造はこのMSPLが初めての例で、TMPRSS2の構造はまだ明らかになっていません。そこで我々はMSPLを鋳型にしてTMPRSS2のホモロジーモデルを作り、新型コロナスパイクタンパク質への認識機構を調べました。TMPRSS2では切断されるペプチドのアルギニン残基の下流が結合する領域の溝が通常より広くなっており(図3)、ペプチドがほどけた状態でなくても結合することが出来ることが判りました。新型コロナのスパイクタンパク質の切断部位の構造を見ると、アルギニン残基から下流はαヘリックス構造を取っているため、この切断部位はほどけにくく、TMPRSS2以外のプロテアーゼでは切断しにくいことが推察されました。
(今後の展望)
MSPLの詳細な結晶構造が明らかになったことで、MSPL特異的な阻害剤の開発が促進されます。さらに今年になってMSPLもTMPRSS2と同程度新型コロナを活性化させるという論文が複数報告されており(1,2)、MSPL阻害剤は新型コロナの有効な薬剤候補となります。また、信頼度の高いTMPRSS2のモデルを利用して、新たな阻害剤の開発やTMPRSS2のスパイクタンパク質との結合予測、さらにACE2との複合体モデルの構築など、新型コロナに対する有効な治療薬・感染予防薬の開発が進むと期待されます。
(その他参考となる事項)
本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金及びAMED-CREST「メカノバイオロジー機構の解明による革新的医療機器及び医療技術の創出」の支援を受けました。
参考文献
1. Kishimoto et al. (2021) Viruses, 13, 384.
2. Hoffmann et al. (2021) EBioMedicine, in press.
掲載内容
Life Science Alliance
https://www.life-science-alliance.org/content/4/6/e202000849
【問い合わせ先】
<研究に関すること>
相模女子大学大学院栄養科学研究科
教授 奥村 裕司
TEL:042-749-2345
E-mail:y-okumura@star.sagami-wu.ac.jp
徳島大学大学院医歯薬学研究部生体栄養学分野生体栄養学分野
教授 二川 健
TEL:088-633-9248
E-mail:nikawa@tokushima-u.ac.jp
<報道に関すること>
学校法人相模女子大学 学園事務部総務課
TEL:042-747-9126
E-mail:y-kuroi@star.sagami-wu.ac.jp
相模女子大学ホームページ
https://www.sagami-wu.ac.jp/
国立大学法人徳島大学 蔵本事務部医学部総務課総務係
TEL:088-633-9116
E-mail:isysoumu1k@tokushima-u.ac.jp
徳島大学ホームページ
https://www.tokushima-u.ac.jp/
▼本件に関する問い合わせ先
学園事務部総務課
黒井 由美
住所:神奈川県相模原市南区文京2-1-1
TEL:042-742-1411
FAX:042-749-6500
メール:soumu@mail2.sagami-wu.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/