【玉川大学学術研究所長 小野正人教授 共同研究成果】高校生が授業中に世界的貴重なマルハナバチ化石を発見 ―化石は30万年前の全長24mmの大型女王バチ―

玉川大学

玉川大学学術研究所長の小野正人教授と慶應義塾名誉教諭(慶應義塾横浜初等部非常勤講師)の相場博明先生が共同で報告した約30万年前のマルハナバチ化石についての成果が、日本古生物学会の国際誌『Paleontological Research』のオンライン版で公開されました。  慶應義塾名誉教諭(慶應義塾横浜初等部非常勤講師)の相場博明先生と玉川大学学術研究所長の小野正人教授は、約30万年前のマルハナバチ化石を報告しました。この化石は、2024年10月に行われた慶應義塾湘南藤沢高等部の理科授業(選択地学)中に、当時高校3年生の市川綾萌さんが岩石を割って発見したものです。その岩石は、栃木県那須塩原市にある「木の葉化石園」により、その敷地に分布する中部更新統の塩原層群の地層(30万年前)を掘り出し教材として提供されたものです。  発見した化石は、頭部以外のほぼ全体が保存されており、推定全長は24mmと大型であることから、マルハナバチの女王バチであることがわかりました。マルハナバチは、ミツバチ科の仲間で、世界から約260種、日本からは15種が報告されています。重要な花粉媒介昆虫で、ハウス栽培などの人工交配作業の代わりとして農業に大きな貢献をしています。また、丸い形と全身がふかふかした毛に覆われていることから「空飛ぶぬいぐるみ」とも呼ばれ、とくにヨーロッパでは人気の高い昆虫です。  しかし、マルハナバチの化石はこれまで世界からは、わずか14種しか見つかっておらず、標本数も15個だけです。それらはすべて始新世から中新世までの約3,600万年前から1,000万年前の間にしか発見されていませんでした。またそれらはすべて絶滅種であり、それ以降の新しい時代からは発見されていませんでした。  今回発見された化石は、中期更新世の約30万年前のもので、世界でもっとも新しい時代のマルハナバチ化石です。現在の日本にも分布するトラマルハナバチにもっとも良く似た形態をしており、トラマルハナバチ比較種と同定されました。  マルハナバチの化石が、現生種に同定されたのは世界で初めてです。鮮新世から更新世にかけての時代は、多くの昆虫が種レベルの分化が起きた可能性がある時代なので、この時代のマルハナバチ化石が見つかり、現生種に比較される種と同定されたことは学術的に意義があり、マルハナバチの多様性とその進化を探る上での貴重な資料になります。  本研究の成果は、2025年10月6日に日本古生物学会の国際誌『Paleontological Research』のオンライン版で公開されました。 1.研究の経緯  化石は、2024年10月に、慶應義塾湘南藤沢高等部(神奈川県藤沢市)で行われた3年生の「選択地学」の授業中に、市川綾萌さん(現在慶應義塾大学法学部在籍)が発見したものです。授業を担当したのは、竹田大樹教諭であり、相場博明名誉教諭は、その授業の支援を行っていました。  相場博明名誉教諭は、化石はマルハナバチ属のものであると同定し、ミツバチの専門家である玉川大学の小野正人教授に研究の協力を依頼しました。その結果、化石は現在の日本に生息するトラマルハナバチ(図1)にもっとも形態が似ていることからトラマルハナバチ比較種と同定されました。  授業中に高校生が学術的に貴重な化石を発見したのは、2年前(2023年12月)にもありました。慶應義塾高等学校(神奈川県横浜市)の理科の授業中に、当時高校3年生の八谷(やたがい)航太さんがセンチコガネの化石を発見し、それが新種であることがわかり、日本古生物学会の国際誌で報告されました。授業中に新種の昆虫化石が見つかったのは世界初の出来事であり大きなニュースになりました。高校生が授業中に学術的に貴重な化石を発見したのは今回で二度目になります。 2.標本の価値・重要性  マルハナバチは、英語では、バンブルビー(Bumblebee)と呼ばれ、全身を柔らかい毛で覆われた大型の丸い体から「空飛ぶぬいぐるみ」と呼ばれ、とくにヨーロッパでは人気のある昆虫です。ミツバチ科の仲間で多くの花粉を運ぶことから、世界中で花粉媒介昆虫として温室での果菜類などの交配などに利用されています。世界に約260種、日本には15種が分布しています。しかし、世界的にその数は減少しており将来の絶滅が危惧されています。  マルハナバチの化石は世界的に少なく、見つかっているのはわずか14種です。標本数も15標本しかありません。すべてが、始新世から中新世の約3,600万年前から1,000万年前のもので、現在は生きていない絶滅種と同定されています。それより新しい時代からの化石は見つかっておらず、マルハナバチの現在の種の多様性とその進化は謎とされていました。鮮新世から更新世にかけての時代は、生物が種レベルの分化が起きた可能性が高い時代とされています。よって、今回の約30万年前の中期更新世の地層からのマルハナバチの化石の発見は、その生物の種レベルでの進化を探る上で貴重な資料になります。  化石の頭部は保存されていなかったものの、胸部、腹部、前翅、脚の一部が保存されており、背面側の印象が保存されているもの(図2左)と腹面側の印象が保存されているもの(図2右)が得られました。翅脈の細かい部分(図3)まで観察でき、腹部の黄褐色の長い毛や、脚に生えている毛など見事に保存されていました。化石は大型であり、推定全長24mmの女王バチであることもわかりました。  ハチの化石は、昆虫化石の中では比較的多く産出しており、コハクの中からも多くのハチの化石が見つかります。日本でも、中生代と新生代の日本各地から多くのハチ化石が報告されています。栃木県の那須塩原市からも30種類ほどのハチ化石が知られていますが、それらのほとんどは1cm以下の小さなものです。  今回の化石はハチ化石としては世界最大級の大きさとなり、その保存状態はもっとも良いものと言えます。