世界初! 静電気技術を用いてうどんこ病菌の農薬耐性を評価 農薬耐性を示すうどんこ病菌の新たな評価法への応用に期待

近畿大学

近畿大学農学部(奈良県奈良市)農業生産科学科4年 山内晴斗、同4年 山本昭吾、同教授 野々村照雄らの研究グループは、植物病原菌の一つである「うどんこ病菌」について研究しており、そのうち特にメロンうどんこ病菌※1 について、静電気技術※2 を用いて市販の農薬に対する耐性を評価しました。評価した37種類の農薬のうち、メロンうどんこ病菌は4種類の農薬に対して強い耐性を獲得していることが明らかになりました。この結果から、うどんこ病菌に農薬を噴霧処理し、静電気技術でうどんこ病菌の胞子を回収することで、うどんこ病菌の農薬耐性の評価に利用できることを、世界で初めて明らかにしました。本研究成果は、農薬耐性を示すうどんこ病菌の新たな評価法の確立に繋がると期待されます。 本件に関する論文が、令和7年(2025年)4月17日(木)に、世界的に有名な植物病理学専門誌"Journal of Plant Pathology(ジャーナル オブ プラント パソロジー)"に掲載されました。 【本件のポイント】 ●メロンうどんこ病菌に市販の農薬を噴霧し、静電気技術を用いて農薬耐性を評価 ●評価した37種類の農薬のうち、4種類に対してメロンうどんこ病菌が強い耐性をもつことを確認 ●うどんこ病菌の簡易的な農薬耐性の評価法確立に繋がる研究成果 【本件の背景】 うどんこ病は、農作物、雑草、樹木など多種多様な植物で発生する植物の病気で、本病が発症すると良質な果実ができなくなり、農業分野では収量にも影響を与えるため、重大な植物病害の一つとされています。うどんこ病が発症すると、うどんの粉を振りかけたような白い斑点が発生することから、この名が付きました。うどんこ病菌(カビ)の胞子が植物に付着した後、侵入・感染することで白い斑点(菌叢※3)を形成し、菌叢内に多くの分生子柄※4 がつくられます。この分生子柄上には子孫となる胞子がつくられ、その胞子を放出・飛散させることで周りの健全な植物(病気にかかっていない植物)に感染し、病気を引き起こします。一般的に、うどんこ病の防除には農薬が使われますが、農薬は環境に負荷を与えるうえ、農薬が効かない農薬耐性菌の出現も国内外で報告されています。そのため、有効な防除手段を講じるためにも、農薬に耐性を示すうどんこ病菌の迅速かつ簡易的な検出・評価法の確立が求められています。 【本件の内容】 研究グループは、ウリ科植物に発生するうどんこ病に注目して、病害の防除に関する研究を進めてきました。今回、メロンうどんこ病菌の単一菌叢に37種類の市販の農薬(36種類の化学農薬と1種類の生物農薬)を噴霧した後、静電気技術を用いて胞子を回収し、農薬耐性を獲得しているかについて評価しました。 まず、メロンうどんこ病菌の胞子をメロンの葉に接種・感染させた後、7日間培養して菌叢を形成させました。その後、農薬をメロンうどんこ病菌の菌叢全体に噴霧し、3日間培養した後、静電気技術を用いて菌叢から胞子を回収しました。その後、顕微鏡下で回収された胞子の数を測定した結果、16種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢から胞子が回収され、これらの農薬に対して耐性を獲得している可能性が示唆されました。そのうち、4種類の農薬(クレソキシムメチル、フェナリモル、トリフォリン、チオファネートメチル)を噴霧した単一菌叢から回収された胞子は、20%以上の高い発芽率を示したことから、これらの農薬に対して強い耐性を示すことが明らかになりました。 次に、農薬を処理したメロンうどんこ病菌の単一菌叢の分生子柄の観察を行い、形態学的および細胞学的特徴から、異常な形態を示す5つのタイプの分生子柄を明らかにしました。一方で、特に、4種類の農薬(クレソキシムメチル、メパニピリム、ミクロブタニル、チオファネートメチル)を噴霧した場合には正常な分生子柄が多く確認されました。 農薬耐性を獲得したメロンうどんこ病菌が発芽能力をもつ胞子を放出・飛散させれば、耐性菌の感染拡大が起こります。そのため、静電気技術を用いて農薬処理されたメロンうどんこ病菌の菌叢から胞子を回収することにより、農薬耐性菌を迅速かつ容易に評価できることを、世界で初めて明らかにしました。 