デロイト トーマツ、今後のテクノロジー・メディア・通信業界を予測した「TMT Predictions 2023 日本版」を発行
宇宙ビジネスの活況で、世界の小型衛星の打ち上げ件数は2020~2024年の1.3万機から2025~2029年には1.5倍の2万機に拡大する見込み。宇宙の混雑緩和に日本の技術活用が期待される
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一、以下デロイト トーマツ)は、今後のテクノロジー・メディア・通信(TMT)業界についてデロイトが予測した「TMT Predictions 2023」グローバル版をもとに、日本オリジナルの考察・分析を加えたレポート「TMT Predictions 2023 日本版」を発行しました。2023年は、パンデミックの環境下で得た様々な経験や、開発・発展したテクノロジーやビジネスモデル、新しいアイデアがさらなる進化を遂げることが予想されており、本レポートではその中でも特に注目すべき14 のトピックを取り上げています。 テーマごとにグローバル予測の抄訳に加え、「日本の視点」としてデロイト トーマツ グループのプロフェショナルによる考察・分析を行っています。
今回は、安全保障や災害対策など様々な分野で宇宙ビッグデータの活用に期待が高まるなか、衛星コンステレーションや宇宙用途の耐放射線半導体といった、宇宙ビジネスに関するトピックを通信と半導体の2分野において取り上げています。また、昨年に引き続き、「サステナビリティ」に注目し、テクノロジー業界の気候変動リスクに対して高まる危機感と対応策へのコミットメントについて解説するとともに、日本企業の強みであるイノベーション技術を活かした「攻めのアプローチ」について言及しています。
さらに、ここ数年で社会変容に応えるかたちで普及したストリーミング、バーチャルプロダクション、ソーシャルコマース、VRといったトピックについては、次のフェーズへのステップに向けてグローバルおよび日本の視点で論じています。その他にも、5Gやエッジコンピューティング、M&Aといった幅広いトピックを取り上げました。本レポートを通して、変化の中でビジネスの明日を描き、将来を切り開くために役立つ論点を提示します。
http://www.deloitte.com/jp/tmtpredictions2023
グローバルの予測と日本の視点(主なトピックについて)
■ブロードバンド衛星
衛星通信コンステレーション:衛星通信コンステレーションの実現に不可欠な宇宙の交通管理
グローバル版
宇宙を使ったブロードバンドサービスを展開する上で必要となる地球低軌道(LEO:Low Earth Orbit)について、2023年内にLEO上に5000機以上のブロードバンド衛星が配備され、稼働中の2つの衛星コンステレーション*によって地球上の約100万人の利用者に高速インターネットが提供されると予測している。
日本の視点
日本の衛星通信コンステレーション事業の方向性と宇宙状況監視への貢献
日本の衛星通信コンステレーション事業は、米英の衛星通信コンステレーションサービスの国内発展、あるいは、米製の衛星通信コンステレーションと独自の国内通信網をブレンドさせた既存通信サービスの高度化といえる。
デロイト トーマツの集計によると、5年ごとの世界の小型衛星打ち上げ数は、2015-2019年の間は約1,500機/5年程度だったが、2020-2024年には約9倍の約13,000機/5年、2025-2029年にはさらに伸張し約20,000機/5年という水準まで拡大すると考えられる。これらブロードバンド衛星システムが実現するために不可欠な、宇宙空間の宇宙状況把握(SSA)/宇宙領域把握(SDA)/宇宙交通管理(STM)に貢献し得る日本の企業/サービスは複数ある。今後もより多くの日本企業が新たなSDAソリューションを開発することで、混雑しつつもコントロール可能で持続的な宇宙空間を実現すことが期待される。
*衛星コンステレーション・・・従来の衛星1機で多くの仕事を行う規格とは異なり、複数衛星で仕事を分配し、衛星システム全体で機能を構築する規格のこと。
■5Gスタンドアロンネットワーク
グローバル版
5Gスタンドアロンネットワークが変革するエンタープライズ・コネクティビティ
5Gスタンドアロンネットワーク(5G SA)を展開するモバイルネットワーク事業者 (MNO) の数は、2022年の100社程度から2023年末までに倍増し、少なくとも200社になると予測している。このことにより、5Gの無線技術のポテンシャルが最大限に引き出されると考えられる。
日本の視点
5Gスタンドアロンネットワークによる本来の5Gの登場
5G SAの登場により5Gは最終形に向けた進化を遂げている。5G SA の低遅延で信頼性が高く、多数同時接続が可能な特徴は、B2B領域でのユースケース創出に寄与していく。さらに水面下ではIOWNや6Gの導入に向けた動きも着実に進んでいる。
先端技術を活用したユースケースが拡大していく中、今後はユースケースに連動した形で通信技術の進化を捉えていくことが肝要となっていくだろう。
