血中サイトカイン情報から小児心筋炎の病態を予測する機械学習モデルを開発

学校法人藤田学園

― サイトカイン情報と機械学習によって予後予測に重要な因子を抽出 ―

藤田医科大学(愛知県豊明市)医学部情報生命科学講座の国田勝行准教授(兼:精神・神経病態解明センター計算科学部門)、刈谷豊田総合病院 小児科(兼:藤田医科大学医学部小児科学講座)の鈴木孝典医師、あいち小児保健医療総合センター(愛知県大府市)循環器科の野村羊示医師、奈良先端科学技術大学院大学(奈良県生駒市)先端科学技術研究科バイオサイエンス領域のSihuan Jing大学院生、同大学 データ駆動型サイエンス創造センターの作村諭一教授(兼:先端科学技術研究科バイオサイエンス領域)らの研究グループは、血中サイトカイン※1情報から小児劇症型心筋炎(Fulminant myocarditis; FM)※2の死亡リスクを予測する機械学習※3モデルを開発しました。本研究では、小児FM患者を対象に、入院時に測定されたサイトカインと臨床指標を統合し、機械学習モデルを用いて予後の判別解析を行いました。その結果、TNF-αをはじめとする複数のサイトカインが死亡リスクと強く関連することを明らかにしました。さらに、サイトカインを組み合わせたモデルは、従来の臨床指標のみを用いたモデルを上回る予測性能を示しました。本成果は、小児劇症型心筋炎における早期リスク評価や治療戦略の最適化に貢献します。また、本解析手法は症例数が限られる小規模データに対しても有効に機能することを示しており、他の希少疾患の解析への応用も期待されます。
本研究成果は、国際学術誌「Scientific Reports(サイエンティフィック・リポーツ)」において、2026年4月24日にオンライン早期公開版(Article in Press)として公開されました。
論文URL:https://www.nature.com/articles/s41598-026-50260-4


<研究成果のポイント>
  • 小児劇症型心筋炎の死亡リスクを、血中サイトカイン情報と機械学習により高精度に予測
  • TNF-αを中心とする7種類のサイトカインを予後予測に重要な因子として抽出
  • サイトカイン情報の導入により、従来の臨床指標のみと比べて予測性能が向上


<背 景>
心筋炎は、ウイルス感染などを契機として急性心不全や致死性不整脈を引き起こす重篤な疾患です。特に劇症型心筋炎は、小児において急速に重症化し、致死的な不整脈や心原性ショックを伴う極めて重い病態です。しかし、その進行は急激であり、どの患者が重症化・死亡に至るかを早期に予測することは困難です。炎症に関わる「サイトカイン」は病態に深く関与することが知られているものの、複数のサイトカインがどのように組み合わさって予後に影響するかは、これまで十分に解明されていませんでした。


<研究手法・研究成果>
本研究では、2012年から2022年にかけて収集された小児劇症型心筋炎患者21例(生存14例、死亡7例)を対象に解析を行いました。各患者について、入院時に測定された37種類のサイトカインおよび14の臨床指標、計51項目のデータを統合し、機械学習モデルの一つである部分最小二乗判別分析(PLS-DA)モデルを用いて解析しました。モデル評価にあたっては、小規模データに特有の過学習やデータ漏洩を防ぐため、データの分け方を変えながら層化3分割交差検証を100回繰り返す手法を採用しました。さらに、各因子の重要度を評価する指標として、Variable Importance in Projection(VIP)※4値を算出し、予後予測における重要因子をランキング化しました。その結果、死亡予測に寄与する重要な因子として、15種類のサイトカインと3つの臨床指標(pH、乳酸値、CK-MB)が同定されました。特に、TNF-α、IL-6、IL-8、IL-15、MIP-1α、M-CSF、IP-10の7種類のサイトカインは、統計学的にも有意であり、かつ機械学習モデルにおいても高い重要度を示しました。中でもTNF-αは最も高い寄与度を示し、小児劇症型心筋炎における死亡リスクと強く関連する主要なバイオマーカーである可能性が示唆されました。加えて、サイトカイン情報を組み込んだモデルは、臨床指標のみを用いたモデルと比較して高い予測性能を示し、サイトカインが従来の臨床情報に加えて重要な予後予測情報を提供することを示しました。
(図) 機械学習による劇症型心筋炎の予後予測と因子抽出の解析ワークフロー

<今後の展開>
本研究により、小児劇症型心筋炎においてサイトカイン情報と機械学習モデルを活用した死亡リスク予測の有効性が示されました。今後は多施設・大規模データによる外部検証を進め、臨床現場での実用化を目指します。さらに、TNF-αをはじめとする重要サイトカインは、予測指標に加えて治療標的としての可能性が示唆され、炎症応答の時間変化を踏まえた介入戦略の検討により、一人ひとりに合わせた治療への展開が期待できます。


<用語解説>
※1 サイトカイン
免疫反応を調節するタンパク質であり、炎症や感染に重要な役割を持つ。

※2 劇症型心筋炎(FM)
急速に心機能が低下し、生命を脅かす重症度の高い心筋炎。

※3 機械学習
計測データの中からパターンを学習し、分類や予測を行う解析手法。

※4 VIPスコア
PLS-DAモデルにおいて、各因子が予測にどの程度寄与しているかを示す指標。


<文献情報>
論文タイトル
Machine learning-based mortality prediction for pediatric fulminant myocarditis using cytokine profiles

●著者
Sihuan Jing1, 鈴木孝典2, 3, 鈴木健大1,4, 野村羊示5, 国田勝行1,6,7, 作村諭一1,4, 内田英利2, 齋藤和由2, 伊藤諒一5, 鬼頭真知子5 , 河井悟5 , Alejandro A. Floh8, Aamir Jeewa3,9, 吉本潤一郎7,10,11, 吉川哲史2, 安田和志5

●所属
1. 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 バイオサイエンス領域 
2. 藤田医科大学 医学部 小児科学講座
3. トロント小児病院
4. 奈良先端科学技術大学院大学 データ駆動型サイエンス創造センター
5. あいち小児保健医療総合センター
6. 藤田医科大学 医学部 情報生命科学
7. 藤田医科大学 精神・神経病態解明センター計算科学部門
8. トロント小児病院 集中治療科
9.  トロント大学 小児循環器科 
10. 藤田医科大学 医学部 医用データ科学講座
11. 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域

●DOI
10.1038/s41598-026-50260-4 

 

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