上場株式におけるインパクト投資:シュローダーのアプローチ
シュローダー
インパクト・マネジメント共同ヘッド
マリア・テレサ・ザッピア
シュローダー・キャピタル
ヘッド・オブ・サステナビリティ&インパクト
近年グローバルのインパクト投資市場は大きく成長しており、投資家の習熟度も高まっています。グローバル・インパクト投資ネットワーク(Global Impact Investing Network、以下GIIN)1によると、市場規模は1兆米ドルを超えるまでに成長しており、インパクト投資の中では比較的発展が出遅れていた資産クラス(例:上場株式)においても目覚ましい発展が見られています。
市場の発展は、経済リターン達成と同時に、SDGsに定められる課題の解決に向けた投資資本の呼び込みという意味でも歓迎すべきことと言えます。我々が直面している各種課題は、今まで以上の資本投下が求められています。GIINによると、SDGsの課題解決に取り組むためには年間5兆~7兆米ドルの投資が必要と言われており2 、これは現在の1兆1,000億米ドルと推定されるインパクト投資市場規模をはるかに上回る水準となっています。そのため、上場株式を含めた資産クラス横断的なアプローチに基づくインパクト投資のスケール拡大が求められています。
スケーラビリティ追求には注意点も
しかしながら、急速な市場の発展は同時にインパクト投資本来の趣旨との乖離を生みかねません。市場でインパクト投資の歴史や専門知識を有しない新規参入者が登場するに比例して、運用マネジャーが用いるインパクト投資の厳密性や堅確性に乖離が発生し始め、「インパクト・ウォッシング」のリスクが拡大する可能性があります。そのため、特に上場株のインパクト投資においては、ベストプラクティスを構成するものが何で、何がそうでないかを早急に明らかにすることが求められています。
シュローダーでは、現在プライベート・マーケットにおいてインパクト投資のベストプラクティスを構成する上で重要な役割を担っている「インパクト投資の運用原則(Operating Principles of Impact Investing、インパクト原則)」、「インパクト・フロンティア」、「IRIS+」が、上場株式においても適用可能であり、そうすべきであると考えています。また今後英国で導入予定となっているサステナブル投資の分類ルール等の規制も、インパクト投資の一貫性を確保する上で重要となる可能性があるでしょう。
シュローダーでは、上場株式のインパクト投資のハードルを下げるつもりはありません。以下の図はシュローダーがどのように伝統的なインパクト投資のフレームワークを上場株式において一貫性を持った形で落とし込んでいるかを示すものです。
インパクト投資には確固たるフレームワークに基づく厳密なアプローチが求められる
シュローダーでは、資産クラス横断的にインパクト投資戦略を提供しており、これらは経済リターン達成と社会課題解決の双方を目指し、一貫性が高く厳格なアプローチを取るべく、業界のベストプラクティスと言えるインパクト投資管理およびインパクト計測を搭載して運用されています。
一貫性をもってインパクト投資のスケール拡大を目指すという目標の下、シュローダーでは、インパクト投資に20年超の実績を有し業界最大手であるグループ傘下のインパクト投資専門会社ブルーオーチャードの知見を最大限活用し、ケイパビリティ構築を行ってきました。我々のフレームワークと提供戦略は純粋なインパクト投資家としての厳格性を有しており、シュローダーのサステナビリティ戦略ラインナップにおける「インパクト・ドリブン(経済的リターン創出と同時にインパクト創出の意図を明示的に有する戦略)」という分類に属しています。
「インパクト・ドリブン」の分類に属する戦略は、「インパクト投資の運用原則(インパクト原則)」、「インパクト・フロンティア」、「IRIS+」等のベストプラクティスに準拠した戦略です。シュローダーでは、2023年8月、外部の独立機関による「インパクト原則」との整合性の検証を通じて、この分野における最先端を追求しています。
インパクト投資の実際
シュローダーでは、製品やサービスが社会/環境におけるプラスのインパクト創出に大きく貢献する企業に投資することを「インパクト投資」と考えます。そのため、企業のビジネスモデルの大部分がSDGsの目標の少なくとも1つと関連するインパクトのある活動である必要があります。これは、我々の投資先企業のビジネスモデルにおいて、インパクトが中核的な位置にあり、企業業績の主要な原動力となっていることを意味します。
シュローダーでは、投資先企業の事業の中でインパクトのある事業が新しく急成長している場合、中期的にその事業が企業にとって意味のあるものになるよう、成長の軌跡をモデル化します。
~ケーススタディ~
エマージング株式におけるインパクト創出
一般的にエマージング市場は、先進国市場対比で環境・社会的課題に直面していることが多いと想定されます。また、同市場の企業の多くが、環境問題やサステナビリティの取り組みに遅れを取っており、資産運用会社がインパクト創出に当たって貢献する余地が大きいと考えられます。
AT Renew社の名前は「All Things Renew」の略称であり、様々な遊休品(一時的または恒久的に使用されない中古品)の再利用を目指すことを企業理念に掲げています。同社は中国で中古家電のリサイクルと下取りサービスを促進するプラットフォームを運営し、製品を再流通させることで製品のライフサイクルを長期化しています。中古電化製品の回収から再販に至るプロセスの促進を通じ社会にプラスのインパクトを与えており、2022年には、同社プラットフォームを通じて3,200万台の製品がリサイクルされ、取引されました。
