働き方の多様化を背景として、オフィスやコワーキングスペースなどの室内にキャンプ体験を取り入れる取り組みが活発になっています。キャンプ体験には、リラックスした雰囲気を作る、対人関係を円滑にする、発想を豊かにするなど、生産性や創造性を向上させる効果があることが経験的に知られていましたが、こうした非日常空間の効果は科学的に確認されたものではありませんでした。関西学院大学の長田典子教授の研究グループは、テント空間が個人の創造性を高める可能性があることを発見し、3月25日、「第17回日本感性工学会春季大会」で発表しました。
関西学院大学と株式会社スノーピーク(代表取締役社長:山井梨沙、本社:新潟県三条市)は2020年から包括連携協定を締結し、大学内構内の共有スペースにテントを設置し、キャンプ体験を採り入れる「Camping Campus」という取り組みを行っています。この取り組みは、学生にリラックスできる空間を提供するとともに、主体的な学びやフラットなコミュニケーションを促進することを目的としたものです。テント利用者や、Camping Campusの活動に参加した学生からは、キャンプ体験が学びやコミュニケーションを促進するとの感想が得られましたが、効果が科学的に確認されたものではありませんでした。
研究グループは、関西学院大学の構内にある芝生広場と小教室内にテントを設置し、その中、あるいは外で創造性課題を行うことで、テントというキャンプに特有の空間が創造性を高めるかを検証しました。その結果、テント内で行った課題の成績は、テント外で行った場合よりも高くなることがわかりました。また、課題を行う空間の印象と課題の成績の関係をもとに分析したところ、参加者はアウトドア群、インドア群、平常群の3タイプに分類できることがわかりました。このうちアウトドア群は、課題を行う場所が開放的・健康的・陽気と感じたとき成績が高い傾向があり、実際に室内よりも屋外で課題を行った場合に成績が高くなりました。またアウトドア群とは反対に、インドア群は閉鎖的・人工的な・重いと感じた場所での成績が高い傾向があり、屋外より室内で成績が高くなりました。
今回の実験結果は、Camping Campusの効果の一端を実証したものといえます。こうした研究の積み重ねは、これまで経験的に知られてきたテント空間の効果に科学的な裏付けを提供するとともに、利用者に寄り添った空間の提供に寄与することが期待されます。
◆「キャンパス内のテント空間が創造性に及ぼす影響」
(大塚栄輔、破田野智己、張帆、杉本匡史、山崎陽一、長田典子)
<研究の内容>
大学構内の小教室(室内条件)と芝生広場(屋外条件)の2か所にテントを設置し、その中、あるいは外で創造性課題を行うことで、テントというキャンプに特有の空間が創造性を高めるかを検証しました。
<研究結果>
テントがある場合は、ない場合よりも創造性課題の成績が高いことがわかりました(p< .05)。なぜテント内で創造性が向上するのかは今後の研究によって確かめる必要がありますが、この結果はCamping Campusの取り組みの効果を数的に実証するものであると考えられます。
さらに、「閉鎖的な-開放的な」という印象と創造性課題の関係をもとに分析してみたところ、参加者は以下の3つのタイプに分かれることがわかりました。
●アウトドア群:その空間を開放的・健康的・陽気と感じたとき成績が高い
●インドア群:その空間を閉鎖的・重い・緊張したと感じたとき成績が高い
●平常群:空間の印象と創造性課題の成績に明確な関係がない
そこで、3つのタイプ別に空間条件と創造性課題の関係を分析したところ、アウトドア群は室内よりも屋外で、インドア群は屋外よりも室内で、それぞれ創造性課題の成績が高いことがわかりました。このことは、クリエイティブな作業を行うときには、それぞれの人の特性に合った空間で行うことが大切だということを示していると考えられます。
また、全体的にはテントがある場合に成績が高い傾向が認められており、アウトドア群でもインドア群でも室内でテントがある場合に成績が高い傾向が窺えます。このことから、テントの用途がそれぞれの群で異なっている可能性が考えられます。つまりアウトドア群の人にとって、テントは室内に居ながらにして自然を感じられるアイテムであるのに対して、インドア群の人はテントを使って室内に自分だけのスペースを形成しているのかもしれません。こうした仮説を今後の研究によって検証したいと考えています。
<今後の展開>
今回の実験によって、これまで経験的に知られてきた、キャンプ体験で生産性が高まるという現象の一端が解明できました。この発見は、現在関西学院大学で展開中のCamping Campusの取り組みに科学的な裏付けを与えるものです。今後も条件を統制したうえで実証実験を重ねることで、これまで経験的に知られてきたキャンプ体験の効果に科学的な裏付けを提供できる可能性があります。また、テントの使い方が各人の特性によって異なっているとの仮説が正しいならば、特性とテント空間の効用の関係を詳しく調べることで、利用者に寄り添った空間の提供や、新たなキャンプ体験の提案に寄与することが期待されます。
▼実証実験の詳細データ(日本感性工学会投稿資料)は、大学研究室サイトより参照いただけます。
https://ist.ksc.kwansei.ac.jp/%7Enagata/data/2022_JSKE_1B1-04.pdf
▼本件に関する問い合わせ先
関西学院広報室
住所:兵庫県西宮市上ヶ原一番町1-155
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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