デロイト トーマツ調査、日本企業のコンタクトセンター AI導入率が約50%に伸びるも、成果創出には苦戦
コロナ禍を経て、セルフサービスの導入が想定以上に進む。AI導入済企業の割合は海外企業の44%を上回り、日本企業は49%と約半数に到達。日本企業の最重要戦略は顧客体験向上に
デロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一)は、世界各国のコンタクトセンターを対象に、現在の課題への対応指針と、今後数年間のビジネス動向をまとめた「2023 グローバルコンタクトセンターサーベイ」を公開しました。この調査はデロイトが2013年以降隔年で行っており、2019年度より日本企業も対象として調査しています。今回は2022年11月から2023年2月にかけて、世界の多様な業界のコンタクトセンター幹部を対象に、急速なAI・予測分析テクノロジーの進歩などコンタクトセンターが直面する様々な変化に対して、将来の方向性に関する考察を得ることを目的としています。調査結果をまとめたレポートの本文は以下のリンク先からご覧ください。
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/operations/articles/crm/global-contact-center-survey.html
【調査結果及び考察の主なポイント】
- コンタクトセンターにおける最重要戦略として、日本企業および海外企業はともに、「顧客体験(CX)向上」を挙げており、日本企業における割合は前回調査(45%)を上回る63%となった。
- 投資重要領域として日本企業は「セルフサービスの拡大」(38%)が最も高く、コロナ禍を経て導入も急拡大している。一方で、「オペレータ=人」への投資は日本と海外で大きく差異があり、異なる考え方が推察される。
- 問合せ全体に占める電話チャネルの割合は 日本企業58%、海外企業57%と、いずれも60%弱の水準まで低下。企業はマルチチャネル化、とりわけ電話からデジタルチャネルへのシフトを進めている。
- AI導入済企業の割合は海外44%、日本49%と約50%に到達。しかし、AIの主要用途であるチャットボット・ボイスボットについて、約半数のコンタクトセンターが成果創出に苦戦している。
- AI導入の成果を創出するためには「価値が増大するユースケースの選定」「KPI設定と評価」「業務変革」「テクノロジーと人材の融合」「チェンジマネジメント」という5つのアクションを着実に実行することが肝要である。
【主な結果の詳細】
日本企業の63%は、「顧客体験(CX)向上」をコンタクトセンターにおける重要戦略に据える一方で、投資の重要領域の上位は「セルフサービスの拡大」(38%)や「インフラ刷新」(31%)、「チャネル拡大」(14%)が占めており、傾向として自己解決率向上に寄与する施策が目立つ。翻って、米国を中心とした海外企業では、日本企業の上位2項目で同様の投資傾向は見られるものの、全くの別軸で「オペレータ支援機能の導入」(11%)への投資を拡げており、人材の観点からCXを向上させるというアプローチに取り組んでいる点が特筆される。これはCX高度化を実現するには、顧客ニーズに精通し、ブランドボイスや企業価値との整合性を保ちながら、ニーズに対応できるスキルを持った、経験豊かで満足度の高いオペレータが必要と捉えているから、と考えられる。
図1:今後2年間のコンタクトセンターの重要戦略
図2:現在投資強化中・投資予定の重要領域
日本企業・海外企業を問わないグローバルの傾向として、企業はマルチチャネル化、とりわけ電話からデジタルチャネルへのシフトを進めており、特に、コロナ禍を経てセルフサービスの導入が拡大した点が特徴的である。前回調査(2021年)時点と比較し、問合せ全体に占める電話チャネルの割合は 日本58%(前回よりマイナス20ポイント)、海外57%(前回よりマイナス5ポイント)と、いずれも60%弱の水準まで低下した。2年後に向けて引き続きデジタルチャネルシフトが意欲的に進められる計画ではあるが、海外では電話チャネル縮小が減速しており、新たな手立てを講じなければ日本でも電話比率が下げ止まるリスクがある。
図3:受付チャネル構成比
国内コンタクトセンターにおけるAI導入済企業の割合は海外44%、日本49%とともに2年前と比較して大きく伸びている。しかし、AIの主要用途であるチャットボット・ボイスボットについて、約半数のコンタクトセンターが十分な効果を発揮できていないと回答。生産性向上に加え、顧客との関係構築や新たな顧客体験提供等、AI活用への期待は高まっているものの、使い方の巧拙が課題になっている。
図4:テクノロジーの導入状況
【調査結果を踏まえた考察・提言】
デロイト トーマツ グループ パートナー 住川 誠史
日本企業のコンタクトセンターの63%が「顧客体験(CX)向上」を最重要戦略と位置づけているが、海外企業と比べて「オペレータ=人」への投資に渋りが見られる。サービス品質を現場で支えているのはオペレータであり、従業員体験(EX)の向上がCX向上につながる好循環を生み出すべく、人の代替でなく人の力を最大化するテクノロジーへの投資を強化すべきと考える。
また、約半数の企業がAI導入を進める一方で成果創出に苦戦している理由には、解決率やカバー率が比較的高い用件・領域を対象に、想定効果の高い順にユースケースとして選定できていないことや、投資の膨張・予算超過を防ぐために、定量的なKPIを設定し評価すること、などが実行出来ていない点が考えられる。これらに対して「価値が増大するユースケースの選定」「KPI設定と評価」「業務変革」「テクノロジーと人材の融合」「チェンジマネジメント」という5つのアクションをレポートでは提言した。
例えば、Generative AIをはじめとする技術進化は目覚ましく、その活用の巧拙がこれからの企業の顧客対応力を決めると言える。主に業務効率向上を目的にAI活用やデジタル・セルフサービスチャネルが拡充されているが、顧客別・シーン別のCXを考慮したチャネル戦略が重要である。Deloitte Digitalでは、表情やジェスチャー等の非言語コミュニケーションを含む“人間らしい”顧客応対ができるAIアバターを開発し、デジタルチャネルにも“人間らしさ”を付加することで「テクノロジーを活用したエフォートレス化」と「エモーショナルな体験の提供」を両立させ、CX高度化につなげるような具体策を提示している。こういった手法も参考に企業には成果創出のためのアクションに取り組んでほしい。