2023事業年度:ボッシュ、逆風下でも売上高および業績を拡大
低迷する経済情勢によりコスト圧力増大、目標利益率達成時期を先送り
- 最大限の努力:為替調整後の売上高は8%増の916億ユーロ、支払金利前税引前利益率(EBIT)5%に上昇
- 広範囲な事業展開:同時に集中的な製品ポートフォリオ管理で戦略的な方針強化
- 事業再編:集約したモビリティ事業セクターが2024年1月に始動
- ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長のシュテファン・ハルトゥング: 「2023年度に逆風に直面したものの、ボッシュは未来を形成するテクノロジー、特にクライメートアクションに関連するテクノロジーへの積極的投資を継続しています」
- 財務担当取締役のマルクス・フォーシュナー:「逆風が続くため、目標利益率達成時期を先送りします。将来の成長資金調達のために、資金資源の効率活用と収益性のバランスをとり続ける必要があります」
シュトゥットガルト(ドイツ)– グローバル規模で革新的なテクノロジーとサービスを提供するボッシュ・グループは、2023事業年度において厳しい状況下でも期待通りの成果をあげました。暫定決算報告によると、ボッシュの[1]売上高は前年比4%増、為替調整後では8%増の916億ユーロとなりました。支払金利前税引前利益率(EBIT)は5%に達し、前年度の4.3%よりやや改善し、期待通りとなりました。「ボッシュにとって、2023 年は想定を上回る厳しい年でした。しかし最大限の努力により売上高を拡大、利益率を改善し、強い逆風にもかかわらず前進しました」と、ロバート・ボッシュGmbH取締役会会長であるシュテファン・ハルトゥングは暫定決算報告の発表に際して述べています。「厳しい状況を考えると、これは従業員による素晴らしい成果です。今後数年間は、私たち全員にも多くのことが求められるでしょう」
昨年度、ボッシュは成長分野のさらなる拡大、モビリティ事業の変革、そしてすべての事業分野における競争力強化を実現しました。「私たちは未来を形作るテクノロジー、特にクライメートアクションに関連するテクノロジーへの積極的投資を継続しています。しかし、そのようなテクノロジーの市場浸透には遅れが見られ、市場の勢いは鈍化しています。私たちが将来の成長資金を調達するには、受注状況の低迷に対応し、競争力の強化に努めるほかありません」とハルトゥングは述べています。こうした状況を踏まえ、ボッシュはモビリティ事業セクターを含めいくつかの分野で調整が必要になると予想しています。モビリティ事業セクターでは最近、従業員代表とこの件について協議を開始しました。必要な人員調整は可能な限り社会的に受け入れられるものでなければなりません。ドイツ国内のモビリティ拠点に関しては、2023年夏に従業員代表と締結された労働協約に基づき、2027年末までは人員削減は見送られます。「変革は社会的パートナーシップを通じてのみ成功します。私たちはまた、産業立地としてのドイツ、とりわけ製造拠点としてのドイツにコミットしています」とハルトゥングは述べています。さらに、ボッシュは特に有望な事業分野で雇用を継続し、できるだけ多くの従業員をリスキリングし、縮小分野から成長分野に異動させたいと考えています。2030年までに、トレーニングやリスキリングに総額約40億ユーロを費やす計画です。これには従業員の意欲も必要になります。
気候変動政策:不安定性が市場の勢いを弱める
気候変動との闘いは、ボッシュのようなテクノロジー企業にとって依然として重要な課題であり、数多くのビジネスチャンスをもたらしています。ボッシュは先ごろ米国で開催されたCES国際家電ショーで、持続可能なエネルギーの使用のためのテクノロジーとソリューションを発表しました。ハルトゥングは、現在の気候変動政策が多くの企業の事業環境を不安定にしていると考えています。「最近ドイツが電気自動車補助金を突然廃止したように、施策の施行に一貫性がないと問題が生じます。不安定な政策構造は長期的な購買意思の決定を妨げます。経済には可能な限り予測可能性が必要です」と彼は述べています。同時にハルトゥングは、政策立案者に理解を示します。 欧米諸国の多くの政府は、繁栄を持続させ、地球温暖化を緩和しなければならないと同時に、緊縮財政の圧力とポピュリストの批判の両方にさらされています。
成長戦略: 技術革新を支える投資
現在の低迷する経済情勢においても、ボッシュは進歩を遂げています。ボッシュは主要市場でトップ3に入るサプライヤーとなり、世界のあらゆる地域で効果的に地位を確立することを目指す、という戦略目標を堅持しています。「特に変革の時代において、ボッシュの業界や地域を超えた広範囲な事業展開は非常に貴重です」と、ハルトゥングは語ります。一方で「集中的な製品ポートフォリオ管理を否定するものではない」との言葉が表す通り、ボッシュではビルディングテクノロジー事業部をシステム インテグレーション事業に集中させ、製品事業の大部分を売却することを決定しています。さらにボッシュは、北米におけるビルディングオートメーション市場での地位を強化するため、2015年にClimatec社を、昨年にはPaladin Technologies社を買収しました。
ボッシュはまた、半導体事業など自ら定めた成長分野の拡大も実現しています。 欧州合弁会社ESMCへの投資や、米国ローズビルのウエハ製造工場の買収など、ボッシュは2023年に重要な投資決定を下しました。さらに電気自動車のパワーエレクトロニクスに使用され、航続距離の延伸に貢献するSiCチップの製造で、さらなる成長を目指しています。「シリコンカーバイドの構造を平面上ではなく垂直に構築することで、チップの出力密度をさらに高めることができます。私たちはこの技術を自動車向けに実用化した最初のSiCメーカーで、かつ2023年には第2世代の製品でさらに性能を30%向上させています。ボッシュでは投資が革新力を支えます」とハルトゥングは述べ、ボッシュの技術革新力を強調しました。ボッシュは2026年から、コスト効率の高い200mmウエハ上で初の垂直構造SiCチップを製造予定です。
