【名城大学】高層ビル街でも正確測位 確率的なアプローチで従来手法を上回る新手法を開発

名城大学

航空機や自動車、バスなどの自動運転車両をはじめ、屋外を移動するロボットにとって、正確な絶対位置の把握は安全性や信頼性の確保に直結する重要な課題であり、さらなる精度向上が求められています。 名城大学大学院理工学研究科の目黒 淳一准教授(ロボット工学/ITS)、新美 大樹 修士課程2年らのグループは、全球測位衛星システム(GNSS)1)による測位が劣化しやすい都市環境においても、高精度な位置推定を実現する新しい測位手法を提案しました。 本研究成果は、2025年11月17日にロボティクス分野において世界的に評価の高い国際学術誌「IEEE RA-L(Robotics and Automation Letters)」に掲載されました。 【本件のポイント】 ・都市環境での安定した高精度測位:  ビルによる信号遮蔽や反射が多い都市環境において、従来広く利用されてきた高精度測位手法を上回る安定性と精度を実現 ・確率的なアプローチにより複雑処理を排除:  従来不可欠とされてきた衛星信号の波の数を正確に数え上げる「整数アンビギュイティ」2)の処理を行わない確率的なアプローチにより、信号が途切れやすい場所でも頑健な位置推定を実現 ・実環境での性能実証:  名古屋 / 東京のオフィス街・高架下など、計6箇所の過酷な都市環境で実証実験を実施し、従来手法では高精度な測位が困難な状況下においても、高精度に自車位置を推定できることを実証 【研究の背景】 GNSSは、真の意味で地球上の絶対位置を直接推定できる唯一の手段であり、自動運転車両をはじめとする屋外を移動するロボットの位置推定に広く利用されています。特に、RTK-GNSS 3)は、衛星から得られる搬送波位相4)の整数波長の数(整数アンビギュイティ)を正しく決定することで、衛星-受信機間の正確な距離を知ることができ、cm精度の位置推定を実現します。しかし、特に都市環境では衛星信号が構造物等に反射し、受信機に到達する「マルチパス」5)が発生します。これにより、整数アンビギュイティの決定に失敗し、位置推定精度が数メートル単位で劣化してしまうことが大きな問題でした。そのため、都市環境のようなマルチパスが頻発するGNSSにとって過酷な状況下でも、安定して高精度な位置を推定できる新たな技術の確立が求められていました。 【研究内容】 本研究ではGNSS単独で、都市環境においても高精度な位置推定が可能な新たな測位手法を提案しました(図1)。提案手法の最大の特徴は、従来の高精度測位において必須であった「整数アンビギュイティの決定」を行わない点です。具体的には、搬送波位相の「小数部分」に注目し、複数の位置仮説においてその尤もらしさを評価する確率的なアプローチを採用することで、整数値を特定せずに位置を推定することを可能にしました。ただし、このアプローチで搬送波位相を正しく評価するためには、位置の仮説が真の位置周辺に正しく分布している必要があり、それには高精度な速度推定が不可欠となります。 そこで本手法では、他分野で利用されていた「Rao-Blackwell化」6)と呼ばれる手法をGNSS単独測位に導入し、計算負荷を抑えながら位置と速度をリアルタイムに同時推定する枠組みを構築しました。さらに、速度推定において突発的な外れ値が観測された場合でも、その影響を最小限に抑える「ロバスト推定」7)を組み込みました。これにより、GNSSにとって過酷な状況下でも安定して位置仮説を維持できるようになり、結果として高精度な測位を実現しました。 次に、実際に、名古屋および東京の計6箇所の都市環境において実車データを用いた検証を行いました(図2)。結果として、提案手法は過酷な都市環境において、従来のRTK-GNSSを上回る精度と有効性を実証しました(表1)。 【今後の展開】 本研究の提案手法は、GNSSにとって過酷な状況下でも高精度な測位が可能であり、従来広く利用されてきたRTK-GNSSの弱点を克服する技術として、自動運転や屋外自律移動ロボットの実用化を大きく後押しするものです。