大腸菌が“毒性のあるアミロイド”の材料タンパク質を安全に分解する仕組みを発見

東京慈恵会医科大学

— 神経変性疾患研究にもつながる基礎的成果 —

 東京慈恵会医科大学 細菌学講座 准教授/アミロイド制御研究室 室長の杉本 真也、医学科ユニット医学研究専攻の寺澤 友梨香(2022年卒)、同細菌学講座 講座担当教授の金城 雄樹らは、熊本大学 発生医学研究所 准教授の山中 邦俊らとの共同研究により、大腸菌が細胞の外で作る特殊なアミロイドの材料タンパク質を、細胞の中で安全に処理するための仕組みを発見しました。本研究成果は、2025年9月17日、国際学術誌Journal of Molecular Biologyにオンライン先行掲載されました。

 アミロイドと呼ばれる線維状のタンパク質の塊は、アルツハイマー病やパーキンソン病などの原因物質として知られています。一方で、大腸菌などのバクテリアは「Curli(カーリー)」と呼ばれる「機能性アミロイド」を細胞の外に作り、仲間同士で集まる“バイオフィルム”を形成するのに利用しています。しかし、この材料が細胞内に溜まると細菌自身にとっても毒となります。

 今回の研究で、大腸菌は「Prc(ピー・アール・シー)」というタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)を使って、Curliの材料タンパク質CsgA(シー・エス・ジー・エー)を細胞の中で分解し、毒性化を防いでいることがわかりました。さらに、分解や細胞の外への分泌がうまくいかないときには、遺伝子の働きを抑える仕組みも備えており、多重の安全装置で身を守っていることが明らかになりました。

背景
 タンパク質は正しく折り畳まれて立体構造をつくることで、本来の機能を発揮します。ところが、ストレスや遺伝子変異などの影響で折り畳みに失敗すると、構造が壊れたり(変性)、異常な形のまま集合して「凝集体」と呼ばれる塊をつくってしまいます。なかでも「アミロイド」と呼ばれる線維状の凝集体は、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の発症と深く関わっていることが知られています。
 一方で、細菌はあえて「機能性アミロイド」を細胞の外に作り出し、バイオフィルムと呼ばれる集団構造を築く戦略をとります。代表的な例が、大腸菌のCurliです。Curliは細菌にとって有用ですが、材料となるCsgAタンパク質が細胞内にたまると毒性を示すため、細菌にとってもリスクを伴います。ところが、これまでCsgAが細胞内でどのように分解され、毒性を回避しているのかは分かっていませんでした。

主な研究成果
本研究では、大腸菌を用いた遺伝子改変解析とタンパク質分解実験、および遺伝子発現量解析により、以下の知見を得ました。
  • PrcはCsgAを特異的に内部切断し、分解する。
  • Prcはペリプラズムに存在する分子シャペロンCsgCと協調し、アミロイド様凝集体の蓄積を防ぐ。
  • 分解や細胞外への分泌が滞ると、大腸菌はRcsおよびCpxとよばれる二成分制御系を介してCsgAの発現を転写レベルで抑制し、さらなるアミロイドの蓄積を防ぐ。
 これらの結果から、大腸菌は「タンパク質分解」と「タンパク質凝集抑制」、および「転写制御」という複数の安全機構で、機能的アミロイドの毒性を回避していることが明らかになりました。

意義と展望
今回の成果は、細菌における機能性アミロイドの品質管理と毒性回避機構の全貌に迫る重要な知見であり、以下の展開が期待されます。
  • バイオフィルム形成制御に向けた新規分子標的の提供
  • 難治性細菌感染症の治療法開発への応用
  • ヒトのアミロイド関連神経変性疾患研究への基盤知識の提供
  • 生物工学・バイオマテリアル分野における「効率的な機能性アミロイド利用技術」開発への応用
論文情報
タイトル:Periplasmic serine protease Prc is responsible for amyloid subunit CsgA degradation and proteostasis in Escherichia coli
著者  :Shinya Sugimoto, Yurika Terasawa, Naoki Tani, Kunitoshi Yamanaka, Yuki Kinjo
掲載誌 :Journal of Molecular Biology
Doi    :https://doi.org/10.1016/j.jmb.2025.169418

研究支援
 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する創発的研究(JPMJFR2209)およびERATO野村集団微生物制御プロジェクト(JPMJER1502)、文部科学省科学研究費補助金 国際共同研究強化(A)(JP18KK0429)、上原生命科学財団研究奨励費、東京慈恵会医科大学戦略的重点配分研究費、熊本大学発生医学研究所共同研究費、熊本大学発生医学研究所高深度オミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業などの助成を受けて行われました。

研究メンバー
・東京慈恵会医科大学 医学部 医学科 細菌学講座
 准教授            杉本 真也(アミロイド制御研究室 室長兼任)
 医学科ユニット医学研究専攻    寺澤 友梨香(2022年卒)
 講座担当教授        金城 雄樹(バイオフィルム研究センター長兼任)
・熊本大学 発生医学研究所    
 准教授            山中 邦俊
 専門技術職員        谷 直紀

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