【論文掲載】 掲載誌 :Journal of Plant Pathology(インパクトファクター:2.2@2023) 論文名 :Innovative assessment of the fungicide sensitivity of the melon powdery mildew fungus,      Podosphaera xanthii,on host leaves using electrostatic and digital microscopy techniques      (静電気技術とデジタル顕微鏡を併用したメロンうどんこ病菌に対する農薬感受性の       革新的な評価) 著者  :山内晴斗1、山本昭吾1、玉谷菜々1、安藤壮真1、山本洸也1、野々村照雄1,2*      *責任著者 所属  :1 近畿大学農学部、2 近畿大学アグリ技術革新研究所 論文掲載:https://doi.org/10.1007/s42161-025-01916-z DOI   :10.1007/s42161-025-01916-z 【本件の詳細】 研究グループは先行研究において、メロンうどんこ病菌を単離して分類・同定し、形態的な特徴について報告しています。また、メロンうどんこ病菌における分生子柄の形成過程の連続観察や、メロンうどんこ病菌の単一菌叢から生涯にわたり放出される胞子数の量的解析についても報告しています。 本研究では、静電気技術を利用して、農薬に対するメロンうどんこ病菌の感受性を量的に評価するため、メロンうどんこ病菌の単一菌叢に市販の農薬を噴霧処理した後、静電気技術と顕微鏡技術を併用して、メロンうどんこ病菌の単一菌叢から放出される子孫胞子の数と発芽率を測定しました。 まず、メロン(Cucumis melo)の葉上に、高解像能デジタル顕微鏡※5 下で微小ガラス針を用いてメロンうどんこ病菌の単一胞子を接種した後、菌叢を形成させました。本研究では、接種後7日目のメロンうどんこ病菌の単一菌叢に農薬を噴霧処理した後、3日間培養した菌叢(接種後10日目の菌叢)を用いました。 次に、研究グループが考案した静電気胞子回収装置(静電気板)※6 を用いて、農薬を処理したメロンうどんこ病菌の単一菌叢から胞子の回収を行い、静電気板に捕捉された胞子の数と発芽率を顕微鏡下で計測しました。その結果、クレソキシムメチル(QoI剤)、メパニピリム(AP剤)、フェナリモル(DMI剤)、トリフォリン(DMI剤)、チオファネートメチル(MBC剤)を含む16種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢からは、胞子が回収されました。特に、クレソキシムメチル処理から回収された胞子の発芽率は約55%と高く、次いでフェナリモル処理から回収された胞子の発芽率は約41%でした(表1)。しかし、ポリオキシン(ポリオキシン剤)を含む21種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢からは、胞子が回収されませんでした。一方で、イソピラザム(SDHI剤)、イミノクタジンアルベシル酸塩(ビスグアニジン)+ピリオフェノン(アリルフェニルケトン)の2種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢からは胞子が回収されましたが、胞子の発芽は観察されませんでした。 次に、胞子回収が終了した10日目の単一菌叢をもつ感染葉を脱色・固定した後、生体染色し、光学顕微鏡を用いて菌叢面積を測定するとともに、菌叢内に形成されたメロンうどんこ病菌の正常な分生子柄数を計測しました。その結果、Bacillus subtilis(バチルス ズブチリス)を含む生物農薬、クレソキシムメチル、ミクロブタニル(DMI剤)の2種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢は、対照区(水を噴霧処理)と同程度の菌叢面積を示しましたが、イソフェタミド(SDHI剤)、アゾキシストロビン(QoI剤)、メパニピリム、ポリオキシンの4種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢では、生育抑制効果が見られました。一方で、チオファネートメチル、炭酸水素カリウム、マンゼブ(ジチオカーバメート)+シメコナゾール(DMI剤)、TPN(クロロニトリル)+シアゾファミド(QiI剤)、フルチアニル(チアゾリジン)+メパニピリムの5種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢では、中程度の生育抑制効果が見られました(表1)。また、生体染色後、分生子柄の形態学的および細胞学的特徴から、農薬処理した単一菌叢内では正常な形態(図1A)と、5タイプの異常な形態を示す分生子柄(図1B~F)が観察されました。