IoT技術を活用した地方社会の課題解決促進に向けた野生鳥獣対策作業効率化の実証実験に成功 ~IoT端末に実装可能な拡張低レイヤデータ通信技術を開発~

日本電信電話株式会社

発表のポイント:
  • 既存レイヤ2制御フレームの拡張領域を活用した簡易な構成のIoT向け拡張低レイヤデータ通信を実現
  • 本技術を用いて野生鳥獣対策PoCを行い、日々の設置罠見回り作業時間を半分以下に削減できることを確認
 日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)、日本仮想化技術株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:宮原 徹、以下「VTJ」)、ジャパン・マルチハンターズ株式会社(本社:神奈川県小田原市、代表取締役:並木 未来子、以下「ジャパン・マルチハンターズ」)、NPO法人おだわらイノシカネット(本社:神奈川県小田原市、理事長:穂田 芳雄、以下「おだわらイノシカネット」)は、ジャパン・マルチハンターズとおだわらイノシカネットによって野生鳥獣対策が行われている小田原市の山林において、VTJが提供する屋外設置型IoT端末にNTTが開発した拡張低レイヤデータ通信技術を実装し、罠にこれらIoT端末を組み合わせることで、これまで猟師の人力稼働に依存していた日々の設置罠見回り作業時間を従来の半分以下に効率化できることを確認しました。
 本実証実験結果により、地方で問題となっている猪、鹿、熊等の野生鳥獣による農作物や人的被害の低減に向け、各種IoT端末を活用した野生鳥獣対策作業の効率化が期待できます。

1.背景
 野生鳥獣による令和4年度における農作物被害額は156億円と推計され、うち鹿および猪による被害が101億円と全体の約65%を占めています※。また昨今、人間の生活圏に現れた熊による人的被害も多く発生し、野生鳥獣と人間が近いエリアに共生する地方において大きな問題となっています。特に、人間の生活圏に出現する野生鳥獣が増加した原因として、本来生息する山林における生息個体数の過密化が関係していると指摘されており、これら地方において野生鳥獣と人間が共生可能な環境を整備していくには、山林における野生鳥獣の生息個体数を適正に管理する必要があります。地方における野生鳥獣対策は、主に地域の狩猟コミュニティに所属する猟師が担っており、猟師の高齢化、担い手不足、技術活用による効率化が進んでいない、という課題を抱えていました。
 一方、社会実装が進められているIoT(Internet of Things)技術の観点では、IoT端末から得られる様々なデータ(温湿度・映像等)を活用し、農場・工場・物流倉庫といった様々な産業のスマート化が進められており、IoT端末から取得される様々なデータが現場のオペレーションなどに活用されています。これら取得したデータの分析・活用においては、IoT端末の設定・設置環境などが取得したデータの信頼度に影響を与えることが知られており、IoT端末の付加情報(機種、設置場所、ネットワーク接続状況等)を、リソースが限られるIoT端末やネットワークに対して低負荷に、かつ効率的に収集し活用することが課題となっていました。

2.実証実験の内容・成果
 野生鳥獣対策では、主に下記3点(A罠設置、B見回り、C捕獲)の作業が必要になります。Aにおけるおおまかな罠設置エリアの情報は一般的に狩猟コミュニティ内で共有されている一方、現場で実際に罠を仕掛ける具体的な場所や個数は、現場の獣道の状況、野生鳥獣の足跡や糞などの痕跡から、設置する各々の猟師が判断します。猟師の高齢化、および担い手不足が問題となっている現状において、より持続的に地域の猟師による野生鳥獣対策を実現していくには、技術の活用により一人一人の猟師にかかる負担軽減を進めていく必要があります。将来的に、猟師の負担軽減を実現するには、Bで行う毎日の見回りを多くの猟師で分担する必要があり、罠を設置した猟師とは別の猟師が見回りを行うケースが必要となってきます。このため、罠設置場所の詳細を把握していない猟師においても、山林の罠設置ポイントにおいて効率的に罠を発見し、さらには一定期間捕獲ができていない罠の再設置を効率的に行える仕組みが必要となっています。これまでに既製品のIoT端末を使って野生鳥獣対策の効率化を試みているケースが報告されていますが、罠ごとに設定を手動入力する必要があること、IoT端末の設定が煩雑であることなど、運用面での課題がありました(図1、図2)。

