20代の低体重・肥満体重履歴がその後のHbA1cに与える影響を明らかに
本研究成果は、学術ジャーナル「Nutrients」で発表され、併せてオンライン版が2026年5月12日に公開されました。
論文URL : https://www.mdpi.com/2072-6643/18/10/1532
<研究成果のポイント>
- 20代で低体重と言われたことのある人(UW20s_ever)、20代で肥満と言われたことのある人(OW20s_ever)におけるHbA1cの推移、HbA1c ≥ 5.6%のリスク上昇を調べた。
- OW20s_everは男女ともHbA1c値が一貫して高かったが、HbA1cの局所的な傾きは女性では35歳および45歳、男性では25歳で大きかった。
- UW20s_everは女性の25歳および35歳時に限って正常体重群より低いHbA1c値を示した。
- OW20s_everは男女ともにHbA1c≥5.6%のリスク上昇と関連した。一方、UW20s_everは女性のみリスク低下と関連していた。
- 男女で20代の低体重・肥満履歴がHbA1cへ及ぼす影響が異なることが示された。
<背 景>
シンデレラ体重という言葉があるように、若い女性の低体重は日本では頻度が高く、社会的な関心が高まっています。一部の学会でも低体重・低栄養症候群としてとりあげられていますが、日本における実態は不明です。
私たちは若い低体重女性でビタミン欠乏を伴う頻度が高いこと、低体重女性では体重とは独立してリンパ球数と体脂肪率が関係し、体脂肪の意義をこれまでに報告しました。さらに低体重女性の中でもBMI18-19付近の方が一番、腸内細菌の多様性に加え、食事の多様性も良好であることを報告しました。そのため一括りに低体重といってもいくつかのサブグループに分かれるのではないかと考えました。さらに、低体重の期間がいろいろな低体重の副作用(今回はHbA1c)に影響すると考えました。
これまで、肥満が糖代謝障害の主な原因であることは広く知られており、多くの縦断研究では、体重増加がHbA1c値および耐糖能障害の発症率の上昇と関連していることも報告されています。しかし、若年女性における「低体重」と糖代謝異常リスクとの関連の解釈は、用いる評価指標によって異なる場合があります。例えば、低体重の若年日本人女性に焦点を当てた報告では、75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を用いて評価した耐糖能障害(IGT)の頻度が、正常体重女性よりも高いという報告があります。一方、一部の横断的データでは、HbA1cを指標とした場合、低体重の若年女性は正常体重女性と比べてHbA1c値に明確な差は示されていません。OGTTは一定量のグルコース(成人は75 g)を負荷するため、体格の小さい集団では相対的な負荷量が大きくなる可能性があります。さらに、OGTTは短期的な耐糖能を評価するのに対し、HbA1cはより長期間の平均血糖値を反映するため、OGTTにもとづくIGTの所見とHbA1cベースの所見との間に乖離が生じることがあります。また、これらの知見の多くは横断研究にもとづいており、体型の違いが個人内で経時的なHbA1c変化(Trajectory)に与える影響についての検討は十分行われていませんでした。
<研究手法・研究成果>
本研究では対象者を20代のBMI履歴に従って、①20代を通じて体重が正常範囲内にあった者(NW20s)、②20代のうち一度でも低体重であった者(UW20s_ever)、③20代のうち一度でも過体重であった者(OW20s_ever)の3つのグループに分類しました。最近の我々の知見は、若年成人期の低体重がしばしば正常体重下限近くに集中し、検査年度によって変動することを示唆しています。したがって、履歴に基づく分類は、一時点の横断的な定義よりも若年成人の低体重に関する関連表現型をより適切に捉えられる可能性があります。性別で層別化した後、推定周辺平均(EMMs)および局所傾きを用いてHbA1cの縦断的な推移を評価し、同じ研究枠組み内でKaplan–Meier法およびCox回帰分析を用いてHbA1c ≥ 5.6%の初回発現までの期間も検討しました。経過ベースおよび閾値ベースの分析を組み合わせることで、20代の体重履歴が後のHbA1c調節に対し、性依存的かつ非対称な関連を示すかどうかを明らかにすることを目指しました。女性では、UW20s_everに属する者の25歳および35歳時点でのHbA1c が、NW20sより有意に低く、またUW20s_everはHbA1c ≥ 5.6%に対するCoxハザードもより低いことがわかりました。対照的に、OW20s_everは女性・男性ともに高いHbA1c値と関連していました。重要なことは加齢に伴うパターンは性別で異なっており、男性ではOW20s_everのローカルスロープは主に25歳時点でNW20sより大きかったのに対し、女性ではOW20s_everのローカルスロープが高年齢でも大きいままでした。結果のまとめを図で示します。
<今後の展開>
本研究の結果は、20代における低体重および過体重の履歴が単なる鏡像的な曝露ではなく、むしろ性依存性および非対称的にその後のHbA1c調節と関連していることを示唆します。特に、20代の過体重の履歴は両性において将来のHbA1c関連リスクの増加と関連し、低体重の履歴は女性に限ってHbA1c関連リスクの低下と関連しました。これは、横断研究のみでは捉えられなかった新規の縦断的観点です。今後は、体組成、脂肪分布、月経やその他の生殖関連ホルモン情報を取り入れた大規模研究により、これらの性・年齢に関連した違いの基盤となるメカニズムの解明が必要となります。
<用語解説>
※1 HbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー):血液検査項目の一つで、過去1〜2カ月の高血糖の指標。
<文献情報>
論文タイトル:Sex-Dependent and Asymmetric Associations of Bodyweight History in the Twenties with Later HbA1c Trajectories in a Japanese Occupational Cohort. Nutrients 2026, 18, 1532.
著者:飯塚勝美1、平岩衣里1、2、松浦瞳1、2、柳ことね3、垣内清美3、出口香菜子1、成瀬寛之3
所属:
- 藤田医科大学 医学部 臨床栄養学講座
- 藤田医科大学 医学部 学生
- 藤田医科大学 健康管理部