クレソキシムメチル、メパニピリム、ミクロブタニル、チオファネートメチルの4種類の農薬を噴霧処理した単一菌叢内では、37%以上で正常な分生子柄(図1A)が観察されました。しかし、ピリオフェノンを噴霧処理した菌叢内では、70%以上で隔壁※7 が見られない細長い分生子柄(図1C)、炭酸水素ナトリウムやノニルフェノールスルホン酸銅(無機化合物)処理では、75%以上で細胞膜の分離が起こった分生子柄(図1D)が観察されました。 以上のことから、農薬処理したメロンうどんこ病菌の菌叢から、静電気技術を用いて胞子を回収すれば、うどんこ病菌の農薬耐性の有無を量的に評価できることが明らかとなりました。今後、既知の農薬感受性の評価法にこの静電気技術を導入すれば、さらに精度の高い農薬耐性菌の選抜が可能となると考えられます。 表1参照 すべてのデータは10回の反復実験の平均と標準偏差で示している。 異なるアルファベットは有意差を示す(p < 0.05、チューキー法)。 図1参照 A:楕円形の胞子をもつ正常な分生子柄 B:下半分で楕円形の胞子をもち、上半分で細長く、細胞膜の分離が見られる分生子柄 C:隔壁が見られない線状の分生子柄 D:細胞膜の分離が見られる分生子柄 E:細胞膜の萎縮と顆粒状の細胞をもつ分生子柄 F:細胞膜が完全に崩壊した分生子柄 ※黒矢印は隔壁の箇所を示す。スケールバーは、30μm 【今後の展開】 うどんこ病菌は菌叢内で作られた胞子を感染源として、病気を拡大していきます。そのため、うどんこ病の発生初期段階、すなわち、成熟な胞子を形成していない生育段階で防除することが望まれています。今後は、本研究成果に基づき、農薬耐性を示すうどんこ病菌のある特定の遺伝子について、その発現と変異箇所の解析を行うとともに、静電気技術を用いて、農薬に対する他植物のうどんこ病菌の感受性の評価に取り組みたいと考えています。 【研究者のコメント】 野々村照雄(ののむらてるお) 所属  :近畿大学農学部農業生産科学科      近畿大学大学院農学研究科      近畿大学アグリ技術革新研究所 職位  :教授 学位  :博士(農学) コメント:うどんこ病は身近な植物病害として知られています。農作物にうどんこ病が発生すると化学農薬を使用して防除しますが、薬剤耐性菌の出現や環境負荷の問題を考慮すると、化学農薬のみに依存しない新たな防除法の開発が必要となります。防除戦略を講じるためにも、病気を引き起こす原因となるうどんこ病菌の形態学的、生理学的および生態学的特性を明らかにしておく必要があります。 【用語解説】 ※1 メロンうどんこ病菌:Podosphaera xanthii KMP-6N。ウリ科植物のみに感染する植物病原菌で、カビの一種。うどんこ病菌は栄養培地では培養できないカビ菌であり、生きた植物のみに感染し、増殖する。このような菌を絶対寄生菌と呼ぶ。 ※2 静電気技術:静電気のクーロン力を利用して、カビ胞子を捕捉・回収する技術。 ※3 菌叢(きんそう):カビ胞子から菌糸が伸びて、菌糸が密集したもの。例えば、1個のカビ胞子から菌糸が伸びて菌糸が密集すると、肉眼では同心円状に見える。 ※4 分生子柄(ぶんせいしへい):うどんこ病菌が子孫の胞子を生産・形成する感染構造体。 ※5 高解像能デジタル顕微鏡:高倍率で観察できる落射型の実体顕微鏡。サンプルを生きた(自然な)状態で観察できるため、葉の表面で生育するうどんこ病菌の観察に適している。 ※6 静電気胞子回収装置(静電気板):透明な絶縁性の板(回収板)を静電気で帯電させ、菌叢から放出される胞子を捕捉・回収する装置。 ※7 隔壁(かくへき):細胞と細胞を隔てる箇所。仕切りのこと。セプタムとも呼ぶ。 【関連リンク】 農学部 農業生産科学科 教授 野々村照雄(ノノムラテルオ) https://www.kindai.ac.jp/meikan/162-nonomura-teruo.html 農学部 https://www.kindai.ac.jp/agriculture/ アグリ技術革新研究所 https://www.kindai.ac.jp/atiri/ ▼本件に関する問い合わせ先 広報室 住所:〒577-8502 大阪府東大阪市小若江3-4-1 TEL:06‐4307‐3007 FAX:06‐6727‐5288 メール:koho@kindai.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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