株式会社ビデオリサーチ(以下、当社)は、2017年から生活者のメディア接触の変化を把握する目的で、生活者の「生活行動」と「メディア接触行動」の特徴を読み解く取り組みを行っています。この取り組みは、当社の『MCR/ex』(生活行動・メディア接触時間調査)データを基に、データのパターンを解析する手法である「ソーシャル・シークエンス分析」※1を用いて行っています。今回のニュースレターでは、当社の生活者に関するシンクタンク・ひと研究所所長の渡辺庸人と、メディアデザイン研究所所長の奥律哉が分析した「コロナ禍を経て複雑に変化した生活やメディア接触行動」に関する情報を一部ご紹介します。
分析サマリー
■従来の“テレビ専念”クラスターが分散。
「テレビを中心としたメディア主体の生活」から「生活の中のメディア」へ変化
従来の「テレビを中心としたメディア主体の生活」から、現在は寝て・起きて・外出という生活の三行動の中にテレビ視聴を含めたメディア行動が分散、「生活の中のメディア行動」に変化している
■若年層で朝のインターネット動画視聴が増加
近年、若年層で「朝のインターネット動画視聴行動」が増加。程よい長さのコンテンツを活用し、身支度の傍らタイマー代わりに動画を視聴したり、夜の時間を確保するために朝に動画視聴をする傾向も見受けられる
■今後のテレビの可能性、カギは「最速性」(渡辺)
■メディア行動の分散が進む中、「その次」を見越して待ち構える姿勢が重要(奥)
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※1ソーシャル・シークエンス分析…出来事や状態の変化など、順序のあるデータを分析する解析手法の一つ
■従来の“テレビ専念”クラスターが分散。「テレビを中心としたメディア主体の生活」から「生活の中のメディア」へ変化
2024年データでわかるテレビ専念クラスターの変化:
『MCR/ex』の15分ごとの行動データを睡眠・外出・テレビ視聴など代表的なアクションを軸に再形成し、生活者の行動パターンを11通り※2に分類、その構成比の変化を分析したところ、2018年~2024年のデータを合算して解析した場合出現していた「テレビ専念クラスター(テレビ専念視聴が多い人を示す集まり)」が、2024年単体のデータでは出現していないことを確認しました(図1)。要因として、テレビをリアルタイムで専念視聴する人が他のメディアへ分散されたこと、共働き夫婦や働き続けるシニアの増加により家にいる時間が減少したことの2つが挙げられます。
【図1】シークエンス分析(2024年データ)
近年のメディア接触データから見える、視聴傾向のトレンド:
現在は放送、ネットに対しあらゆるオプションが生まれ、ライブ、アーカイブ、見逃し配信などから選び、好きなタイミングでのコンテンツ視聴が可能です。視聴メディアの多様化が進む中、生活者の“見たいもの”がどう変化しているかについて、渡辺は「今は限定的な範囲のコンテンツであっても、SNSを通じて、好きなもの同士でのコミュニケーションがとれるようになった。その影響で、生活者がパブリック(職場、学校など)な興味関心以外にも“自分自身の興味関心”というプライベートな領域にフォーカスをあてやすくなっているのではないか」と分析します。また、すきま時間を活用して多様化した個人の興味関心分野に合うコンテンツをシームレスに行き来できるため、特にショート動画は若年層を中心に興味関心の入口となりやすい傾向にあります。SNS上で話題になったコンテンツをテレビで専念視聴する若者もおり、テレビ視聴の新たな経路について、奥は「動画配信サービスとテレビは、補完関係にある」と述べています。
近年のテレビメディアを取り巻く変化について、奥は「以前は見たいテレビ番組があれば視聴者はテレビの前で待っている“メディアに生活を合わせる時代”だったが、現在は寝て・起きて・外出という生活の三行動の中に、テレビ視聴を含めたメディア行動が分散されていく、“生活の中のメディア行動”に変化している」と捉えています。
※2 11の行動パターン…
(1)仕事や学校があり、月~金で定型的・外出が多い…①月~金・日中フルタイム・テレビ型②月~金・日中フルタイム・ネット型③月~金・遅めフルタイム型④月~金・時短外出型⑤在宅勤務型
(2)在宅していることが多く、在宅中はテレビ視聴が目立つ…⑥在宅-テレビ専念型⑦在宅-テレビながら型
(3)在宅していることが多く、在宅中はネット利用が目立つ…⑧在宅・ネット中心-日中外出型⑨在宅・ネット中心-夕方外出型
(4)在宅していることが多く、在宅中のメディア利用は限定的…⑩在宅・生活行動中心型
(5)昼夜逆転・夜勤など深夜行動あり…⑪深夜外出型
■若年層で朝のインターネット動画視聴が増加
また、『MCR/ex』で、一日の中での自宅内でのインターネット動画視聴行動がどのように変化してきたかを確認したところ、近年、朝のメディア視聴行動に変化が表れていることを確認しました。2019年~2023年のデータを2年おきに分析すると、特に若年層(12~29才)の変化は顕著で、6-8時台にかけて2021年では見られなかったインターネット動画利用の山が2023年では出現しました(図2)。コロナ禍で配信動画を視聴する習慣ができたことや、朝の時間を、有効活用の一環でメディア利用に使うようになっている人が一定数いることが背景として考えられます。
ひと研究所による「朝の動画視聴 生活サーベイ」で挙がった特徴的な事例をご紹介します(図3)。「海外ドラマやアニメを見ながら、外出の準備をする」では、生活者は自分が好きな海外ドラマコンテンツに関しては作品展開によって残り時間を把握できるため、身支度などの傍らタイマー代わりに動画を視聴しているようです。また、夜に予定があったり、睡眠時間を確保したりするために、朝にスポーツの試合結果や好きなコンテンツを視聴するという人たちもいます。生活パターンに合わせてタイムシェアリングをして、そこに自分の見たいコンテンツを入れ込んでいくという傾向が見られました。
