【東芝】橋梁床版内部の健全度評価技術において、車両の重量・速度や橋梁の構造によらず統一基準で評価する手法を確立 ~橋梁補修調査へ適用し、2024年度中のサービス開始を目指す~
株式会社 東芝
統一基準で評価する手法を確立
~橋梁補修調査へ適用し、2024年度中のサービス開始を目指す~
概要
当社は、外観からは分からない橋梁のコンクリート床版内部の健全度を解析・可視化し、走行車両の重量・速度や橋梁の構造などによらず、統一した基準で評価する手法を確立しました。当社は、車両が橋梁を走行する際に路面で発生する微弱な波動を、床版下面に設置したセンサで取得・データ化し、その損傷度合いを解析して健全度マップとして可視化する技術を開発し、2022年に福岡北九州高速道路公社(以下、福岡高速)と共同でその効果を実証しました(*1)。実用化に向けては、本技術をさまざまな橋梁で活用できるようにする必要があり、今般当社は、走行する車両の重量・速度や橋梁の構造などの条件の変化が健全度マップに与える影響について、模擬橋梁を用いて福岡高速と検証を行いました。検証の結果、異なる条件下での計測はそれぞれ異なる評価結果となりましたが、当社は、評価結果を適切に補正することで、統一した基準で評価ができる手法を確立しました。本技術を用いることで、統一した基準で、橋梁の床版内部の健全度が分かるだけでなく、それぞれの床版の状態に応じた補修の計画策定・実施および補修効果の確認が可能となります。これにより、橋梁の老朽化対策のデジタル化を推進し、橋梁補修の効率化および社会インフラの長寿命化に貢献します。
当社は、東芝プラントシステム株式会社とともに、2024年度中に、本技術を活用した橋梁のコンクリート床版の健全性評価のサービス提供開始を目指します。
なお、今般開発した技術の詳細を10月31日~11月1日に東京・土木会館で開催される、第13回道路橋床版シンポジウムにて発表します。
開発の背景
社会インフラの長期的な安定稼働のため、インフラ保全の重要性が高まっています。特に国内では、高度経済成長期以降に多く整備された道路、橋、トンネルなどのインフラ構造物のうち、建設後50年以上を迎える施設の割合が加速度的に増加することが確実です。また、作業員の高齢化や生産年齢人口の減少による人手不足が現場作業などで一層顕在化しつつあります。また、2012年に山梨県で発生した笹子トンネル天井板崩落事故をきっかけに、2013年に道路法が改正されましたが、措置すべき施設数に対して人員や予算が不足するなどの理由で補修・修繕に着手できていないものもあり、安全で効率的なインフラ保全がより一層求められています。
橋梁の床版を補修する場合、通常、目視点検により外観からその劣化程度を判断し、補修範囲や工法を決めますが、内部の変状による劣化の進行は外観から分かりにくく課題となっていました。また、メリハリのある保全計画を実現するための優先度付けや、補修そのものの効果を把握するのが難しいことも課題となっています。補修に当たり内部の変状を加味した補修範囲・工法の決定や、優先順位に基づいた保全計画の策定ができれば、より適切な補修が可能となります。また、補修後、内部の損傷の改善状況を把握する手段があれば、補修漏れの見逃しなどによる再補修の手間がなくなり、効率的なインフラ保全を実現できます。
こうした課題に対して当社は、橋梁の外観からは分からない内部の変状を含めた劣化状態を可視化できる技術を開発し、福岡高速と共同で実証を行ってきましたが、実際の環境では、さまざまな車両が走行し、橋梁の構造も異なるため、異なる条件下でも統一した基準で評価できる手法が求められていました。
本技術の特長
そこで当社は、福岡高速と、(一社)日本建設機械施工協会 施工技術総合研究所の保有するテストコースに模擬橋梁を設置し、実際の橋では検証が困難なさまざまな条件下で走行試験を実施しました。この試験では、実際に高速道路で使用される舗装やコンクリート床版を再現した試験体を作成して模擬橋梁に設置し、実際の橋梁の床版の状況をリアルに再現しました。重量の異なる車両を用い、速度を変えて走行した結果、車両重量や舗装種類などの違いによって、健全度マップにおける損傷度合いが強く出たり、弱く出たりする影響が明らかとなりましたが、評価結果を適切に補正することで、本技術をさまざまな橋梁に適用し、正確に橋梁の床版内部の健全度を評価できることを確認しました。例えば、車両重量については、大型車では損傷度合いが弱く出ることが分かったため、対象となる橋梁の大型車混入率に応じて評価結果を適切に補正します。一方、車両速度については、極端に速度の遅い渋滞時以外は特に補正は必要ないことが分かりました。これらをもとに、計測対象となる橋梁の通行量などの統計データや構造の違いをもとに評価結果を適切に補正することで、状況が異なる橋梁でも統一した基準で評価できるようになります。
本技術は、従来の目視による点検では確認できなかった橋梁内部の損傷の抽出と、その損傷度合いの可視化を実現し、効率的で適切なインフラ補修による社会インフラの長寿命化に貢献します。
図1:模擬橋梁での検証の概要
今後の展望
当社は、東芝プラントシステム株式会社とともに、2024年度中に本技術を活用した橋梁床版の健全性評価のサービス提供の開始を目指します。また、本技術は、高速道路の橋梁に限らず、さまざまなコンクリート構造物に幅広く適用可能です。橋梁以外への適用範囲の拡大に向け、多様なコンクリート構造物での実証も進めていきます。さらに、本技術に関しては日本非破壊検査協会規格NDIS2434(*2)が制定されており、業界標準を目指しています。当社は本技術により、インフラの老朽化対策のデジタル化を推進し、サーキュラーエコノミーの実現に貢献してまいります。
なお、今回開発した技術には、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託研究業務「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト」の成果が含まれています。
*1 東芝プレスリリース(2022年7月)
https://www.global.toshiba/jp/technology/corporate/rdc/rd/topics/22/2207-01.html
*2 日本非破壊検査協会規格NDIS2434「能動弾性波計測手法を用いたコンクリート部材の損傷評価法」