リコーと東京大学 社会連携講座の成果が、2025年度人工知能学会全国大会(第39回)に7本採択

株式会社リコー

~「創造性とAI」をテーマに、オーガナイズドセッションを実施~

株式会社リコー(社長執行役員:大山 晃、以下、リコー)と国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(研究科長:加藤 泰浩、以下、東京大学)は、社会的課題の解決と産業の発展に寄与する共同研究を目的とした社会連携講座「“はたらく”に歓びを」を2022年12月に開設し、はたらく人が人ならではの創造力を発揮するための状態やメカニズムの解明に取り組み、新しいビジネスシーズの創出に向けて研究を重ねています。
本講座の進捗として、このたび研究成果をまとめた論文7本が2025年度人工知能学会全国大会(第39回)に採択されました。採択された論文の一部は、2025年5月29日(木)に実施される本社会連携講座メンバーがオーガナイザを務めるオーガナイズドセッションにて発表を行います。
本講座では引き続き、“はたらく歓び”を実感できる働き方や職場環境のあるべき姿を描くとともに、その実現に向けた技術・事業・サービスの開発に取り組み、働きがいと経済成長が両立する持続可能な社会への貢献を目指します。

<オーガナイズドセッションの概要>
■日時:2025年5月29日(木)9:00~10:40
■場所:大阪国際会議場 Q会場 (会議室804) ※オンライン配信も実施されます。
■内容・テーマ:「創造性とAI」
従来のAIが人間を支援する単なるツールとしての役割を超えて、AIとの共創を通じて人間の潜在的な創造性を引き出す新たな可能性について議論します。さらに、AIを用いた人のセンシングやデータ解析、フィードバックによる創造的な活動時の状態やメカニズムの解明といった基礎的な内容についても議論します。
上記を踏まえ、具体的には、創造性のAIモデリング研究や創造的活動を支援・向上させるAIシステムの研究、創造性に関わる認知プロセスの神経科学的・心理学的研究、AIを用いた創造性評価手法に関する研究、創造的協働を促進するインタラクション研究、創造性とウェルビーイングの関係性に関する研究を募集するが、これらに限らず創造性に関わる研究を幅広く募集します。

■セッションスケジュール:
(1) 9:00~9:20 対話型LLMを用いたcapitalizationによる情緒的支援の原理的検証
・著者:泉谷 一磨(リコー)、窪田 進一(リコー)、地頭江 悠太(東京大学)、安達 滉一郎(東京大学)、新潟 一宇(リコー)、滝沢 龍(東京大学)
・概要:労働者の創造性発揮を支援するためにはその背後にある心理的な阻害要因の除去が重要である。本研究では、近年進化する対話型LLM(大規模言語モデル)による情緒的支援の可能性に着目し、ポジティブな体験の共有により幸福感や相手との関係性を高める「Capitalization」と呼ばれる心理効果がLLMとの対話でも得られるかを検証した。リコーグループ社員31名を対象に実施したランダム化比較試験において、LLMとの対話によってポジティブ感情やリラックス感覚、出来事の価値評価の向上が見られ、感情制御の支援に有用である可能性が示された。今後は対象者の拡大や職場環境に即した応用が課題となる。

(2) 9:20~9:40会議発話データの分析における大規模言語モデルの活用
・著者:北川 晴喜(東京大学)、菅野 太郎(東京大学)、Chen Yingting(東京大学)、吉野 悠太(リコー)、渡辺 修平(リコー)
・概要:会議における創造性に寄与するような参加者の言動の特徴やスキルを明らかにするために、発話の分析、具体的には発話の分類(アノテーションの付与)とその結果の頻度分析を行うことで、発話の特徴を定量化することができる。本研究では、会議発話データの分析のためのアノテーション付与にLLMの一種であるChatGPTを活用し、精度を保ちつつ効率化できるかを検証することを目的とした。そして、人間2人、人間1人とChatGPT、ChatGPT単体の3パターンのコーディング性能を比較した。その結果、ChatGPTの結果を人間が修正する方法で、精度を保ちつつ作業時間を70%短縮できることが明らかになった。

(3) 9:40~10:00キーワードネットワークを用いた会議ダイナミクス指標の定義
・著者:陳 映廷(東京大学)、菅野 太郎(東京大学)、蜂須賀 知理(東京大学)、吉野 悠太(リコー)、渡辺 修平(リコー)
・概要:本研究では、キーワード共起ネットワークを用いて会議のダイナミクスを評価する、スケーラブルでコスト効率の高い手法を提案する。従来の手法は議論の細かな流れを捉えるのが難しく、標準化が困難であった。53回のビジネス会議のデータを分析し、主成分分析(PCA)でキーワードネットワーク指標を検討した。その結果、次の3つの指標を特定した: 1)議論の広がり、2)局所的強度、3)トピックの多様性。これらの指標は、高パフォーマンスの会議を区別し、会議のダイナミクスを捉える。本手法は、組織の創造性や生産性を向上させるツールとして有用となる可能性がある。