【図2】自宅内のインターネット動画 利用行動率(週平均)(2019年~2023年)

【図3】朝の動画視聴実態(例)
■今後のテレビの可能性、カギは「最速性」(渡辺)
今後のテレビの可能性について渡辺は、「コンテンツ力(りょく)があれば選ばれ、その力が今後より重要になってくると思います。また、SNSで情報が手軽に取得できる環境下、スポーツをはじめとする何が起こるか分からない瞬間を体験するにはリアルタイムでの視聴を選ぶ人が多いと考えられます」と述べています。さらに、「リアルタイムで見て面白かっただけではなく、放送前の準備段階、放送後の感想の共有といった体験性もリアルタイムの価値」とコメントしています。コロナ禍の影響や動画配信サービスの浸透によって生活者の行動パターンは再構成されていると考えられるものの、ドラマや映画においても「コンテンツ力」に加えて「最速」が「価値」になる傾向は見られ、今後は「最速性」のようなリアルタイム視聴の新しい価値を見出すことが必要だと指摘しています。
■メディア行動の分散が進む中、「その次」を見越して待ち構える姿勢が重要(奥)
奥は、「インターネット動画の浸透とコロナ禍によって、生活の変化は3倍速で進みました。在宅勤務をはじめ、家の中で比較的自由に時間が使える生活を体験、加えて各種インターネット動画やコネクテッドTVなどさまざまなサービス拡大がほぼ同時に起こったことで、メディアはより人々の好みに合わせて選ばれるようになりました。今後もメディア行動は分散の傾向にありますが、一方で行動の根底にある価値観など変わらないものもあります。時代ごとの背景の中で変わりゆく各世代の基礎的なメディア行動と、人々の生活の仕組みや潮流がどこに向かっているかを捉え、一方で時間やお金といった有限なものを人々がどのように配分していくかも踏まえた上で、その先でコンテンツビジネスや広告ビジネスはトレンドセッターとして待ち構えていく必要があります」とコメントしています。
渡辺は、「テレビ視聴の議論をすると、コネクテッドTVも含めたテレビという『箱』の中での視聴者の取り合いという話になりやすいですが、生活者を俯瞰して見えてくるのは、テレビモニターの視聴の外側にある生活行動との関係が重要であるということです。メディア行動が生活の中に分散していく中で、『推し活』のような生活者の行動様式の特性は常に注目しなければならないと思います」とコメントしています。
分析担当者プロフィール ※分析担当者のご紹介・インタビュー取材が可能です
ソリューションユニット フェロー/ひと研究所 所長 渡辺 庸人
2009年、ビデオリサーチ入社。主に広告会社や広告主の調査企画・分析に従事する傍ら、若者研究や幸福研究などに携わり、2017年よりひと研究所に参画し研究発信・セミナー登壇などを行う。2024年より現職。現在は生活行動とメディア利用の関係を中心に研究中。修士(社会学)、専門社会調査士。
メディアデザイン研究所 所長 奥 律哉
1982年、電通入社。ラジオ・テレビ局、メディアマーケティング局、MC プランニング局などを経て、電通総研フェロー、電通メディアイノベーションラボ統括責任者を歴任。2024年6月末、電通を退社。ビデオリサーチにてメディアデザイン研究所 所長を務める。主に情報通信関連分野について、ビジネス、オーディエンス、テクノロジーの3つの視点から、メディアに関わる企業のコンサルティングに従事。総務省「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」構成員。NPO法人/放送批評懇談会 出版編集委員会委員。
本レターに利用した調査概要
■シークエンス分析
サービス名: MCR/ex
調査期間: 2018年、2020年、2022年、2024年 「春調査(各6月実査)」
対象エリア: 東京50km圏、関西地区、名古屋地区
調査対象: 男女12歳~69歳
サンプル数: 2018年:7,764ss / 2020年:7,948ss / 2022年:7,575ss / 2024年:7,799ss(合計:31,086ss)
■自宅内のインターネット動画 利用行動率
サービス名: MCR/ex
調査期間: 2019年4-6月、2021年4-6月、2023年4-6月
対象エリア: 7地区 (東京50Km圏、関西地区、名古屋地区、北部九州地区、札幌地区、仙台地区、広島地区)
調査対象: 男女12~69才
サンプル数: 2019年:10,814ss / 2021年:11,631ss / 2023年:10,926ss
■ひと研究所「朝の動画視聴 生活者サーベイ」
調査方法: モニターからの写真提供・インタビューなど
調査対象: モニタリングサーベイモニター(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県中心)
調査期間: 2023年7月
調査実施: 株式会社 精クリエイティブ
■MCR/ex(エム シー アール エクス)
人々の生活実態を一日の流れで捉えることで、生活者の情報接点が把握できるデータパッケージです。日本最大級のマーケティングデータ『ACR/ex』と同一サンプルに実施する生活行動調査を軸に、メディアを取り巻く環境の変化と生活行動に関するデータを提供しています。日記式の生活行動調査から、生活者の行動パターンや行動リズムを捉え、情報の接点を分析することができます。
https://www.videor.co.jp/service/media-data/mcrex.html