モビリティ産業の変革: eモビリティを促進する標準化
ボッシュは自動車業界の変革に対応するため、主力事業の再編を史上最大規模で進めています。集約したモビリティ事業セクターは2024年初頭に始動しました。新しい特徴のひとつが、将来重要となるソフトウェア、半導体、車載コンピュータという3つの分野を水平的に担当することです。ボッシュは未来のモビリティに向け、新興および既存のテクノロジーのさらなる活用により、ビジネスチャンスの最大化を図ります。
たとえば、特に自動運転や電動化をサポートする新しい冗長ブレーキシステムの需要が高まっています。ハルトゥングは、ボッシュが2030年までに同分野で年間10%の成長を目指していると伝えたうえで、「全般的に、ボッシュはブレーキシステム分野において競合他社の2倍の速さで成長しており、ESCの市場規模が縮小する中でも売上高を維持しています」と述べています。 eモビリティに関して、 ハルトゥングは欧州における充電ステーションや手頃な電気自動車の不足を改善するなど、まだやるべきことがたくさんあると考えています。「昨年、中国の自動車輸出台数が60%増となり、改めて考える機会を得ました」と述べました。「中国の自動車メーカーは、電動パワートレインソリューションの標準化を望んでいます。それは、欧州の私たちが逃すわけにはいかないスケールメリットが生まれます」
2023年の業績状況:モビリティ事業とエネルギー・ビルディングテクノロジー事業が力強い成長を見せる
2023年は、ボッシュの各事業セクターの売上高は複雑な様相を見せました。2023年に563億ユーロの売上高を達成したモビリティ事業は、継続してボッシュの事業セクターで最も好調な売上高を記録しました。前年比7%増、為替調整後で11%増でした。「ボッシュの製品は、既存および新規事業分野の両方で需要があります。これがモビリティ事業セクターの発展を維持するモチベーションを高め、さらなる取り組みが必要となるでしょう」とロバート・ボッシュGmbH取締役会メンバー兼財務担当取締役であるマルクス・フォーシュナーは述べています。産業機器テクノロジー事業セクターは、75億ユーロの売上高を達成しました。HydraForce社の買収に伴い、前年比8%増、為替調整後では10%の増加でした。消費財事業セクターの売上高は199億ユーロで、前年7%減、為替調整後では1%微減となりました。「消費者の著しい買い控えが、当社の電動工具事業と家電製品事業に大きく影響しました」とフォーシュナーは語りました。エネルギー・ビルディングテクノロジー事業セクターの売上高は、9%増の76 億ユーロと大幅に増加しました。為替調整後では11%増でした。「エネルギー効率の高い再生可能な暖房技術に対する需要の大きさだけではなく、ボッシュグローバルサービスソリューションズ事業部におけるサービス事業の拡大も追い風となりました」とフォーシュナーは述べています。
2023年の業績状況:欧州と北米で最も力強い成長
ボッシュの地域別売上高も複雑な様相を呈しました。「欧州と北米は、名目値で最も力強い成長を記録しました」と、フォーシュナーは述べています。 欧州の売上高は6%増の468億ユーロ に達し、為替調整後では8%増となりました。北米の売上高は4%増の152億ユーロとなり、為替調整後では8%増加しました。南米の売上高は17億ユーロと、前年比6%減少したものの、為替調整後は4%の伸びとなりました。「ブラジルの通貨レアルの下落が決定的な要因でした」とフォーシュナーは説明しました。アジア太平洋地域の売上高は1%微増の279億ユーロ、為替調整後では9%増となりました。「この数字は、中国経済のいくつかのセクターにおける成長鈍化を反映しています」と、フォーシュナーは述べています。「インドと日本は力強い成長を見せましたが、部分的な相殺にとどまりました」
2023年の従業員数の推移:安定した水準の雇用
2023年12月31日時点で、ボッシュ・グループの従業員数は全世界あわせて約42万7,600人でした。 暫定決算報告によると、前年から約7,600人、およそ2%の増加となります。ドイツ国内の従業員数は、前年とほぼ同数の13万3,800人 でした。
2024年の展望:世界経済からの成長刺激は期待薄
ボッシュは今年の世界経済の成長率について、2~2.5%と緩やかなものにとどまると予想しています。「私たちの予測では、世界経済が勢いを取り戻し始めるのは2025年になるでしょう」と、フォーシュナーは語ります。「当社のすべての主要セクターにおける見通しは、楽観視できません」。自動車業界では、ボッシュは2024年の自動車生産水準は前年並みになると予想しています。ボッシュは機械製造の景気低迷が今後も続くと予測しており、消費財の需要は2025年まで回復しないと見ています。エネルギー分野では、特に主要市場であるドイツにおいて、暖房システムに対する将来の規制について住宅所有者が不安視していることから、消費者の購買意欲は依然として低迷していると見ています。ボッシュは2024年度も市場からの後押しは期待していません。「私たちは、冴えない経済環境で多額の先行投資をしなければならないとしても、少なくとも7 %という目標利益率を見据えています」とフォーシュナーは述べました。いずれにせよ、ボッシュは目標利益率達成に向けた従来のスケジュールを1~2年先送りしています。ボッシュは将来の市場開拓を成功させるために、コストと競争力を改善する取り組みをさらに強化する予定です。さらにフォーシュナーは、「収益性と資金資源を効率的に活用する一方で、将来の成長のための先行投資とのバランスに努めています」と加えました。
[1] 内部報告に基づく。後日発表される年次報告書の外部の数値とは異なる場合があります。