今後は、GNSS信号が完全に遮断されるトンネルや高架下などの環境においても高精度な位置推定を継続できるよう、カメラやレーザー測距センサ(LiDAR:Light Detection And Ranging)、慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)といった他のセンサ情報と統合した複合ナビゲーションシステムへの拡張も行っていきます。これにより、あらゆる屋外環境下で高精度な位置情報を提供することを可能にし、安全かつ安心な自動運転社会の実現に貢献することを目指します。 【用語の解説】 1) 全球測位衛星システム GNSS:Global Navigation Satellite System。GPS(米国)、QZSS(日本)、Galileo(欧州)、BeiDou(中国)などがある。 2) 整数アンビギュイティ:搬送波位相を用いて距離を測る際に生じる、「波の数が全部で何個あるか」という整数の不明分のこと。波の形は一定の繰り返しであるため、受信機側では半端な位相は分かるが波の総数(整数値)までは分からない。これを特定しないと正しい距離が求められない。 3) RTK-GNSS:Real-Time Kinematic GNSS。 位置が既知の基準点からの補正データを受け取りながら位置を推定する高精度測位手法。通信環境や受信環境などの条件が良ければ、数cmの精度を実現できる。 4) 搬送波位相:GNSSの電波に含まれる規則正しい波の位相を観測した値。位相は非常に細かく計測できるため、距離の変化を高精度に捉えられる精密な定規として使われる。 5) マルチパス:構造物の壁面などに電波が反射してから受信機に届く現象。直接波よりも経路が長くなるため、測位誤差の最大の原因となる。 6) Rao-Blackwell化:求めたい確率を因子分解し、線形なモデルを持つ確率と非線形なモデル持つ確率に分離する統計的手法。 7) ロバスト推定: 観測データの中にノイズや外れ値が含まれていても、その影響を受けにくくする統計的な推定手法。 【著者のコメント】 GNSSは、地球上の絶対位置を直接推定できる技術であり、自動運転や屋外ロボットにとって不可欠な基盤です。一方で、GNSSを専門としない方の中には、都市部では「GNSSはあまり頼りにならない」という認識をお持ちの方も少なくありません。しかし実際には、GNSSそのものの限界というよりも、マルチパスに対して、これまでの使い方・アルゴリズム側が十分に対応しきれていなかったことが要因です。本研究では、GNSSのポテンシャルを引き出せば、都市部であってもGNSS単独で安定して高精度な位置推定が可能であることを示しました。本成果を足掛かりに、都市部におけるGNSS測位の新しい常識を切り拓き、自律移動システムの発展に寄与することを目指します。(新美 大樹 修士課程2年) 本研究は、大学院生である新美さんが中心となり、都市環境におけるGNSS測位という実環境では特に難易度の高い課題に取り組んできた成果です。研究の過程では、学外の共同研究者からも多くの助言を受けながら、実験設計や解析手法を地道に検討し、確率的なアプローチに基づく新しい測位手法としてまとめ上げました。本成果は、次年度のロボット分野のトップカンファレンスであるIEEE International Conference on Robotics and Automation (ICRA)での発表も予定されています。GNSS単独測位の新たな可能性を示す研究として、今後の自動運転や屋外自律移動システムの発展に寄与することを期待しています。(目黒 淳一 准教授) 【お問い合わせ先】 名城大学 理工学部 メカトロニクス工学科  准教授 目黒 淳一  E-mail: meguro@meijo-u.ac.jp 【取材・報道に関すること】 名城大学渉外部広報課  TEL: 052-838-2006  E-mail: koho@ccml.meijo-u.ac.jp ▼本件に関する問い合わせ先 名城大学渉外部広報課 住所:愛知県名古屋市天白区塩釜口1-501 TEL:052-838-2006 FAX:052-833-9494 メール:koho@ccml.meijo-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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