◆野生鳥獣の捕獲フロー
A: 山林を回りながら、各罠設置エリアに対して複数の罠を設置
B: 毎日山林を見回り、Aで仕掛けた罠の状態をチェック/回収/再設置
C: 野生鳥獣を捕獲
 

 野生鳥獣対策作業の効率化評価を目的として、日々の設置罠見回り作業中の①罠探索、および②罠再設置に対する作業効率化の効果を検証しました(図1、図3、図4)。今回の実証実験では、おだわらイノシカネットとジャパン・マルチハンターズが狩猟を行う小田原市の山林において、NTTが開発したIoT向け拡張低レイヤデータ通信技術を、VTJの屋外設置型IoT端末に実装した罠センサ、および罠センサから送信される位置情報を元に設置方向を表示する罠探索キットを用意し、作業効率化の評価を行いました。
 ①罠探索作業における評価では、罠設置エリアに4個の罠センサを仕掛けた条件において、罠の場所を知らない被験者が、既存技術(BLEビーコンと既存アプリを用いた探索)と本技術(NTT提案技術と探索キット)を用いた場合における罠発見時間の比較を行いました。既存技術を用いた場合、4個すべての罠の発見に平均32分56秒を要したのに対し、本技術を用いた場合では、平均14分7秒に短縮でき、57%の作業時間効率化を達成できました。
 また、一定期間捕獲できていない②罠再設置作業における評価では、手作業で行っていた従来の方法では1個の罠あたり10分12秒の作業時間を要していたのに対して、本技術を用いた場合では1台あたり1分32秒に作業時間を短縮でき、85%の作業効率効果が確認できました。本成果は、技術的観点では、処理リソースが限られるIoT端末に対し本技術を実装した場合においても、実フィールドで要求される性能を十分に発揮できることを示しています。また、猟師の見回り作業効率化の観点では、罠の設置位置を把握していない複数の猟師による日々の①罠探索と②罠再設置の作業分担が可能となり、狩猟コミュニティ全体での狩猟フローの効率化が期待できます。
 
 

3.技術のポイント
レイヤ2制御フレームの拡張領域を活用した拡張低レイヤデータ通信技術の開発
 様々な環境に設置されたIoT端末の付加情報(端末の識別子、場所、状態、設定等)を効率的に収集するためには、設置環境で接続するネットワークリソースに対して低負荷であること、および端末の処理能力が限られるIoT端末でも実装可能な簡易構成であること、が必要となります。今回開発した拡張低レイヤデータ通信技術は、通信の標準規格において規定されているレイヤ2制御フレームの中で、開発者が任意に実装可能と規定されている拡張領域に付加情報を格納してデータ発信を行うことにより、主通信に影響を与えることなく付加情報を収集することを可能としています(図5)。このようなレイヤ2制御フレームの拡張領域を活用したデータ通信機能をIoT端末に実装することにより、ネットワーク接続が確立していない状態においても付加情報収集を実現できます。これにより、設置現場においてIoT端末を迅速に探索することが可能となり、また、設置場所等の付加情報に応じた複数のIoT端末への一括設定投入など、従来は1台ずつ人手で行っていたIoT端末の新規設置・移設作業の自動化が可能となります。
 

4.各社の役割
NTT:拡張低レイヤデータ通信技術の提供、実証実験での性能評価
VTJ:屋外設置型IoTセンサ端末の提供、屋外でのIoT端末運用支援
ジャパン・マルチハンターズ:獣対策用具の提供、実証実験での評価検証協力
おだわらイノシカネット:猟場の提供、実証実験での評価検証協力

5.今後の展開
 本実証実験によって、野生鳥獣害対策に代表される地方の地域課題に対しても、IoT技術を活用して具体的に解決できる可能性を見出すことができました。今後は、今回の本実証実験の結果をもとに、スマート農場・工場・倉庫など、大量のIoT端末が設置されるようなユースケースでの適用評価および研究開発を進めてまいります。

【用語解説】
※農林水産省 農村振興局 「全国の野生鳥獣による農作物被害状況について(令和4年度)」
URL: https://www.maff.go.jp/j/seisan/tyozyu/higai/hogai_zyoukyou/
 

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