シュローダーは、2022年から23年にかけて複数回にわたり同社に対してエンゲージメントを実施してきました。22年第1四半期には、中古電子機器の利用によって可能になる温室効果ガス排出削減量の推定値など、同社の環境問題に与えるインパクトの測定と開示を改善するよう同社と対話しました。その後公表されたサステナビリティ・レポートにおいて、同社は指摘事項のフィードバックを実施し、21年度に中古携帯電話の再利用を通じて464,000トンの炭素排出量を削減したと推定されることを記載したほか、適格廃棄物処理業者との提携を通じ、27万台の電子機器廃棄物を処理したこと、また22年度には43.2トンの電子機器廃棄物の削減を実施したこと等が明らかとなりました。同社は急成長する市場のリーダーであり、その影響力の増大と相まって利益率も改善しています。
インパクトは、経営改善や企業のサステナビリティ・パフォーマンスを超えたものであり、企業が何のインパクトをどのように世界に提供するかに着目します。またこれは、以下の米国企業の事例が示すように、インパクトはサステナビリティ・パフォーマンスを犠牲にするものではなく、追加的にもたらされるものと考えます。
~ケーススタディ~
米国小型株式のサステナビリティ・インパクト
米国の広範な小型株投資ユニバースには、機動性に富みかつダイナミックなビジネス・モデルを抱える優良企業が多く含まれます。その多くは過小評価されている可能性がある一方、SDGsに直接取り組むまたは大企業を通じた重要な製品・サービス提供をしている場合があります。
グラフィック・パッケージング社は、大手消費財メーカーのサステナビリティ目標達成に繋がる事業を行っている中小企業です。同社は、プラスチック製梱包商品に代わる紙製製品の開発において先進的技術を有しており、ファスナーや、電子レンジで温められる冷凍食品用の紙製ボウルなどを製作してきました。同社は規律ある資本配分政策に基づき、先進的な生産と最新設備への投資を実施してきており、2021年、同社は約350万トンの板紙を生産し、その26%が再生板紙でした。
シュローダーは、同社を訪問し、プラスチック包装から紙包装への移行をどのように考えているか、革新的な新製品を市場に投入するためにどのような努力をしているか、二酸化炭素排出量の削減と業務効率の改善に向けた取り組みについてのエンゲージメントを実施しました。
現在同社は、リサイクル率の向上と水使用量の削減を可能にする新しい施設を建設するため、多額の資本を投じています。また、既存工場におけるエネルギー効率改善方法についても議論しました。その結果、すべての工場でエネルギー監査を実施し、ボイラーの使用量を最適化し稼働時間を最大化するためのスマート・ユニット管理システムを導入したほか、交換予定のユニットについて耐用年数評価を実施するなどの取り組みを行っています。
また同社は、SBTiの検証に基づくスコープ1、2、3の排出削減目標を設定すべく手続きに入っています。その一環として、シュローダーは、意欲的な目標設定と、達成への明確なロードマップの確保のバランスをどのように設定するかについて同社と議論しました。
シュローダーは、SBTi排出量目標の策定とその実施、そして環境・社会に対してプラスのインパクト創出を促進する幅広い革新的製品について、グラフィック・パッケージング社との継続的なエンゲージメントを期待しています。
上場株式のインパクト投資の課題とは?
上場株式におけるインパクト投資には多くの機会が存在する一方で、シュローダーも策定に協力したGIINの「上場株式のためのインパクト投資ガイダンス」で指摘されているように、いくつかの課題も存在します。
サマリー
上記に示した課題は、上場株式におけるインパクト投資において、インパクトの測定と管理に関する厳格なフレームワークの構築の必要性を浮き彫りにしていると言えるでしょう。
一貫性: シュローダーのインパクト・フレームワークは、傘下のインパクト投資専門会社であるブルーオーチャードが20年以上にわたり蓄積してきた専門性に基づいて構築されており、資産クラスを問わず一貫したアプローチを採用しています。シュローダーは、プライベート・エクイティ、プライベート・デット、債券の戦略で用いる原則と同じ原則を上場株式の戦略にも適用しています。この一貫性は、シュローダーが提供するサービスの中核であり、誠実さをもってインパクトを拡大するというミッションの中核でもあります。シュローダーは、コアとなる原則である「意図(Intent)」、「貢献(Contribution)」、「測定(Measurement)」、そしてインパクト管理と測定のフレームワークが、上場株式を含む資産クラス全体で厳格に適用可能と考えます。
厳格性:シュローダーの自社開発インパクト・ツールキットにより、全投資先について、投資ライフサイクル(インパクト投資の開始から、年次モニタリング、エンゲージメント、エグジット、そして更にその後まで)を通じたインパクトの進捗を測定・監視することができ、ブルーオーチャードのB.Impact™フレームワークに組み込まれた洞察と学習を活用しています。当社の独立したガバナンス組織であるインパクト・アセスメント・グループ(IAG)は、インパクト・ユニバースに参加するためにすべての取引を審査し、経済的リターンとともに、ポジティブな変化をもたらす企業に真に投資していることを確認するための追加的な精査を行います。
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