立命館大学を中心とした研究グループは、植物が成長する際に作られる植物細胞壁成分ペクチンの合成の仕組みを世界で初めて明らかにしました。
【発表のポイント】
・植物はペクチンを主成分の⼀つとする細胞壁を合成しながら成長する。
・ペクチン主鎖を合成する糖転移酵素を発見し、ペクチン合成の仕組みを解明した。
・この酵素は、これまで報告されていない遺伝子ファミリーに属していた。
・この遺伝子ファミリーは、植物の陸上化と共に現れたもので、ペクチン合成は植物の陸上化の鍵を握る。
立命館大学(学長:吉田美喜夫)生命科学部の石水毅准教授、加藤耕平(大学院生)、立命館グローバル・イノベーション研究機構の竹中悠人博士研究員らの研究グループは、名古屋大学、甲南大学、東北大学との共同研究で、植物が成長する際に作られる植物細胞壁(※1)成分ペクチン(※2)の合成の仕組みを世界で初めて明らかにしました。ペクチンは複数の糖成分が鎖のようにつながって形成されますが、その主鎖を合成する糖転移酵素(※3)を発見し、この酵素が新しい遺伝子ファミリー(※4)に属することを見出しました。この遺伝子ファミリーは植物の陸上化(※5)と共に現れたものであり、ペクチンを作るようになったことが、植物が進化の過程で陸上化した⼀つの要因であることを示しました。本発見により、植物の伸長成長の仕組みの⼀端が明らかとなり、成長を早めた作物の育種に応用できます。ペクチンはゲル化剤として食品添加剤にも用いられており、発見した酵素を活用して新規機能を持つゲル化剤の開発への応用も考えられます。
本成果は、英科学誌Natureの姉妹誌『Nature Plants』に掲載されました。同時にNews & Viewsの記事で本研究が紹介されます。また2018年9月号の表紙写真を飾ります。本研究は、文部科学省科学研究費補助金、日本学術振興会科学研究費、立命館グローバル・イノベーション研究機構の支援を受けて行われました。
【詳細な説明】
植物細胞の最大の特徴の⼀つは細胞壁があることです。細胞壁は植物細胞の成長や形作りに貢献しています。また、細胞壁は細胞成長に伴って伸びていく柔軟さと、重力に逆らって垂直方向に伸びていく強固さとを兼ね備えています。この細胞壁はセルロース、ペクチン、ヘミセルロースなど、多様な多糖で構成されています。このうち、ペクチンの合成は細胞の成長に伴って活発に行われます。またペクチンは細胞間に豊富に存在することから、細胞接着にも関わると考えられています。ペクチンはゲル化剤として食品に利用されており、我々の生活を支えている身近な植物成分でもあります。植物にも人にも大事なペクチンの機能を解明するために、ペクチン合成酵素の同定、ペクチン合成の仕組みの解明が長年望まれていました。
ペクチンは複数種類の糖が結合した非常に複雑な構造をした多糖で、それらの構造は約30年前に決定されました。しかし、ペクチン合成に関わる酵素の検出が難しく、これまでに主鎖を合成する酵素さえ、同定されていませんでした。当研究グループでは、ペクチン合成に関わる酵素の活性を検出する方法を長年に渡って確立してきました。今回の研究では、ペクチンのみが集積される種子を保護する多糖(ムシレージ)に注目しました。種子が発達していく段階の中で、種子保護多糖が合成される時期の発現遺伝子を網羅的に解析することで酵素遺伝子を選抜しました。確立した酵素活性検出法を適用することで、ペクチンの主鎖の合成に関わる新たな糖転移酵素遺伝子を、シロイヌナズナから4種類発見しました。この酵素の解析法を確立していたのが当研究グループのみであったことが、世界に先駆けての発見に結びつきました。
同時に、これらの酵素遺伝子が新しい遺伝子ファミリーに属することも見出しました。このファミリーは、水生植物には見られず、陸上植物に見られることから、重力に逆らって垂直に伸びていく陸上植物の性質が獲得されたのは、ペクチンが合成されるようになったためと推測されました。進化の過程で、この遺伝子ファミリーを獲得することが、植物の陸上化を可能にした⼀つの要因と思われます。この遺伝子ファミリーはとても大きいファミリーで、まだ未知として残されている他のペクチン側鎖の合成に関わる遺伝子が多く含まれていると考えられました。すなわち、本研究成果は、長年未解明であったペクチン合成の仕組みの解明に扉を開いた画期的な発見です。
将来の展望として、ペクチン合成が植物の成長と関連することから、本酵素遺伝子に焦点を当てた育種により、成長の早い植物を作り出せる可能性があり、作物増産に活用することが期待されます。また、植物が進化の過程で陸上化した仕組みを解明するために、ペクチンにより植物細胞どうしがどのように接着して強固になり、重力に逆らって垂直に伸びるようになったのか、植物が備えている基本的な性質に迫っていく研究が展開できるようになります。さらに、ペクチンはゲル化剤として食品産業でよく利用されていることから、ペクチンの構造を改変することで、新しい性質を持つゲル化剤の開発も期待されます。
【用語説明】
(※1)植物細胞壁:植物細胞の外側を取り囲み、セルロース、ヘミセルロース、ペクチンの多糖類、リグニンを主成分とする構造体。ペクチンに富み、成長時に合成される⼀次細胞壁と、セルロースやリグニンに富み、成長終了後に肥厚する⼆次細胞壁に分けられる。
(※2)ペクチン:成長に関わる⼀次細胞壁や細胞接着に関係する細胞間に多く存在する。ガラクツロン酸、ラムノースなど13種類の糖成分から構成される複雑な構造をしている。ラムノガラクツロナンI、ラムノガラクツロナンII、ホモガラクツロナンといった3つのドメインから構成されている。条件によってゲル化する性質をもつ。
(※3)糖転移酵素:糖を転移して、多糖などの糖質化合物を合成する酵素の総称。糖鎖の構造は糖転移酵素の特異性により決められている。
(※4)遺伝子ファミリー:塩基配列および機能が類似している遺伝子群。進化の過程で現れたり、遺伝子重複により数が増えたりする。
(※5)植物の陸上化:進化の過程で植物の祖先が水中から陸上へ進出したこと。約5億年前に、緑藻類から進化して車軸藻類(もっとも原始的と考えられている陸上植物)が現れたと考えられている。
【論文題目】
題目:Pectin RG-I rhamnosyltransferases represent a novel plant-specific glycosyltransferase family
(ペクチン合成に関わるラムノガラクツロナンラムノース転移酵素の発見と新規植物特異的糖転移酵素ファミリーの発見)
著者:竹中悠人(立命館大学)、加藤耕平(立命館大学)、大西(小川)真理(名古屋大学)、
鶴浜和奈(立命館大学)、梶浦裕之(立命館大学)、柳生健太(立命館大学)、
竹田篤史(立命館大学)、武田陽⼀(立命館大学)、國枝正(甲南大学)、
西村いくこ(甲南大学)、黒羽剛(東北大学)、西谷和彦(東北大学)、
松林嘉克(名古屋大学)、石水毅(立命館大学)
雑誌:Nature Plants
DOI:
http://dx.doi.org/10.1038/s41477-018-0217-7
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