(4) 10:00~10:20はたらく人の汎用データと因果探索アプローチによる創造性分析
・著者:後町 慈生(リコー)、草彅 真人(リコー)、李 碩根(東京大学)、保多 航洋(東京大学)、松岡 侑幹(東京大学)、濱田 遼太郎(東京大学)、松田 力(東京大学)、平田 優(東京大学)、大島 悠司(東京大学)、松尾 豊(東京大学)
・概要:はたらく人の創造性は組織にとって重要であるが、従来の研究は特定の因子や集団を対象とするものが多く、実社会への応用が限定される可能性がある。これに対して本研究では、より実践的な創造性研究を目指し、その第一歩として収集目的を限定しない汎用データに基づく創造性分析を行った。汎用データとして、仕事上の行動ログデータおよびパーソナリティ診断データを用い、因果探索により創造性との関係を分析した。分析の結果、パーソナリティ診断データでは部分的に創造性とのつながりが見られたものの、行動データでは十分な因果関係が確認されなかった。今後はデータの拡充と解析手法の精緻化を行い、実践的な創造性研究を目指していく。

(5) 10:20~10:40顔表情分析に基づくファシリテーションスキルの抽出と創造性への影響に関する検討
・著者:王 雲傑(東京大学)、蜂須賀 知理(東京大学)、菅野 太郎(東京大学)、吉野 悠太(リコー)、渡辺 修平(リコー)
・概要:本研究は会議の創造性を向上する方法の提案を目的とし、EfficientNet V2(*)の畳み込み層を改良した顔表情感情検知システムを構築し、実際のオンライン会議データ41件の解析を実施した。解析結果より、創造性の低い会議では参加者に「恐れ」の表情が多く観察されることが見いだされた。そこで、会議ファシリテーターついてポジティブな顔表情(笑顔)の表出有無をコントロールした実験を実施することで、ポジティブな顔表情が会議のアイデア創出数を増加させる可能性を確認した。将来的には、対面形式やハイブリッド環境での会議への応用を目指す。
(*)EfficientNet V2:画像認識で用いられる畳み込みニューラルネットワーク

※以下2件は、一般セッションでの発表を予定しています。
(1)生成AI支援下での工学設計における発散的思考の脳内メカニズムの解明
 2025年5月29日(木) 10:00~10:20 F会場 (会議室1001)
・著者:三上 玄(東京大学)、佐藤 洸誓(東京大学)、小泉 光司(東京大学)、上田 一貴(東京大学)、長藤 圭介(東京大学)、横山 悠久(リコー)
・概要:工学設計における発散的思考では、記憶や制限に関与する脳領域が重要とされるが、生成AIとの協調時の脳内メカニズムは未解明である。そこで本研究では、社会課題に対する製品コンセプトを考案する課題を用い、AIあり・なし条件でのパフォーマンスおよび脳活動の違いを比較した。GPT-4oによる応答システムを実装し、男性学生36名の脳波を測定・解析した結果、AI使用によりパフォーマンスは向上する一方で、左下前頭回の活性化が発散的思考の抑制に関与する可能性が示唆された。本研究は、AIとの協調作業時の脳内メカニズムの理解を深め、AIによる工学設計支援の基盤構築に寄与することが期待される。

(2)協調的な工学設計時における収束的思考の脳内メカニズムの解明
 2025年5月30日(金) 14:40~15:00 I会場 (会議室1004)
・著者:佐藤 洸誓(東京大学)、三上 玄(東京大学)、小泉 光司(東京大学)、上田 一貴(東京大学)、長藤 圭介(東京大学)、横山 悠久(リコー)
・概要:工学設計における収束的思考の脳内メカニズムを明らかにするため、本研究では収束的思考を要する設計課題を、一人、ヒトとの協調、AIとの協調の3条件で遂行し、アイデア評価の正確性および脳波データの解析と、その関連性の検討を行った。その結果、AIとの協調条件では、有用性・実現性の両面においてアイデア評価の正確性が向上した。また脳波解析では、収束的思考に関与する左背外側前頭前野と、協調的処理に関与する右頭頂側頭接合部において活性化が確認された。これらの結果から、AIとの協調時においては脳内の収束的かつ協調的な処理が高まることで、工学設計時のアイデア評価の精度が向上する可能性が示唆された。
 

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