北里大学海洋生命科学部の広瀬雅人講師が、日本の太平洋沿岸の大陸棚から大陸斜面に生息するコケムシの新種5種を記載しました。このうち3種は海底に生息する他の動物の体表に付着して生活している種で、それぞれウミユリの仲間のトリノアシやオオグソクムシ、ヤマトトックリウミグモに付着していました。本論文では、日本から初報告となるTriticella属の2種や世界で2種目となるMetalcyonidium属の新種を報告しています。また、Metalcyonidium属が含まれるClavoporidae科は、北西太平洋からは初めての報告となります。
本研究成果は、2022年1月28日付で、Zoological Science誌のオンライン版で公開されました。
■研究の背景
コケムシは、苔虫動物門(外肛動物門)に分類される無脊椎動物で、水中の貝殻や海藻の上に植物のコケのような群体をつくる動物です。体長1mm弱の小さな個虫が無性生殖を繰り返し、海藻状やサンゴ状などさまざまな形の群体をつくります。個虫はそれぞれ触手がカップ状に並んだ触手冠をもち、これを使って水中の微生物などを濾過して食べています。現生種約6,000種のうち大半が海に生息しており、日本の海にも1,000種以上が生息していると考えられています。海に生息するコケムシの多くはサンゴのような石灰質の群体をつくりますが、櫛口目に属すコケムシはクチクラでできた繊細な群体をつくるため、世界的にも特に分類学的研究が進んでいないグループの一つです。
■研究内容と成果
日本の太平洋沿岸で得られた櫛口目コケムシを詳細に観察し、5種の新種を記載しました。このうち3種は深海底に生息する他の動物の体表に付着して生活している種で、ウミユリの仲間のトリノアシに付着していた種は突出した虫室口を鋲に見立ててAlcyonidium clavum、オオグソクムシに付着していた種は群体を小さな羽飾りに見立ててTriticella parvacrista【図1】、ヤマトトックリウミグモの担卵肢に付着していた種は付着部位にちなんでゆりかごの意味をもつTriticella cunabula【図2】としました。これら3種はいずれも鳥羽水族館からご提供いただいた標本です。また、Triticella 属は日本からは初報告となる属です。この他に、2014年3月に国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)の「新青丸」による初めての底生生物調査で仙台沖から得られた種は、大きく膨らんだ空個虫をもつ点にちなんでBockiella arcatumidaと名付けました。本属の新種は58年ぶりの発見となります。また、国内の複数の大学が関わるマリンバイオ共同推進機構JAMBIO沿岸生物合同調査で伊豆半島沖から得られた砂泥底に生息する種は、桑の実のような群体を細く機能分化した軸状の個虫で支えて起立することから、Metalcyonidium morum【図3】と名付けました。本種はMetalcyonidium属としては世界で2種目の報告であり、本属を含むClavoporidae科としては北西太平洋初記録となります。
■今後の展開
日本に1,000種以上が生息すると考えられているコケムシですが、その多くが未だ名前も付けられていない未記載種です。コケムシは共生関係や生息場提供などさまざまなかたちで他の生物と密接に関わっており、生物多様性の形成や海洋生態系においても重要な存在であると考えられます。これらの生物を対象とした研究の発展に向けても、今後も日本のコケムシ類の多様性を明らかにしていきたいと考えています。
■論文情報
掲載誌:Zoological Science
論文名:New Species of Lower-Shelf to Upper-Slope Ctenostome Bryozoans from Pacific Japan, with a Family Range Extension
著者:Hirose M.
DOI:10.2108/zs210106
■問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学 海洋生命科学部
講師 広瀬 雅人
〒252-0374 神奈川県相模原市南区北里1-15-1
E-mail:mhirose@kitasato-u.ac.jp
≪報道に関すること≫
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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