同じ乳酸菌でも、生存状態で働きが変わる。生きた乳酸菌と不活化乳酸菌が腸細胞に及ぼす作用の違いを解明
研究のポイント
- マイクロ流体共培養デバイス(注1)を用いて、生きた乳酸菌と小腸上皮細胞の同時培養を実現した。
- 同一乳酸菌であっても、生菌は腸細胞の代謝を、不活化菌は免疫応答を主に活性化することを明らかにした。
- 乳酸菌を目的に応じて「生菌」または「不活化菌」として使い分ける新たな機能設計の可能性が示された。
腸内細菌は、免疫機能や代謝調節など、健康維持において重要な役割を担っています。なかでも、乳酸菌に代表されるプロバイオティクス(注2)は、健康に有益な生きた微生物として広く研究・活用されています。一方で、プロバイオティクスの効果は細菌の生存性に依存するため、温度や酸素、胃腸内環境の影響を受けやすいという課題があります。
近年では、不活化した微生物やその構成成分・代謝産物であるポストバイオティクス(注3)にも注目が集まっていますが、生菌と不活化菌が腸内でどのように異なる作用を示すのかについては、十分な知見が得られていませんでした。これは、腸内細菌と小腸上皮細胞(注4)を同時に培養する実験系が、これまで技術的に困難であったためです。
研究の内容・成果
本研究では、マイクロ流体共培養デバイス(注1)を用いて、生きた乳酸菌と小腸上皮細胞を同時に培養できる実験系を構築しました。本手法により、腸細胞のバリア機能を維持した状態で、生菌および不活化菌の影響を直接比較することが可能となりました(図1)。
Lactiplantibacillus plantarum JCM 1149T株の生菌および加熱処理した不活化菌を用い、ブタ小腸上皮細胞の反応を網羅的に解析しました。電子顕微鏡観察、RNA sequencing解析に加え、細菌側についてもトランスクリプトーム解析、メタボロミクス解析、リピドミクス解析を行いました。
RNA sequencing解析の結果、生菌との共培養では、乳酸菌による酸素消費に伴い、低酸素応答や解糖系など代謝関連遺伝子の発現が増強されることが明らかになりました(図2)。一方、不活化菌との共培養では、NF-κB経路(注5)を中心とした免疫関連遺伝子の発現が顕著に増強しました。また、加熱処理によって乳酸菌表面の構造が大きく変化することが確認され、この構造変化が免疫応答誘導に寄与している可能性が示されました(図3)。
さらに、生菌との共培養では脂質合成関連遺伝子の発現が増強し、9,10-DiHOMEや12,13-DiHOMEといった脂質メディエーターが、核内受容体型転写因子PPARγを介して腸細胞の代謝変化に関与している可能性が示されました。
以上により、同じ乳酸菌Lactiplantibacillus plantarum JCM 1149T株であっても、生菌は代謝応答を、不活化菌は免疫応答を主に活性化することが明らかとなりました(図4)。
経上皮電気抵抗(注6)を継時的に測定することにより、細胞のタイトジャンクション(注 7)を維持したまま、細菌と共培養できていることを確認することができる。
同じ条件のサンプルは近くに、異なる条件のサンプルは離れて分布しており、条件ごとに細胞内の遺伝子の発現が大きく異なっていることが示された。
加熱処理をすると、顕著な表面の凹凸と膜の損傷が見られた。
今後の展開
本研究は、「乳酸菌は必ずしも生きていなければならないのか」という問いに対し、新たな科学的根拠を提示するものです。今後、乳酸菌の状態による作用の違いをさらに詳細に解明することで、代謝改善や免疫機能調節など、目的に応じた食品・機能性素材への応用が期待されます。
また、本研究で用いた共培養デバイスは、微生物と生体細胞の相互作用を解析する新たな研究プラットフォームとして、プロバイオティクス研究や食品機能研究の発展に貢献すると考えられます。
当社は、お茶をはじめとする自然由来素材の価値を科学的に解き明かす研究を、長年にわたり継続してきました。今後も産学連携による基礎研究を大切にしながら、発酵や微生物を含む幅広い研究領域に取り組み、人々の健やかな暮らしに資する知見の創出を目指してまいります。
タイトル:
Live and heat-treated Lactiplantibacillus plantarum induce distinct metabolic and immune responses in intestinal epithelial cells
掲載誌:
iScience
著者:
Kaho Matsumoto, Yuta Takada, Yoshiya Imamura, Hina Yoshida, Kazuhiro Sonomura, Mikako Takahashi, Nobuko Moritoki, Tomoko Shindo, Junya Yamamoto, Leonardo Albarracin, Wakako Ikeda-Ohtsubo, Masatoshi Hori, Julio Villena, Fu Namai, Yuji Tsujikawa, Toyoyuki Hashimoto, Keita Nishiyama*, Haruki Kitazawa*
松本夏歩、髙田悠太、今村圭哉、吉田飛菜、園村和弘、高橋実花子、盛一伸子、信藤知子、山本純也、レオナルドアルバラシン、大坪和香子、堀雅敏、フリオビジェナ、生井楓、辻川勇治、橋本豊之、西山啓太、北澤春樹
*責任著者
(注1)マイクロ流体共培養デバイス:微小な流路を用いて細胞や微生物を制御しながら同時に培養できる装置。
(注2)プロバイオティクス:健康に有益な働きをもたらす生きた微生物のこと
(注3)ポストバイオティクス:不活化した微生物や、その構成成分・代謝産物など、生きていなくても健康効果をもたらす物質のこと。
(注4)小腸上皮細胞:小腸の表面を覆う細胞で、栄養の吸収や外部からの異物の侵入を防ぐ役割を担う。
(注5)NF-κB経路:免疫や炎症反応を制御する代表的な細胞内シグナル経路。
(注6)経上皮電気抵抗:細胞が作るバリアの強さを電気を使って測定する方法です。体内では、細胞が隙間なく並び、物質や細菌が簡単に通り抜けない様に壁のような役割をしています。実験では、細胞の層に弱い電気を流し、その電気の通りにくさ(電気抵抗)抵抗を測定します。細胞同士の結合がしっかりしていて隙間が少ないほど電気は通りにくくなり、経上皮電気抵抗の値は高くなります。
(注7)タイトジャンクション:細胞と細胞の間にある結合構造の一つで、隣り合う細胞同士をつなぎ合わせる役割を持っています。
