量子暗号通信に関する総務省の研究開発委託事業への提案が採択
~古河電工の光学技術を活用し、極めて堅牢性の高い安全なサイバー空間の実現に貢献~
● 量子暗号通信網の構築における重点課題の1つである量子中継技術の開発に参画● 光ファイバを用いた「量子もつれ光発生技術」や、光部品を用いた「波長変換技術」を活用
● 量子コンピュータ時代における極めて堅牢性の高い安全なサイバー空間の実現に貢献
古河電気工業株式会社(本社:東京都千代田区丸の内2丁目2番3号、代表取締役社長:小林敬一)が参画するプロジェクトが、総務省の委託事業である「令和2年度 情報通信技術の研究開発に係る提案の公募ーグローバル量子暗号通信網構築のための研究開発ー」に採択されました。本プロジェクトは大学や研究機関等を含む12者(※)で構成されており、今後5年間にわたり研究が進められます。なお、今年度の総務省における実施予定額は14.4億円となっています。
※共同応募者:株式会社東芝、日本電気株式会社(NEC)、三菱電機株式会社、浜松ホトニクス株式会社、東京大学、北海道大学、横浜国立大学、学習院大学、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)
■背景:量子暗号通信とは
将来、実用的な量子コンピュータが実現されることで、現代暗号で守られていた機密情報のデータが全て解読されてしまう可能性があり、広域的な量子暗号通信ネットワーク技術の確立が求められています。量子暗号通信では、盗聴すると状態が変化する量子の性質を利用して盗聴を検知できるため、原理的に絶対に安全な通信が可能となり、金融や医療、政府関連など秘匿性の高い情報のやり取りが求められる用途での活用が期待されています。加えて、将来的には従来の理論的な通信容量の上限であるシャノン限界を超える光通信の大容量化や省電力化に貢献することも期待されています。
欧米や中国でも量子に関する研究開発を積極的に進めており、日本では今年1月に内閣府が「量子技術イノベーション戦略」を策定し省庁横断・政府一体で量子技術のイノベーションを推進しています。この戦略の重点領域として、量子通信、量子暗号、光通信チャネルとの並存技術等に関する総合的かつ戦略的取組を強力に推進する、とされています。
■研究開発の提案内容と当社の担当
本提案は、世界トップクラスの量子暗号通信技術をもつ企業・大学・研究機関が連携して、グローバル規模で量子暗号通信が可能なネットワークの実現に向けた研究開発を実施するものです。(1)量子通信・暗号リンク技術、(2)トラステッドノード技術、(3)量子中継技術、及び(4)広域ネットワーク構築・運用技術、の4つの技術課題があり、当社は(3)量子中継技術を横浜国立大学などと共同で担当します。
量子暗号通信ネットワークでは、量子の性質により信号を増幅すると量子状態が変わってしまうため、中継器として従来の光増幅器が使えず、安全に直接伝送できる距離は50km程度にとどまっています。伝送距離を伸ばすためには、量子情報を壊さずに再送信できる量子暗号中継器が必要とされています。当社は、本提案内で、2点間の通信距離を延ばす量子暗号中継方式と、短距離で多ユーザを同時接続する量子暗号中継方式の2方式の量子暗号中継技術を開発します。
2点間の通信距離を延ばす量子暗号中継方式では、本方式で必須な、光通信帯の信号光を量子メモリが動作する波長へ変換する波長変換技術や波長多重中継技術の開発を担当します。横浜国立大学が中心となって開発する量子メモリを利用することで、量子情報を壊さずに再送信できる量子暗号中継器の実現を目指します。一方、短距離で多ユーザを同時接続する量子暗号中継方式として、量子もつれ光を利用した波長多重量子暗号中継技術を開発します。当社は、2017年から東北大学と共同で光ファイバを用いた量子もつれ光発生技術を開発しており、今回採択された本プロジェクトの中でこの技術を利用した波長多重量子暗号中継システムを検討し、2024年度の実証を目指します。
どちらの開発も、いままで培ってきた光通信技術(特に光ファイバ、光部品、サブシステム)を活用するもので、新しい量子中継技術の開発に貢献します。
■用語解説
・ 量子メモリ
従来のディジタル情報は0か1のどちらか(ビット)で表されますが、量子の世界では0と1を同時に表すことのできる重ね合わせ状態(量子ビット)を利用することで、大量の情報を同時に処理することができます。現在のコンピュータで使われているメモリでは、ビットは記憶できますが量子ビットを記憶できません。量子ビットを記憶する装置が量子メモリです。
・ 量子暗号中継器
量子暗号のための量子情報を中継する装置が量子暗号中継器で、通信距離を延ばしたり、多ユーザを同時接続したりすることができます。別々の中継点間での量子もつれを利用して量子的な操作を行うと、量子情報を伝達することができ、この手法を用いた量子暗号中継器で、量子暗号通信の通信距離を延ばすことができます。この手法では、量子的な操作の間、量子状態を保持する必要があり、量子メモリが必須です。また、多数の量子もつれ光を用いて適切に各ユーザへの配信を行うと、多ユーザを同時に接続することができ、この手法を用いた量子暗号中継器で、多ユーザの任意の間で同時に量子暗号通信を行うことができます。この手法では、良質な量子もつれ光が必要になります。
■古河電工グループのSDGs への取り組み
当社グループは、「世紀を超えて培ってきた素材力を核として、絶え間ない技術革新により、真に豊かで持続可能な社会の実現に貢献します。」を基本理念に掲げて、4つのコア技術(メタル・ポリマー・フォトニクス・高周波)を軸に、事業活動をしています。さらに、国連で採択された「持続可能な開発目標(SDGs)」を念頭に置き、当社グループの事業領域を明確にした「古河電工グループ ビジョン2030」を策定し、「地球環境を守り、安全・安心・快適な生活を実現するため、情報/エネルギー/モビリティが融合した社会基盤を創る。」に向けた取り組みを進めています。