昭和大学(東京都品川区/学長:久光正)の柴田 佳太准教授 (薬学部 基礎医療薬学講座 薬理学部門/教授:野部 浩司) らの研究グループが、東京農工大学 (蓮見惠司教授) の研究グループと共同研究を行ってきた新規化合物群SMTPの一つTMS-007において、臨床開発を手掛けるバイオベンチャー (株) ティムスは、脳梗塞患者を対象とした臨床第II相試験を完了し、安全性と有効性を確認しました。
SMTPは、東京農工大学の蓮見惠司教授らがクロカビから発見した新規化合物群であり、血栓溶解酵素プラスミンの前駆体プラスミノゲンの立体構造を変化させ、血栓への結合を促すとともにプラスミノゲンからプラスミンへの変換を促進することで血栓溶解作用を示します。さらに、可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害作用に基づく抗炎症作用を併せ持っています。昭和大学の柴田 佳太准教授らが、脳梗塞病態モデルマウスを用い、脳内出血を引き起こさずに顕著な効果を示すことを初めて発見し、2010年に報告しました。
2015年8月より開始された第I相臨床試験にて安全性が確認された後、第II相試験においては、多施設、単回投与、二重盲検、無作為化、プラセボ対照、用量漸増群間並行試験として、TMS-007の3群(1、3、6 mg/kg)とプラセボ群で行われました(TMS-007投与患者52例、プラセボ投与患者38例)。発症後12時間以内の急性虚血性脳卒中(脳梗塞)患者で、組織プラスミノゲン活性化因子(tPA)や血栓除去術が適用できない患者を対象として安全性と有効性を評価しました。
主要評価項目は、米国国立衛生研究所脳卒中スコア(NIHSSスコア)が4点以上悪化した症候性頭蓋内出血の発生率における安全性評価であり、TMS-007群ではイベントは発生しませんでしたが、プラセボ群では3%の発生率でした。このことから、TMS-007は、従来の血栓溶解剤で指摘されていたような重篤な頭蓋内出血の副次作用をもたないことが示されました。
さらに、TMS-007は、副次評価項目である90日後の機能的自立度mRS(modified Rankin Scale)についても、プラセボ投与群の18%に対し、TMS-007投与群の40%が、mRSスコアが0または1となり、症状が残らない、または重大な障害がないこと(有効性)を示しました(P <0.05)。この結果は、TMS-007を投与された大血管閉塞症患者の一部において、再開通を示す血管造影の証拠によって裏付けられました。磁気共鳴血管造影法MRAによる再開通率は、プラセボ投与群の26.7%(4/15)に対し、TMS-007投与群では58.3%(14/24)でした(オッズ比4.23、95%信頼区間(0.99, 18.07))。これまで数多くの脳梗塞治療薬候補物質が開発されてきましたが、そのほとんど全てが承認されず失敗に終わっています(脳梗塞に対する最後の血栓溶解剤が承認されてから約25年が経過)。TMS-007は、血栓溶解療法を受けられる可能性のある患者数を増やし、脳卒中後の機能的自立の可能性を高めることができると考えられます。
2018年6月に、ティムスは米製薬大手Biogenとの間に最大総額3億3500万ドル(現在の為替相場で約365億円)規模のオプション契約を締結しており、この結果を受けてBiogenはオプション権を行使し、TMS-007の承認に向けて本格的開発を加速することになります。
今後は、Biogenが、今後のTMS-007の開発、製造、商業化を実施します。同社は現在、TMS-007の臨床開発について、国際共同治験の計画を含め、次のステップを検討しています。今回の治験の最終的な結果は、今後、学会や学術誌で発表される予定です。
昭和大学の研究班:本田一男(薬学部 基礎医療薬学講座 薬理学部門)、野部浩司(同)、柴田佳太(同)、橋本光正(遺伝子組換え実験室) 他
参考:東京農工大学ホームページ プレスリリース
https://www.tuat.ac.jp/outline/disclosure/pressrelease/2021/20210513_02.html
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▼本件に関する問い合わせ先
昭和大学 薬学部 基礎医療薬学講座 薬理学部門
准教授 柴田 佳太 (シバタ ケイタ)
TEL: 03-3784-8212
Mail: kshibata@pharm.showa-u.ac.jp
▼本件リリース元
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