
東京都内の中小企業活性化策として東京都が主催し、公益財団法人日本デザイン振興会が企画・運営を行う「東京ビジネスデザインアワード(以下TBDA)」は、2024年度の最優秀賞1件、優秀賞2件を発表しました。
TBDAは、東京都内の中小企業の持つ技術や素材等を「テーマ」に、デザイナーから新規用途開発とビジネス全体のデザイン提案を募集、両者をマッチングして製品・サービスの実現化を目指すコンペティションです。開催にあたり、本アワードを主催する東京都は、「中小企業が市場で存在感を保ち、生き残っていくための方法として、魅力ある商品づくりやマーケットを意識したブランドの構築などが挙げられます。これを実現するためには、企業の持つ技術等を専門家と協働して新しい価値へと進化させるオープンイノベーションが必要です。本アワードはまさに企業とデザイナーによるオープンイノベーションで、中小企業にとっての新しい価値を事業化・商品化につなげようとするもので、毎年、新たな価値が創出されていることを、非常に喜ばしく感じています。」と述べました。
本年度はテーマに対し寄せられた提案から、審査委員会による一次審査、テーマ選定企業を交えた二次審査を経て2月4日(火)に提案最終審査会を開催し、デザイン性や実現可能性、ビジネスプランの完成度などが最も高く優れている提案のプレゼンテーションと試作品による審査を実施しました。
その結果、2024年度東京ビジネスデザインアワードは、最優秀賞に「リング製本とオンデマンド印刷技術を応用した未開拓領域への製品提案」、優秀賞に「切削加工技術を軸とした事業再創造」、「『伸びる本革ベルト』の技術を活用した家具ブランドの提案」が選出されました。
本年度は、参加の各企業の技術や素材の特性に加え、外部環境の変化による売上不振、原材料の高騰や従業員の高齢化、事業承継など中小企業の現状と直面する課題をテーマに、デザイナーから、現状でどう動くべきなのか、何を目指すべきか、企業の強みを整理し技術や素材の活用だけでなくこれからの企業の姿勢や在り方を提案するものが多く寄せられました。
今後はテーマ賞を受賞した各提案のビジネスの実現化に向けて、審査委員会と事務局が各種セミナーや個別コンサルティングなどによるサポートを提供します。
<2024年度アワードスケジュール>
2024年度提案最終審査会
【最優秀賞】提案名:リング製本とオンデマンド印刷技術を応用した未開拓領域への製品提案
提案者 :藤井誠(コンセプトプランナー/デザイナー)・山田奈津子(デザインアーキテクト/一級建築士) 【ディノーム】
企業テーマ:リング製本とオンデマンド印刷のワンストップ提供体制
企業名 :富士リプロ株式会社(千代田区)
提案内容 :富士リプロの事業の一部であるリング製本とオンデマンド印刷の技術を応用してつくる新領域での製品の提案。
審査委員評価:
リング製本とオンデマンド印刷という元来持っていた高度な技術を活かしながらも、これまでの事業の方向性を変えうる大胆な提案だった。企業の「テーマ」というお題からのデザインの発想力は、今回の9つの提案の中で最も優れていたと評価できる。11月の提案一次審査時の案から比べると飛躍的に質が向上しており、企業とデザイナーが一体となってこの短期間でよくここまで仕上げてきたと、審査委員からも口々に感嘆の声が上がった。試作品のクオリティを見ると、今後の可能性に期待が高まるばかりだ。
藤井誠(コンセプトプランナー/デザイナー)受賞コメント
最優秀賞は「一つの通過点」と口では言いながらも、実際は受賞できたことがとても嬉しいです。富士リプロ様がモチベーション高く取り組まれ、2か月間のプロジェクトを進める中でその責任の重さを実感しました。この受賞を励みに、今後も継続してしっかりとしたものづくりを進め、市場で売れる製品を生み出していきたいと思います。
富士リプロ株式会社 代表取締役 今村秀伸氏 受賞コメント
デザインの力は本当にすごいと思いました。デザインに携わる皆さんが発信をしていくことで、社会がより良くなると感じました。デザイナーとの協働により大きなエネルギーが生まれること、そして結果がもたらされるということを初めて学びました。ただし、まだ結果は出ていないので、これを最初のステップとして頑張っていきたいです。
【優秀賞】提案名:切削加工技術を軸とした事業再創造
提案者 :清水覚(ビジネスデザイナー)・井上弘介(デザイナー/中小企業診断士)
企業テーマ:金属切削による高精度な軸物加工
