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近畿大学理工学部(大阪府東大阪市)理学科物理学コース准教授の笠松健一(かさまつけんいち)、同コース教授の松居哲生(まついてつお)らの研究グループは、初期宇宙の成り立ちに係わるゲージ理論を解明するため、それをモデル化したゲージヒッグス模型を模擬実験(量子シミュレーション)する方法を世界で初めて提案した。本件に関する論文が、平成29年(2017年)5月18日(木)、アメリカ物理学会の発行する学術雑誌“PHYSICAL REVIEW D”に掲載された。
【本件のポイント】
●初期宇宙の成り立ちに関係するゲージヒッグス模型を量子シミュレーションする方法を世界で初めて提案
●理論や数値計算で語られる物理的現象を模擬実験で再現することには大きな意義がある
●この模擬実験が実現すれば、初期宇宙におけるさまざまな現象の解明につながる
【本件の概要】
宇宙の創生から初期にかけて起きた現象を模擬実験で再現し、直接観測できれば、宇宙の成り立ちを解明するうえで大きな成果となる。本研究では、初期宇宙の成り立ちに係わるゲージ理論の解明をめざし、量子物理学の分野で話題の量子シミュレーションによる新たな実験方法を提案している。
具体的には、温度による揺らぎを避けるため極低温下においた原子気体を、レーザー光で作られたジャングルジム状の入れ物に捕獲し、入れ物の構造や原子同士が及ぼし合う力を制御する。そうすることによって、ゲージ理論に現れる物理モデル「ゲージヒッグス模型」を実際に作り出し、量子シミュレーションする方法を提案している。
ゲージヒッグス模型はこれまで、数値計算によって理論的に説明されてきたが、この研究によって提案された模擬実験が実現すれば、基礎物理学の発展に大きな意義があると言える。
【掲載誌】
雑誌名: 『PHYSICAL REVIEW D』(インパクトファクター:4.506 2015)
※アメリカ物理学会が発行する最も権威ある学術雑誌
論文名: Quantum simulation of (1+1)-dimensional U(1) gauge-Higgs model on a lattice by cold Bose gases(格子状の冷たいボース気体を用いた(1+1)次元のU(1)ゲージヒッグス模型の量子シミュレーション)
著 者: 久野義人、坂根真矢(近畿大学大学院生)、笠松健一、一瀬郁夫、松居哲生
【研究の詳細】
光で作られた格子ポテンシャルに捕獲された冷たい原子気体の系を考える。原子系の実験環境を適切にデザインすることによって、系のパラメータを調整すると、元々の原子気体が従う模型が、ゲージ対称性を有するゲージヒッグス模型に対応付けできることを理論的に示した。現実の実験系は非相対論的なので、原子系との対応で得られたゲージヒッグス模型は、初期宇宙の模型が持っているローレンツ対称性を持たないが、得られた模型の相図をモンテカルロ法より計算すると、ヒッグス相と閉じ込め相と呼ばれる相が安定となるパラメータ領域が存在することが明らかになった。よって、原子系の適切に制御して、興味あるパラメータ領域を実現できれば、ゲージヒッグス模型の相転移や、クォークの閉じ込めなどを研究できる量子シミュレーションが可能であることが結論される。また、論文中では、原子系の実時間発展を計算することにより、ゲージ理論で興味が持たれており、かつ、実験で観測が期待される電気力線の動力学についても議論している。
【今後の展望】
量子シミュレーションの研究は現代の量子物理学におけるホットな話題だが、ゲージ理論の量子シミュレーターの実現に関しては、その基礎物理学的意義から特に興味が持たれている。最近の実験ではイオンの集団を用いて、格子ゲージ理論の1次元模型の研究がなされたが、イオン系では小さなサイズのモデルしかつくることができない。
一方、本研究が提示した冷却原子系では、系のサイズが大きなモデルを検証することができるため、より高機能のシミュレーターが実現できる。本研究をきっかけに、冷却原子系でさらに容易に実現できる実験方法が研究されることが望まれる。
【用語解説】
※1 ゲージ理論…ゲージ変換と呼ばれる操作に対して、観測結果が何も変わらない理論のこと。「ゲージ」とは時間や空間方向の物差しの尺度を表す言葉で、例えば、電磁気学に出てくる電荷を測る物差しは、尺度にどんなものを用いても電荷の値が変わらないことを意味する。また、尺度を変えることがゲージ変換に対応する。素粒子間にはたらく基本的な相互作用を記述する理論は、すべてゲージ理論である。
※2 量子シミュレーション…現実の世界や物質は多数の微小粒子が集まってできている。物質が示す性質を理解するには、力を及ぼしながら存在するこれらの粒子の振る舞いを、量子力学を使って調べる必要があり、これは非常に難しい問題である。量子シミュレーションとは、このような微小粒子がたくさんある現実の物質の代わりに、人間がコントロールし易く、本物に似せた別の物質状態を実験的に作り、そこで興味がある現象を調べることを指す。これによって、現在なされているゲージ理論や強相関電子系の計算機シミュレーションでは解明が困難な研究領域を補い、新たな知見を与えると期待されている。
【関連リンク】
・理工学部理学科 准教授 笠松 健一 (カサマツ ケンイチ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/299-kasamatsu-kenichi.html
・理工学部理学科 教授 松居 哲生 (マツイ テツオ)
http://www.kindai.ac.jp/meikan/293-matsui-tetsuo.html
▼本件に関する問い合わせ先
近畿大学 総務部広報室
TEL: 06-4307-3007
FAX: 06-6727-5288
【リリース発信元】 大学プレスセンター
http://www.u-presscenter.jp/