■半導体業界動向
半導体におけるAI
グローバル版
半導体設計におけるAI活用の進展
世界の主要な半導体企業が2023年にチップ設計のための社内およびサードパーティのAIツールに約3億米ドルを費やすと予測している。この金額は今後4年間で毎年20%ずつ増加し、2026年には5億米ドルを超え、数百億から数千億ドル規模に成長するだろう。
グラフニューラルネットワーク(GNN)と強化学習(RL)という2種類の機械学習によりAIの能力は飛躍的に向上する。能力向上により、従来は設計者が手動で繰り返してきた半導体回路のシミュレーション、テスト、改善という反復作業を自動化、高速化できるようになり、結果として設計のスピードも上がっていく。
日本の視点
半導体設計支援AIが日本にもたらすもの
半導体設計支援AIの進化により、半導体設計の参入障壁が従来よりも低くなり、日本の最終セットメーカー、サービスメーカーが設計支援AI搭載のEDA(Electronic Design Automation)*を活用することで、比較的小規模な設計部隊で自社専用半導体の設計行うことができる可能性がある。一方半導体メーカーは、自社の優位性を維持する必要が出てくる。さらに、半導体製造前工程を提供するファウンドリー企業はEAベンダーやAI企業との連携・協業により自社プロセスに対応した設計のエコシステムを整備していなかければならない。
* EDA(Electronic Design Automation)・・・集積回路や電子機器など電気系の設計作業の自動化を支援するためのソフトウェアやハードウェア
次世代半導体:パワー化合物半導体
グローバル版
超高電圧に対応する新材料のチップが急成長
窒化ガリウム (GaN)とシリコンカーバイド(SiC)で作られた高出力パワー半導体チップの2023年の売上高は33億米ドルで、2022年から40%近く増加する見込みである。2024年には市場成長率が60%近くまで加速し、50億米ドル以上の収益が見込まれている。
日本の視点
注目されるパワー化合物半導体の市場予測とSiCパワー半導体における変化点
日本の半導体メーカーはパワー化合物半導体分野での技術競争力を維持しており、今後も更なる需要拡大に備えた積極的な投資や研究開発を行っていくだろう。一方で、SiCウエハ事業への参入障壁は高く、SiCウエハの国内調達は困難であるため、SiCウエハメーカーの囲い込みやスケールメリット創出によるコスト削減のためのパワー半導体メーカー同士の再編、シリコンウエハの大口径化や歩留まり改善のための新規設備投資による製造能力の強化など国内パワー半導体メーカーのシェア奪還のために今後、M&Aやさらなる設備投資などの大胆な施策が必要になるだろう。
次世代半導体: 耐放射線チップ
グローバル版
耐放射線チップが宇宙技術と原子力エネルギーを新たな高みへ
宇宙のような過酷な高放射線環境で使用できる耐放射線半導体(Radiation-hardened semiconductors)や電子部品などエレクトロニクスの市場は2023年に全世界で15億米ドルを超えると予測している。新世代の宇宙向け耐放射線チップは、宇宙向けと原子力発電の用途での活用において特に注目されている。
日本の視点
半導体業界における新たな事業領域として耐放射線半導体が注目を集める
これまではビジネスとして成立困難だった耐放射線半導体だが、宇宙ビジネスの活性化や、脱炭素化に向けたエネルギー分野における取り組みによって、徐々に事業環境が整いつつある。市場規模の拡大に伴い、サービス提供側はその収益性を見込むことで半導体への投資判断がしやすく、また半導体企業にとっては外販による収益性確保の見込みが高まっている。さらにミニマルファブによって新規材料の試作・評価環境も整備されていることから、少ない投資で費用対効果の高いビジネスを構築できる可能性も高まっている。
■テクノロジー 気候変動
グローバル版
テクノロジー業界の気候変動への取り組み:組織や個人への影響がテクノロジーリーダーをより迅速な気候変動対策に向かわせている
「2022年CxOサステナビリティレポート」によると、IT企業の幹部はネットゼロをより喫緊の優先事項と考えている。2023年にはテック業界は非テック業界よりも気候変動対策での動きが速くなると予測される。2030年までにネットゼロを目指すと答えたテクノロジー企業の割合は、非テクノロジー企業よりも高い。
テクノロジー業界のCxOは、2030年までにネットゼロを目指すと回答した割合が他業界平均と比較して13%高く、2030年を超えて目標を達成する、もしくは計画がないと回答した割合は24%低かった。
表11-1 自社の二酸化炭素排出量についてカーボンゼロ達成計画があるかとの問いに回答した比率
全体的に見て、テック業界はネットゼロを達成するために、非テック業界よりも野心的な期限を設定している
日本の視点
日本技術の強みを生かした「守り」から「攻め」のアプローチが鍵
