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ポイント
●細胞内でミトコンドリアと小胞体の接触を計測するツールを開発
●ミトコンドリアで発生した活性酸素種(ROS)が、小胞体との接触を強めることを発見
●この接触が有害な物質(脂質ラジカル)を処理するのに重要であることを解明
■研究の概要
学習院大学理学部生命科学科の椎葉一心助教、柳茂教授らの研究グループは、熊本大学、東京大学、山形大学、東京都健康長寿医療センター、大阪大学、順天堂大学、東京薬科大学、宮崎大学、National Cancer Centerなどの共同研究チームとともに、ミトコンドリアと小胞体の接触(MERCs)の量を計測するツールを開発しました。
このツールを使った研究により、ミトコンドリアで発生した活性酸素(ROS)が、ミトコンドリアと小胞体との接触を強めることを発見。さらに、この接触部位が有害な脂質ラジカルを処理する役割を果たしていることを明らかにしました。
本研究成果は、2025年2月10日付で国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。
■研究の背景
ミトコンドリアは、細胞のエネルギーを生み出す「発電所」としての役割を持っています。しかし、その過程で活性酸素種(ROS)という細胞にダメージを与える物質も発生します。このROSが蓄積すると、アルツハイマー病やパーキンソン病、老化現象などの原因となることが知られています。
細胞はROSの害から身を守るためにさまざまな仕組みを持っていますが、ミトコンドリア内で発生した脂質ラジカル(毒性の強い物質)をどのように処理しているのかは不明でした。
また、ミトコンドリアと小胞体が接触することで物質をやり取りしていることは知られていましたが、その接触がストレスに応じて変化するかどうかは分かっていませんでした。
■研究の内容
本研究では、生きた細胞内でミトコンドリアと小胞体の接触をリアルタイムで測定するツールを開発しました。このツールを使い、活性酸素が増えるとミトコンドリアと小胞体の接触が増えることを発見しました。
さらに、この接触部分に存在する「RMDN3(PTPIP51)」という酵素が、ミトコンドリアで発生した脂質ラジカルを小胞体へと移動させていることを解明しました。これにより、ミトコンドリアのダメージを軽減し、細胞の生存を助けている可能性があります。
特に、RMDN3と小胞体にあるVAPBというタンパク質の結合を阻害すると細胞死が発生することが判明しました。このことから、ミトコンドリアと小胞体の接触は、細胞が生き延びるために重要な役割を果たしていると考えられます。
■今後の展開
本研究では、ミトコンドリアのストレス応答メカニズムの一端が明らかになりました。
現在、この仕組みが「褐色脂肪組織」と呼ばれるエネルギー代謝に関わる組織で機能していることを明らかとしましたが、病気との関係については未解明の部分も多く残されています。
今後、このメカニズムが疾患とどのように関係しているのかを詳しく調べることで、新たな治療法の開発につながる可能性があります。
■発表者
椎葉 一心 学習院大学理学部 助教
伊藤 直樹 学習院大学理学部 研究員
大塩 聖 学習院大学理学部 大学院生
石川 悠人 学習院大学理学部 大学院生
長尾 崇弘 東京大学工学系研究科 大学院生
志村 宥哉 東京薬科大学生命科学部 大学院生
Kyu-Wan Oh National Cancer Center, Korea 大学院生
髙崎 栄貴 学習院大学理学部 大学院生
山口 風哉 学習院大学理学部 大学院生
小長谷 涼晏 学習院大学理学部 大学院生:研究当時
門脇 寿枝 宮崎大学医学部 准教授
西頭 英起 宮崎大学医学部 教授
丹澤 豪人 大阪大学蛋白質研究所 研究員
長島 駿 東京薬科大学生命科学部 講師
杉浦 歩 順天堂大学大学院医学研究科 准教授
藤川 雄太 東京薬科大学生命科学部 准教授
梅澤 啓太郎 東京都健康長寿医療センター 研究員
田村 康 山形大学理学部 教授
Byung Il Lee National Cancer Center, Korea 教授
平林 祐介 東京大学工学系研究科 准教授
岡﨑 康司 順天堂大学大学院医学研究科 教授
澤 智裕 熊本大学大学院生命科学研究部 教授
稲留 涼子 学習院大学理学部 研究員
柳 茂 学習院大学理学部 教授
■論文情報
論文名:ER-mitochondria contacts mediate lipid radical transfer via RMDN3/PTPIP51 phosphorylation to reduce mitochondrial oxidative stress
雑誌: Nature Communications
著者名:Isshin Shiiba, Naoki Ito, Hijiri Oshio, Yuto Ishikawa, Takahiro Nagao, Hiroki Shimura, Kyu-Wan Oh, Eiki Takasaki, Fuya Yamaguchi, Ryoan Konagaya, Hisae Kadowaki, Hideki Nishitoh, Takehito Tanzawa, Shun Nagashima, Ayumu Sugiura, Yuuta Fujikawa, Keitaro Umezawa, Yasushi Tamura, Byung Il Lee, Yusuke Hirabayashi, Yasushi Okazaki, Tomohiro Sawa, Ryoko Inatome & Shigeru Yanagi
URL:
https://www.nature.com/articles/s41467-025-56666-4
DOI: 10.1038/s41467-025-56666-4
■研究助成
本研究は、文部科学省科学研究費補助金学術変革領域研究(A)「新興硫黄生物学が拓く生命原理変革」(領域番号21A303)(課題番号22H05574および24H01327)、科学研究費助成事業(課題番号 22K15399, 23K14185, 22K20637, 21K06844, 21H0207, 21H05267, 23K17979, J22H05532, 23H02691, 20H04911および20H03454)、興和生命科学振興財団、上原記念生命科学財団および日本医療研究開発機構(AMED)(課題番号23gm1610011h0001, JP19dm0207082, JP17gm5010002, JP18gm5010002, JP19gm5010002およびJP20gm5010002 )の支援により実施されました。
▼本件に関する問い合わせ先
学長室広報センター
TEL:03-5992-1008
FAX:03-5992-9246
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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