【東京医科大学】高悪性度唾液腺癌の予後因子となる新規のがん抑制遺伝子発現様式を発見 ~多施設共同研究によるp53タンパク細胞質発現パターンとTP53遺伝子変異の相関を解明~

東京医科大学

東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)人体病理学分野 長尾俊孝主任教授、内海由貴社会人大学院生、助田葵助教、平井秀明助教、耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野 塚原清彰主任教授、国際医療福祉大学三田病院頭頸部腫瘍センター 多田雄一郎部長(東京医科大学客員准教授)らの唾液腺導管癌多施設共同研究会グループ*は、高悪性度を示す希少ながん、唾液腺導管癌の症例において、p53免疫組織化学的発現パターンとTP53遺伝子変異との相関、ならびに予後との関連性を解析しました。本成果は国際科学誌「Modern Pathology」(IF: 7.1)に掲載されました。 【概要】  東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)人体病理学分野 長尾俊孝主任教授、内海由貴社会人大学院生、助田葵助教、平井秀明助教、耳鼻咽喉科・頭頸部外科分野 塚原清彰主任教授、国際医療福祉大学三田病院頭頸部腫瘍センター 多田雄一郎部長(東京医科大学客員准教授)らの唾液腺導管癌多施設共同研究会グループ*は、高悪性度を示す希少ながん、唾液腺導管癌の症例において、p53免疫組織化学的発現パターンとTP53遺伝子変異との相関、ならびに予後との関連性を解析しました。その結果、p53細胞質陽性パターンを呈する症例では、TP53遺伝子におけるp53タンパク質の核移行機構に関与するドメインに特異的な変異が認められました。さらに、この染色パターンは多変量解析において独立した予後不良因子であることが明らかになりました。本知見は、唾液腺導管癌の分子診断マーカーの開発や予後予測、また治療戦略の構築に寄与する重要なエビデンスとなります。  この研究成果は、2025年4月7日、United States and Canadian Academy of Pathology (USCAP)の公式国際科学誌である「Modern Pathology」(IF: 7.1)に掲載されました。 【本研究のポイント(図1)】 ●高悪性度の希少がんである唾液腺導管癌について、全国11施設の共同研究による世界最大規模の症例コホートで、病理標本を用いたp53免疫組織化学染色とTP53遺伝子解析を実施しました。 ●p53細胞質陽性パターンが核内移行関連ドメインにおけるTP53遺伝子異常と強く相関することを分子生物学的に裏付けました。 ●細胞質陽性パターン群は野生型発現パターン群に比べて無病生存期間が有意に短縮しました。 ● 本染色パターンをTP53異常の診断バイオマーカーとして活用することで、予後予測精度の向上が期待され、治療選択アルゴリズムの応用可能性を示唆しています。 【研究の背景】  唾液腺導管癌(salivary duct carcinoma, SDC)は、唾液腺に生じる極めて予後不良な悪性腫瘍です。その希少性から、大規模臨床研究が困難であり、確立された予後予測バイオマーカーや分子標的治療の開発が喫緊の課題となっています。我々はこの課題解決に向けて、全国11施設で構成されるSDC研究コンソーシアムを設立し、世界最大規模の症例コホートを構築しています。また、そこから生み出される総合的なプラットフォームを通じて、SDCの臨床および分子病理学的研究成果を世界に発信し続けています。  本研究では、腫瘍の発生や進展における中心的役割を担うがん抑制タンパク質であるp53に着目しました。p53の異常が種々の悪性腫瘍で予後に悪い影響を与えることが報告されており、我々の研究グループでもp53の核内異常発現パターンがSDCにおける予後不良因子であることを実証しています。従来の診断パラダイムでは、p53の免疫組織化学的評価は核の過剰発現あるいは完全な陰性に限定され、細胞質染色は「非特異的陽性」として診断的意義を否定されてきました。しかし、近年、他臓器の癌において細胞質発現がタンパク質の核内移行障害を反映する新規メカニズムが示唆され、パラダイムシフトが生じています。そこで、本研究では、SDCにおけるp53の細胞質陽性像の意義について検討しました。 