「ネットゼロを目指す競争」における日本企業の方向性として、電力消費量増大や出力が無秩序に変動する再生可能エネルギーへの対応(守り)から、GXイノベーション技術を用いた新ビジネスや、事業収益を超えた新たな付加価値の創出(攻め)への展開が期待される。
迅速な気候変動対策の要請に対し、日本のテクノロジー企業は自社のエネルギー調達をよりレジリエンスの高いものへ転換していく「守りのアプローチ」に加え、「強み」である粒度の細かいデータを把握・分析するためのモノづくり(ファインチューニング)を活かし、データドリブンなビジネスの創出や経営インサイトを企業価値の向上に繋げる「攻めのアプローチ」が勝機になると考えられる。
■AVOD/SVOD
グローバル版
視聴者によるAVOD受容性向上
2023年末までに先進国における消費者の2/3が、月に一度はAVODサービスを利用するようになると予測している。これは前年(2022年)から5%の増加にあたる。
日本の視点
国内動画配信市場の「起爆剤」 となるポテンシャルを持つも、その普及は道半ば
地上波など無料でコンテンツを視聴できるサービスが多く存在している日本では、グローバルと比較をするとVODサービスがまだ普及しきれていない状況にある。そのような中、国内でもAVODサービスのキラーコンテンツ投入やSVODサービスの広告プラン開始、事業者の合従連衡などの動きが起きつつある。事業者の参入メリットの訴求と、ユーザー基盤を維持・拡大するためのサービス差別化が今後の論点になると考えられる。
■スポーツストリーミング
グローバル版
ストリーミング市場の次の舞台
2023年のグローバル市場において、ストリーミング事業者がメジャースポーツ放映権に60億米ドル以上を費やすと予測している。ストリーミング事業者のスポーツ放映権への投資は、額は小さいが市場にとって重要であり、ストリーミング事業者と大手スポーツリーグ間の相互依存が進んでいる。
競争の激化と加入者の解約に直面する中、ストリーミング事業者の多くは、スポーツコンテンツを視聴者獲得と維持のための差別化要因として活用している。
日本の視点
日本スポーツストリーミングの可能性と道標:共感型コンテンツへのシフト
近年、日本ではストリーミング視聴時間・視聴者数は増加している。一方で、日本ではエンターテイメントへの興味・関心は分散しやすい環境にあり、可処分時間を多種多様なコンテンツが奪い合う構図は続く。スポーツコンテンツのシェア拡大を目指すには、コンテンツを、「消費型」から、「体験型・共感型」へシフトすることに加え、それを支えるテクノロジーや仕組みがますます重要となる。
■バーチャルプロダクション
グローバル版
バーチャルプロダクションがもたらす映像制作の未来
2023年のバーチャルプロダクションツールの市場規模は2022年の推定18億米ドルから20%増の22億米ドルに成長すると見込まれる。
日本の視点
クリエイティブとテクノロジーの融合がもたらす未来のコンテンツ制作
日本における3DCGコンテンツ制作をより盛り上げていくチャンスが到来していると考えられる。限られたリソースの中で、日本にある豊富なIPコンテンツをより多く世界に発信していくためには、3DCGを起点に、クリエイターとテクノロジーサイドがより密に連携を取り、次世代に向けた更なるコンテンツ創出につなげていくことができる未来に期待したい。
■ソーシャルコマース
グローバル版
フィードを通してショッピングはよりソーシャルに、年間売上高は1 兆米ドルを超える傾向
ソーシャルコマース市場は2023年に全世界で1兆米ドルを超えると予測している。
日本の視点
情緒的価値向上とシームレスな導線設計をチャネル全体で実現することが成功の鍵
ソーシャルコマースの日本市場の傾向は、商材の特性(ECとの親和性等)や認知度等の観点で、局所的な条件下のみに該当する可能性が高い。ソーシャルコマースにおける成功要因は「顧客の購買意欲を高めるための情緒的価値の提供(コンテンツ力、ブランド力等)」と「認知・興味から購入までをストレスなくシームレスに行える導線設計」を十分に実施したうえで、更に顧客接点(チャネル)全体で顧客体験向上を実現する必要がある。
■Screens and Media/VR
グローバル版
VRがニッチから主流なものに広がっていけるかは、魅力的なVRコンテンツの広がりにかかっている
VR市場は2023年に全世界で70億米ドルの収益を生み出すと予測している。これは2022年の47億米ドルから50%の驚異的な増加である。2023年の収益の90% (63億米ドル) はVRヘッドセット販売から見込まれる。
日本の視点
メタバースの社会インフラ化への道筋-ニッチからマスアダプションへ-
2021~22年のメタバースのブームからフェーズが変わり、企業でのPoC(Proof of Concept:実証検証)利用が進むにつれ、今後は段階的に社会実装や本格導入に向けた実務的な課題が顕在化するフェーズに入ると考えられる。メタバースを飛び道具ではなく、自社の競争優位構築や生産性向上の実現手段として捉え、早期にトライアンドエラーを重ねながら適用領域を見極めることが重要となるだろう。