また日本からのミツバチ科の化石は、1970年に長崎県壱岐島の中期中新世からのものだけでしたが、今回の発見はその後55年を経て日本で2番目のミツバチ科化石となります。 3.なぜ、授業中に化石が発見されるのか  栃木県那須塩原市にある自然史博物館の「木の葉化石園」では、握り拳大の岩石ブロックを袋に詰めてお土産用として販売していました。1995年に相場博明名誉教諭(当時慶應義塾幼稚舎教諭)は、それを教室内に持ち込んで化石採集を行う授業という指導法を開発し、1997年に論文として公表しました。そして、「木の葉化石園」の加藤正明館長は、教育機関限定で岩石ブロックを販売してくれるようになりました。  その結果、この方法は日本中に広がり、現在は年間10万個以上の岩石ブロックを、1,000校以上の学校と、多くの博物館、公民館、教育委員会などが取り入れて、理科の授業や地域の化石採集イベントとして活用するようになりました。本来ならば化石を採集するためには、子供を野外に連れ出さなければなりません。しかし、この方法により子供たちに教室内で化石採集の経験をさせることが可能になりました。  授業中に新種など学術価値の高い化石が発見されることは、世界的に例のないことです。偶然かもしれませんが高校生がこのような学術的価値の高い化石を発見したのは、1回目が新種のコガネムシの慶應義塾高校の3年生男子、2回目が今回の慶應義塾湘南藤沢高等部の3年生女子の発見でした。そして、それぞれの授業者が昆虫化石の研究者である相場博明名誉教諭と知り合いだったことから学術研究へと進みました。  「木の葉化石園」では、今後も引き続き、教育機関に岩石を提供してくださることになっており、この実習がさらに日本全体に広がっていくため、今後さらに貴重な化石が授業中に発見される可能性があります。相場博明名誉教諭は、授業中に昆虫などの珍しい化石が出た場合は知らせてほしいことを「塩原化石教育プロジェクト」で呼びかけており、学術的価値のある化石は個人で所有するのでなく、博物館などの公的機関で保存されるべきであることを伝えています。実際に現在200点ほどの昆虫化石が、授業中に発見されて「木の葉化石園」に保管されるようになりました。  今回の事例は、教育における実践が学術的研究へつながったという世界的に珍しい事例です。この事例は今後の化石研究の一つのモデルケースになる可能性を示すだけではなく、生徒にインスピレーションを与え、潜在能力を引き出すアウトリーチ活動として意義深いものと考えられます。 <原論文情報> 【題 名】 A fossil bumblebee (Hymenoptera, Apidae, Bombini) from the Middle Pleistocene Shiobara Group in Nasushiobara, Tochigi, Japan (栃木県那須塩原市の中部更新統塩原層群からの、マルハナバチ化石(ハチ目、ミツバチ科、マルハナバチ族)) 【著者名】 Hiroaki Aiba, Masato Ono 【掲載誌】 Paleontological Research 【論文URL】 https://www.jstage.jst.go.jp/article/prpsj/29/0/29_250013/_article/-char/ja 【DOI】 https://doi.org/10.2517/prpsj.250013 <用語解説> ・マルハナバチ  マルハナバチ(丸花蜂)とは、ミツバチ科マルハナバチ属のハチ。世界で約260種、日本からは15種が知られている。アジア中央部の草原地帯に分布の中心を持ち、ヨーロッパ、東アジア、東南アジア、南北アメリカ大陸にも分布する。日本でも多くの農家がトマトやナスなどの授粉(花粉媒介)に利用している。おとなしいハチで人を刺さない。ブンブンという音を出すことから、英語ではbumblebeeと名付けられた。 ・トラマルハナバチ:Bombus (Megabombus) diversus  国内では、北海道、本州、四国、九州、対馬に広く分布する。北海道と本州以南では、亜種が異なる。体全体が黄褐色の長い毛で覆われ、腹部の先端は黒褐色を呈している。舌が長く、蜜腺が細長い距の奥にある花からも蜜を吸うことができる。春に越冬から覚めた女王バチが1匹で巣造りを開始し、働きバチを育てて夏から秋には大きなコロニーを形成する。晩秋には多くの次世代の新女王バチが巣立ち、オスと交尾して越冬に入る。母親の女王バチ、働きバチ、オスは全て死んで巣は廃墟となり、1年周期の生活史を営んでいる。女王バチの体長は20~25㎜程度と大型であるが、働きバチは、体長10~18㎜程度と小ぶりで個体差が大きい。 ・翅脈(しみゃく)  昆虫の翅(はね)に見られる筋状の脈で、いくつかに分岐しており補強する機能がある。種によって特徴があるため、分類上重視されている。 ・地質年代  始新世:およそ5600万年前から3390万年前までの時代、漸新世:およそ3390万年前から2303万年前までの時代、中新世:およそ2303万年前から533万年前までの時代、鮮新世:およそ533万年前から258万年前までの時代、更新世:およそ258万年前から1万1700年前の時代。 ・塩原化石教育プロジェクト ( https://www.jissenken.or.jp/shiobara/news.html )  ① 塩原木の葉石でより多くの人が化石採集の魅力を経験できること。  ② 指導者が情報を共有し、より効果的な指導ができるようになること。  ③ 採集された学術的価値の高い化石を保存すること。  この3つを目標に、2015年に設立されたプロジェクト。 ▼本件に関する問い合わせ先 学校法人玉川学園 教育情報・企画部広報課 住所:東京都町田市玉川学園6-1-1 TEL:042-739-8710 FAX:042-739-8723 メール:pr@tamagawa.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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