●閃光時間が10 フェムト秒という極限的超短パルスレーザー光を用いる
●分子振動をコヒーレントに励起することで、溶液から気相への相転移を誘起できることを見出した
●不飽和溶液を用いても結晶化できるという利点がある
岩倉いずみ准教授らの研究グループが、閃光時間が10フェムト秒(フェムト:10-15※)と極限的に短い可視レーザー光を用いることで、分子振動をコヒーレント励起し相転移を誘起する、有機分子の昇華結晶化手法を開発。その研究成果が英国Nature姉妹紙の『Communications Chemistry』に掲載された。 分子振動周期よりも閃光時間が短い10フェムト秒という極限的パルスレーザー光を用いることで、糖化合物が溶液中から気化し、昇華結晶化するという新規な現象を見出し、発表した。この結晶化手法には、不飽和溶液を用いても結晶化を誘起できるという利点があり、微量のサンプル溶液からでも構造解析に適した純粋な結晶を形成できるという特徴がある。
※表記については、神奈川大学ホームページ プレスリリース欄を参照
■研究の概要
一般的に化合物の結晶は昇華させたり、溶融状態や過飽和状態の液体をゆっくりと冷却することで得られる。本論文では、可視10フェムト秒レーザー光を使用して糖1(チオグルコシド)の単結晶を生成する新しい手法を報告した。ガラスセル内の溶液にレーザー光を集光すると、液面より30 mm上空にあるガラスセル天井端に単結晶が堆積した。この発見は、核形成部位が溶液中または気-液界面である他のレーザー光誘起結晶化とは対照的である。
常圧下・減圧下において、この糖1を加熱すると、気化することなく単化してしまう。ところが、電子状態の最低遷移エネルギーよりも光子エネルギーが低い可視10フェムト秒レーザー光を照射すると、糖および溶媒のラマン活性な分子振動が電子基底状態においてコヒーレントに励起され、溶液から気相への相転移が誘起される。さらに、気化した溶質はガラス壁に堆積し、昇華結晶化すると考えられる。この手法は不飽和溶液からでも結晶を形成でき、形成された結晶には溶媒が含まれていないため、微量のサンプル溶液からでも構造解析に適した純粋な結晶を形成できる。
本研究成果は、2020(令和2)年3月17日に、英国NaturePublish Groupのオンラインジャーナル『Communications Chemistry』に掲載
「I. Iwakura, K.Komori-Orisaku, S. Hashimoto, S. Akai, K. Kimura, A. Yabushita, Formation of thioglucoside single crystals by coherent molecular vibrational excitation using a 10-fs laser pulse. Communications Chemistry. 3, 35 (2020).
DOI:10.1038/s42004-020-0281-6.
誌名:Communications Chemistry (略称:Commun. Chem.)
巻号:3 論文番号:35 (2020)
論文のURL
https://www.nature.com/articles/s42004-020-0281-6 公開の形態:オープンアクセス
◆プロフィール
岩倉いずみ 【工学部 化学教室 准教授 博士(理学)】
■専門分野
反応機構解析、レーザー化学、計算化学、超短パルスレーザー、光化学
■受賞歴
2017/10 学術褒賞
2017/04 科学技術分野の文部科学大臣表彰 若手科学者賞
2015/05 第20回日本女性科学者の会奨励賞
2015/03 日本化学会第64回進歩賞
▼本件に関する問い合わせ先
工学部 化学教室
准教授 岩倉いずみ
TEL:045-481-5661
メール:izumi@kanagawa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/