【本研究で得られた結果・知見】 SDC症例(327例)に対して、p53免疫組織化学染色を施行し、以下4つの発現パターンに分類:  ・野生型パターン:125例(38.2%)  ・過剰発現パターン:100例(30.6%)  ・完全欠損パターン:75例(22.9%)  ・細胞質パターン:27例(8.3%) TP53遺伝子解析では、各パターンと遺伝子異常に顕著な相関を確認:  ・野生型パターン:27.7%(27/94)に変異あり(変異は全遺伝子領域に広く分布)  ・過剰発現パターン:90.9%(60/66)に変異あり(変異は全遺伝子領域に広く分布)  ・完全欠損パターン:90.7%(49/54)に変異あり(変異は全遺伝子領域に広く分布)  ・細胞質パターン:96%(24/25)に変異あり(ほぼ全例で核移行関連ドメイン変異) パターン分類は予後(根治切除術後)と関連:  ・細胞質パターン症例は野生型パターン症例よりも無病生存期間が有意に短縮(図2A)。  ・全ての異常発現パターン症例は野生型パターン症例よりも無病生存期間が有意に短縮(図2B)。 【今後の研究展開および波及効果】  本研究成果は、SDCの分子診断アルゴリズムに新たな次元を付加するものであり、患者の予後予測をより正確に行うための指標として、すぐにでも活用可能なエビデンスを提供しました。今後は、予後の層別化に応じた治療選択の最適化に向けて、さらなる研究が望まれます。また、p53細胞質陽性パターンが他のがん種においても重要な診断・予後予測マーカーとしての横断的意義を示唆しており、本知見は広範ながん研究の発展に寄与することが期待されます。 【論文情報】 タイトル:Cytoplasmic p53 Immunostaining in Salivary Duct Carcinoma: A Poor Prognostic Factor Associated With Characteristic TP53 Variants 著  者:Yoshitaka Utsumi, Masato Nakaguro, Daisuke Kawakita, Hideaki Hirai, Aoi Sukeda, Shinji Kohsaka, Kiyoaki, Tsukahara, Toyoyuki Hanazawa, Satoshi Kano, Keisuke Yamazaki, Yushi Ueki, Kenji Okami, Yuki Saito, Hiroyuki Ozawa, Yoshitaka Honma, Akira Shimizu, Kenji Hanyu, Shota Fujii, Tomoyuki Arai, Sho Iwaki, Sae Imaizumi, Ryoko Tanaka, Mayu Yamauchi, Koji Yamamura, Mariko Sekimizu, Hideaki Takahashi, Yorihisa Imanishi, Yuichiro Sato, Takashi Matsuki, Yuichiro Tada, Toshitaka Nagao*, on behalf of the Multi-institutional Joint SDC Study Group in Japan(*:責任著者)  掲載誌名:Modern Pathology DOI : https//doi/org/10.1016/j.modpat.2025.100766 【主な競争的研究資金】  本研究は、⽂部科学省科研費 基盤研究(課題番号:22K06939、22K06969、23K06432、24K12655、24K10293)及び東京医科大学研究助成金の支援を受けています。 【注釈】 *:唾液腺導管癌多施設共同研究会グループ ・国際医療福祉大学三田病院 ・東京医科大学 ・東京医科大学八王子医療センター ・千葉大学 ・北海道大学 ・名古屋市立大学 ・東海大学 ・新潟大学 ・新潟県立がんセンター新潟病院 ・東京大学 ・慶応義塾大学 ・国立がん研究センター中央病院 ・名古屋大学 ▼本件に関する問い合わせ先 企画部 広報・社会連携推進室 住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1 TEL:03-3351-6141(代) メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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