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昭和医科大学(東京都品川区/学長:上條由美)富士山麓自然・生物研究所の柿嶋聡講師、京都大学の曽田貞滋教授(研究当時、現・名誉教授)らによる共同研究チームは、アメリカ東部に生息する周期ゼミ(素数ゼミ)の生活史制御に関する「4年ゲート仮説」を検証しました。周期ゼミは、17年または13年の厳密に制御された幼虫期を持ち、地域ごとに複数の種が同調して周期的に発生することで知られています。検証は大阪公立大学、静岡大学、東京科学大学、コネチカット大学、マウント・セント・ジョセフ大学、カリフォルニア大学の研究者らと共同で行われ、その結果、仮説通りに4の倍数年において臨界体重を超えた場合に、翌年春の成虫への変態を決定していることが示唆されました。また、遺伝子の発現変動から、越冬休眠により春まで羽化が持ち越されることが解明されました。なお、この研究成果は2025年8月27日、国際学術誌『Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences』にオンライン掲載されました。
【研究のポイント】
1. アメリカ東部に生息する周期ゼミ(Magicicada属)は、17年または13年の厳密に制御された幼虫期を持ち、地域ごとに複数の種が同調して周期的に発生することで有名。幼虫期間が素数年であることから、日本では「素数ゼミ」としても知られている。
2. セミは一般に幼虫期が長く、ほとんどのセミの幼虫は数年かけて一定のサイズ(臨界体重[1])に到達してから成虫に変態するため、成長速度が個体の間でばらつくことで、羽化までの年数もばらばらである。一方、周期ゼミでは何らかの方法で年数をカウントし、サイズの閾値と特定の年齢を合わせた羽化年齢の決定を行っているようだが、生物が十数年にもおよぶ年数を正確に測る仕組みは解明されていない。
3. 周期ゼミの終令幼虫は、羽化の前年(12、16年目)の秋に白眼から成虫と同じ赤眼になることが知られており、成虫への変態が決定するのは4の倍数年と考えられる(図1)。周期ゼミは生まれてから4の倍数年ごとに成虫変態への臨界体重を超えたかどうかをチェックする関門(4年ゲート[2])を持ち、超えていた場合、越冬後に成虫に変態(羽化)するという4年ゲート仮説を検証した(図2)。
4. 秋に採集された17年ゼミの16歳の幼虫のほぼ全て(97%)が赤眼で、臨界体重を超えていると推察された。11~15歳の終令幼虫のうち、12 歳の幼虫では一部の個体が赤眼で(12%)、赤眼の平均体重は白眼より大きかった。しかし、11歳、13~15歳の幼虫では、赤眼の幼虫はほとんどおらず(0.6%)、他の個体は体重が大きくても赤眼ではなかった。12歳で羽化決定をした個体は翌年13歳で羽化することになるが、これは17年ゼミで知られている4年早期羽化[3]に該当する。12は16とともに4の倍数であり、以上の結果は羽化決定が4年ゲートで臨界体重に基づいて行われるという仮説を支持する結果であった。
5. 幼虫の頭部での遺伝子発現を比較すると、赤眼の幼虫は外的刺激への反応に関わる遺伝子が多数発現し、特にオプシン遺伝子など光への応答に関与する遺伝子の発現が顕著に上昇しており、羽化に先立って視覚が獲得されていた。また、成虫への変態と脱皮に直接関わる遺伝子は越冬後の春(17年目)の羽化前になって発現量が上昇していた。周期ゼミでは越冬期があるため、赤眼になった後に休眠状態になり、成虫への変態(脱皮)が抑制されるものと考えられ、春に地表温度が一定の閾値に達した時に同調して一斉に羽化することが可能になっていると推察された。
6. 本研究では羽化に至る幼虫の発育成長過程と遺伝子発現に関する数多くの新知見が得られ、周期ゼミの生活史制御機構の解明に向けた突破口を開くことができた。今後は、幼虫の遺伝子発現やDNAメチル化の状態をより幅広い年齢・季節を通して調査し、幼虫の脱皮・変態の制御を解明する必要がある。
【論文情報】
・タイトル: When and how do 17-year periodical cicada nymphs decide to emerge? A field test of the 4-year-gate hypothesis
・著者: Namiho Saito, Satoshi Yamamoto, Satoshi Kakishima, Yutaka Okuzaki, Andrew Rasmussen, Diler Haji, Shota Nomura, Hiroyuki Tanaka, Takehiko Itoh, Jin Yoshimura, Chris Simon, John Cooley, Gene Kritsky, and Teiji Sota
・DOI:
https://doi.org/10.1098/rspb.2025.1306
<用 語>
[1] 臨界体重:昆虫の終令幼虫が変態を決定する閾値の体重。カメムシ類など半翅目昆虫(セミも半翅目)では終令幼虫が摂食して腹部が膨らみ、腹部の節間の伸長を神経が感知することで臨界体重への到達を感知しているという。
[2] 4年ゲート:昆虫の発育過程で、成長度合いなどに応じた生理的反応の感受性が高まる発育ゲート(関門)の1種として想定されるもの。変態決定に関わる遺伝子のDNAメチル化状態などが4年毎に変化することで、ゲートがオン・オフになることが想定されている。
[3] 4年早期羽化:予定された羽化年の前後に散発的に成虫の羽化が見られることがあり、はぐれもの(straggler)と称されている。17年ゼミが4年早く13年目に羽化するケースは比較的多いとされているが、13年ゼミでも17年ゼミでも予定年の4年前または4年後に一部の個体が羽化する事例が確認されており、これをもとに「周期ゼミは4年を単位として幼虫期間を変える可塑性を持つ」という仮説が立てられている。
(参考:京都大学公式サイト)
・17年ゼミはどう羽化のタイミングを決めているのか?―野外調査による4年ゲート仮説の検証―
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2025-08-28-1
▼本件に関する問い合わせ先
昭和医科大学 富士山麓自然・生物研究所
講師 柿嶋 聡
E-mail: kakishima@cas.showa-u.ac.jp
▼本件リリース元
学校法人 昭和医科大学 総務部 総務課 大学広報係
TEL: 03-3784-8059
E-mail: press@ofc.showa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/