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北里大学薬学部 安藤 航助教、堀井 剛史助教、北里大学メディカルセンター研究部門 植松崇之室長補佐らの研究グループは、COVID-19対策北里プロジェクト(代表:北里大学大村智記念研究所感染制御研究センター花木秀明教授)の一環で、米国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の大規模電子診療データを解析した結果、高齢、男性、2型糖尿病、肥満といった要因が重複するほど、入院治療や集中治療となる危険性が高まることを明らかにしました。
本研究成果は、新型コロナウイルス感染症の重症化の予測や予防に繋がるものと期待され、その内容は2021年9月9日に英国総合科学雑誌「Scientific Reports」に掲載されました。
■研究成果のポイント
・米国全土の複数医療機関から収集された大規模電子医療記録データベースをもとに、新型コロナウイルスのワクチン接種開始前の期間を対象に、COVID-19と診断された患者28,095人を解析したところ、患者の背景因子のうち年齢が65歳以上、男性であること、2型糖尿病を有していること、BMIが30kg/m2以上の肥満であることを、それぞれ1点として加算したとき、点数が高い患者ほど、重篤化する危険性が高まることを明らかにしました。
・これまでも小規模な調査によって高齢や肥満などがCOVID-19の重症化に関係するリスク因子であることは知られていましたが、複数のリスク因子が重積したときに、どのくらい危険性が高まるかは明らかではありませんでした。
・今回の大規模データの解析結果は、糖尿病をコントロールし、肥満を解消するなど、複数のリスク因子を回避することで、COVID-19の重症化を防ぐことができる可能性を示唆しています。生活習慣病への意識を高めることや、危険性の高い患者に対して感染予防の重要性や理解を促すことで、感染後の重篤化や医療体制の負荷軽減に繋がることが期待されます。
■研究の背景
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的に最も問題となっている感染症であり、男性、肥満、高齢などの患者の特徴は、重症化の危険因子となり得ます。また、高血圧、慢性心疾患、肺疾患、2型糖尿病などの合併症も重症化に大きく影響することが報告されています。特に米国では、2型糖尿病や肥満が深刻な社会問題となっていますが、これらのリスク因子が重積したとき、COVID-19の重症化にどの程度影響しているかは明らかではありませんでした。そこで本研究では、米国の大規模電子医療記録データベースを用いて、リスク因子の重積がCOVID-19の重症化に与える影響を明らかにすることを目的としました。
■研究内容と成果
米国のCOVID-19 Research Databaseに集積されている匿名化された大規模電子医療記録データを用いて、2020年1月1日から2020年11月30日までの間に新型コロナウイルスに感染した患者28,095人を対象にしました。COVID-19患者のうち、65歳以上や性別、2型糖尿病、肥満などの背景因子がある場合に、診断日から30日以内に入院治療またはクリティカルケアを受ける危険性を評価しました。それぞれの背景因子ごとに関する解析をしたところ、最も入院やクリティカルケアとなりやすい因子は65歳以上の年齢であることでした。その次は2型糖尿病が高い危険性を示しましたが、メトホルミンやSGLT2阻害薬などの糖尿病治療薬を服用中の患者ではリスクが低下していました。
因子が重なるごとに、どれくらい危険性が高まるかを解析したところ、年齢が65歳以上、男性であること、2型糖尿病を有していること、肥満であることを、それぞれ1点として点数を加算すると、1、2、3、4点の患者は、入院する危険性がそれぞれ約3倍、約6.5倍、約16倍、約19倍に高まることが分かりました。また、クリティカルケアとなる危険性は2、3、4点の場合は約15倍、約38倍、約56倍と高いことが明らかになりました。
糖尿病をコントロールし、肥満を解消するなど、複数のリスク因子を回避することで、COVID-19の重症化を大きく軽減できる可能性があります。
■今後の展開
本研究グループでは、北里大学が主体となって進めているCOVID-19対策北里プロジェクトの一環として、新型コロナウイルス感染症に関する臨床データを解析しています。米国と日本では、2型糖尿病や肥満の割合や性質は大きく異なります。今後はワクチン接種データを加えた結果や、日本人やアジア人を対象とした解析を進め、種々のリスク因子とCOVID-19の病態との関係などを明らかにしていきます。
■論文情報
掲載誌:Scientific Reports
論文名:'' Impact of overlapping risks of type 2 diabetes and obesity on coronavirus disease severity
in the United States ''
(米国における2型糖尿病と肥満の重積リスクがコロナウイルス感染症の重症度に与える影響)
著 者:安藤航(薬学部)、堀井剛史(薬学部)、植松崇之(北里大学メディカルセンター)、
花木秀明(大村智記念研究所)、厚田幸一郎(薬学部)、尾鳥勝也(薬学部)
DOI:10.1038/s41598-021-96720-x
■用語解説
COVID-19 Research Database
米国全土の医療機関から収集された匿名の電子診療記録等を研究者が無償で利用できるデータベース。500以上の医療機関と1億人以上の患者情報が登録され、多くの企業によって組織された官民共同の事業として展開されている。
クリティカルケア
生命の危機に瀕している患者に対する治療のこと。COVID-19だけでなく、侵襲の大きな手術や重度の外傷のある患者が、24時間集中治療室で治療を受けることを指す。
2型糖尿病
血糖を下げるホルモンである、インスリンの分泌や効きやすさに関する複数の遺伝的な要因に、食べ過ぎや運動不足といった環境因子と加齢が加わることで、血液中のブドウ糖の値(血糖値)が高くなる病気である。欧米人ではインスリンに対する抵抗性が高くなるタイプが多いのに対して、日本人はインスリンの分泌が不足するタイプが多い。米国疾病対策予防センターの発表では、およそ10人に1人は2型糖尿病であり、大きな社会問題となっている。
▼問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学薬学部 臨床薬学研究・教育センター 薬物治療学IV
北里大学メディカルセンター 薬剤部
安藤 航(あんどう わたる)
E-mail:andow@pharm.kitasato-u.ac.jp
TEL/FAX:048-593-3038
≪報道に関すること≫
学校法人北里研究所
総務部広報課
〒108-8641東京都港区白金 5-9-1
E-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
TEL: 03-5791-6422
【お詫びと訂正】「研究内容と成果」第2段落中、(因子を点数として加算した)4点の患者について、入院する危険性「約20倍」、クリティカルケアとなる危険性「約55倍」とあったのは、それぞれ「約19倍」「約56倍」の誤りでした。ここにお詫びして本文および添付PDFを訂正します。(2021/09/16 11:30)
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/