企業名 :株式会社開工精機製作所(板橋区)
提案内容:
金属切削技術を活かした組み替え可能な筆記具「SHAFT CRAFTS」。自動車用部品製造で培った高精度嵌合と金属削り出しならではの意匠性を強みとし、新たなビジネスモデルとしてBtoC市場での販売とBtoB向け加工サンプル提供を同時展開。全国の金属切削を行う町工場と連携し、共創プラットフォームを形成。
審査委員評価:
これまでの当アワードでも、数多くの企業が金属の切削技術をテーマとしてチャレンジしてくれているが、製品化した際の値段や重量がネックになって、なかなかうまくいかないことも多かった。その点この提案は、デザイナーのアイデアと企業の持つものづくりの精度がマッチしており、町工場の技術の真髄を感じさせる製品ができるのではないかと、大いに期待が持てる内容だった。自動車産業の部品を製造している日本中の中小企業に勇気を与える存在になって欲しいと願う。
清水覚(ビジネスデザイナー) 受賞コメント
開工精機製作所様は、新しい案件に取り組む余力が十分にないなかでも、熱心に製品精度の向上に取り組んでくれていたので、今回の受賞が明るいニュースになれば嬉しいです。今後は、受賞を機に新しい動きができるように、小さくても話題になることを意識して動いていきたいと思っています。
優秀賞】提案名:「伸びる本革ベルト」の技術を活用した家具ブランドの提案
提案者:佐藤宏樹(プロダクトデザイナー)【KOKI SATO STUDIO】
企業テーマ:ベルトに用いられる伸縮できる本革の加工技術
企業名:有限会社長沢ベルト工業(葛飾区)
提案内容:
独自技術の伸びる本革ベルトを活用し、その世界観を広げるためのスツールの提案。長年ベルトを作り続けてきた中で培われた技術力とブランドを広げるためのコンセプトプロダクトとして、伸縮するレザーという特徴的な素材を活かしたテンセグリティ構造を取り入れてデザインした。
審査委員評価:
ベルトづくりという確固たる技術を有する企業のブランドイメージを損なうことなく、革の端材を使った椅子として新たな製品にきっちりと落とし込んでいる。本革の加工にプライドを持つ職人たちのモチベーション喚起にも寄与していて、企業の資産をうまく活用した高レベルの提案だった。試作品のプロダクトとしての質の高さも評価が集まった大きな要因としてあげられる。さらなる製品の磨き込みとこれからの展開に期待したい。
佐藤宏樹(プロダクトデザイナー)受賞コメント
最初に工場を見学させていただいたときから、この技術は素晴らしいと思い、この技術をどう伝えたらいいか、もっと良いものができるようにと考えて提案をさせてもらったので、優秀賞の受賞はすごく嬉しいです。
これからもここがゴールではなくて、実現化に向けて一緒にやっていけたらと思ってます。
2024年度「東京ビジネスデザインアワード」審査委員長 山田遊 提案最終審査講評
私は審査委員長として4年、審査委員として10年ほどこのアワードに関わらせていただいてますが、今年は、過去一番レベルが高く、非常に僅差で、まさに「横一線」という表現がふさわしかったと思います。実際に、審査委員がそれぞれ付けた点数では差がほぼつかなかったという状況でした。
最優秀賞、優秀賞を受賞した企業とデザイナーの皆さんはもちろん大いに誇るべき成果ですが、テーマ賞を受賞された方々もこの結果に自信を持っていただきたいと思います。一方で、僅差を分けたのは「モノ」に対してのデザインの精度のわずかな差だったのかもしれません。
この10数年間で「モノからコトへ」デザインが移り変わってきましたが、この概念が広がることによって皆さんの「コト」の提案レベルが高くなり、それにより最終的な結果を分けたのがプロダクトデザインとしてのディティールの差だったのではないかと思っています。これは東京ビジネスデザインアワードにとってエポックメイキングな出来事であったのではないでしょうか。だからこそ、来年以降の企業やデザイナーの皆様には、より一層のクオリティが求められることになることに、今から大きな期待を抱いております。これからがスタートということで、デザイナーと企業それぞれが二人三脚で進めていき、商品化とその先のビジネスとしての結果に繋がることを願っております。
<2024年度「東京ビジネスデザインアワード」審査委員会>
審査委員長
山田 遊 バイヤー /株式会社メソッド 代表取締役
審査委員
秋山 かおり プロダクトデザイナー / STUDIO BYCOLOR
谷口 靖太郎 デザインエンジニア・ディレクター /Takram
日髙 一樹 特定訴訟代理人・弁理士・デザインストラテジスト /日高国際特許事務所所長
坊垣 佳奈 株式会社マクアケ 共同創業者/顧問
宮崎 晃吉 建築家 /株式会社HAGISO 代表取締役
八木 彩 アートディレクター・クリエイティブディレクター / アレンス株式会社 代表取締役
<2024年度「東京ビジネスデザインアワード」企業テーマ・デザイン提案一覧>
各テーマの詳細は、公式サイトをご覧ください。
https://www.tokyo-design.ne.jp/archive/outline/2024/
・企業テーマ:
2024年度「東京ビジネスデザインアワード」のテーマとして選定された東京都内の中⼩企業が保有する独⾃の技術や素材など
・デザイン提案:
上記のテーマに対するテーマ賞を受賞した提案
企業テーマ |
デザイン提案 |
テーマ1.
リング製本とオンデマンド印刷のワンストップ提供体制
富士リプロ株式会社
(千代田区) |
提案名:
リング製本とオンデマンド印刷技術を応用した未開拓領域への製品提案
藤井誠(コンセプトプランナー/デザイナー)・山田奈津子(デザインアーキテクト/一級建築士)【ディノーム】
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テーマ2.
金属切削による高精度な軸物加工
株式会社開工精機製作所(板橋区) |
提案名:
切削加工技術を軸とした事業再創造
清水覚(ビジネスデザイナー)・井上弘介(デザイナー/中小企業診断士) |
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テーマ3.
唯一無二の立体感を持つ極厚・凹凸加工技術
東和マーク株式会社
(北区) |
提案名:
「貼る」を文化にする新製品の提案
清水覚(ビジネスデザイナー)・
清水彩香(販売スタッフ) |
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テーマ4.
金属板の自由自在な加工技術と高速な
試作体制
磯村産業株式会社
(葛飾区) |
提案名:
磯村産業オリジナル製品のリブランディング
清水覚(ビジネスデザイナー)・本島祐太郎(コンサルタント) |
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テーマ5.
ベビー用品製造で培われた縫製と検品
の安心・安全技術
日本エイテックス株式会社(文京区) |
提案名:
大切な道具を守るためのプロダクト開発と既存ブランドの強化
土井智喜、比嘉丈偉 (デザイナー)【soell株式会社) |
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テーマ6.
高耐久鋼の帯材への曲げ・ねじり加工
新田スプリング株式会社(足立区) |
提案名:
鋼帯材の特性を活かした汎用性の高いプロダクト提案
大森謙一郎(プロダクトデザイナー)【KENICHIRO OOMORI MOVING】
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テーマ7.
ベルトに用いられる伸縮できる本革の加工技術
有限会社長沢ベルト工業(葛飾区) |
提案名:
「伸びる本革ベルト」の技術を活用した家具ブランドの提案
佐藤宏樹(プロダクトデザイナー)【KOKI SATO STUDIO】
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テーマ8.
医療器具水準の滑らかな仕上がりをもたらす金属手加工
三祐医科工業株式会社(足立区) |
提案名:
医療器具水準の金属手加工技術を活かしたプロダクトの提案
保田亮(デザイナー)・勝呂公美子(コピーライター) |
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テーマ9.
紙のように使える高耐水性エコ素材
有限会社アールコーポレーション(北区) |
提案名:
紙のような高耐水性エコ素材HAQURのプロダクトブランド提案
河本匠真(デザイナー)・河本弘美(ビジネスプランナー)【PHENOGRAPH】 |
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