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神奈川大学 理学部教授で、公益財団法人豊田理化学研究所 客員フェローである菅原正教授の研究グループは、「何世代にもわたって細胞分裂できるモデル人工細胞」の構築に世界に先駆けて成功した。
「生命はどのようにして誕生したのか?」「生命の本質とは何か?」「物質との違いは?」という問いは、誰もがもつ疑問である。生物は例外なく細胞からつくられているので、もし細胞を化学的手法で人工的に構築できれば、生命の謎に迫れるのではないか。最近、このような研究が世界的にも注目を浴びるようになってきた。
菅原教授らの研究グループは先行研究として、細胞膜に見立てた(ジャイアント)ベシクルと呼ばれる直径3~10マイクロメートル(100万分の1メートル)の人工の分子膜でできた袋が、外部から加えられた膜分子の原料(餌)を取り込み、膜内でその原料から膜分子をつくり出すことで自らを成長・分裂させ、さらに内部で染色体のモデルであるDNAを増幅することを報告した(Nature Chem. 2011)。しかし、分裂後はDNAの複製に必要な原料分子が涸渇しているために、もはや細胞分裂のような膜とDNAの協同的分裂が行えないという問題があった。
今回の研究では、DNA複製の原料を外部から摂取する手法を開発したことで、DNAが枯渇した子供細胞に、内部でのDNA複製能力を回復させ、孫細胞をつくらせることに成功した(図)。このことは、このモデル人工細胞が現実の細胞と同じように、何世代にもわたって細胞分裂様のダイナミクスを繰り返しうることを意味している。
分裂してから次の世代を生み出すまでの過程には、現実の細胞がもつ細胞周期と対応して、摂取期、複製期、成熟期、分裂期を巡回する周期性が存在することを見出した。繰り返し分裂が起こるモデル人工細胞ができたのなら、やがて、優れた形質をもつ「変異種」が出現し、「進化」するモデル人工細胞が誕生するのではと夢がふくらむ。
本成果は、物質からどのようにして生命が誕生したかの謎の解明に通じる研究であり、原始地球での生命誕生や、原始生命からどのような形で萌芽的な進化の仕組みを備えるに至ったかを知る手がかりになる。
なお、この研究に関する実験は、現 岡崎統合バイオサイエンスセンター・分子科学研究所の栗原顕輔 特任准教授(当時 東京大学 研究員)が中心となって行った。
*この結果は、9月29日にオンライン学術雑誌Nature CommunicationsにHighlight論文として掲載されました。
K. Kurihara, Y. Okura, M. Matsuo, T. Toyota, K. Suzuki, T. Sugawara,
A recursive vesicle-based model protocell with a primitive model cell cycle.
Nat. Commun. 6:8352 doi: 10.1038/ncomms9352 (2015).
【菅原 正 教授 略歴】
2013年4月~現在 神奈川大学理学部化学科 教授
2013年4月~現在 豊田理化学研究所 客員フェロー
2012年4月~2013年3月 神奈川大学理学部化学科特任教授
2011年4月~現在 放送大学非常勤講師
2010年6月 東京大学名誉教授
2010年4月~2012年3月 東京大学大学院総合文化研究科 複雑系生命システムセンター 特任研究員
1996年4月~2010年3月 東京大学大学院総合文化研究科広域科専攻相関基礎科学系 教授
1991年6月~1996年3月 東京大学教養学部基礎科学科 教授
1986年5月~1991年5月 東京大学教養学部基礎科学科 助教授
1978年3月~1986年4月 岡崎国立協同研究機構分子科学研究所 助手
1977年8月~1978年2月 米国メリーランド大学 博士研究員
1975年9月~1977年7月 米国ミネソタ大学 博士研究員
【受賞歴】
2012年 第3回分子科学会賞 受賞
2008年 電子スピンサイエンス学会賞 受賞
1986年 分子科学研究奨励森野基金
▼本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
菅原 正 (神奈川大学理学部化学科 教授、豊田理化学研究所 客員フェロー)
大学連絡先: 0463-59-4111 (代) (内線:2716)
http://www.chem.kanagawa-u.ac.jp/~sugawara/
神奈川大学 研究支援部 平塚研究支援課
電話: (0463)59-4111(代)
E-mail: kenkyu-hshien@kanagawa-u.ac.jp
<報道に関すること>
神奈川大学 広報部 広報課
電話: (045)481-5661(代)
E-mail: kohou-info@kanagawa-u.ac.jp
http://www.kanagawa-u.ac.jp/
公益財団法人豊田理化学研究所
電話: (0561)63-6141(代)
E-mail: riken@toyotariken.jp
http://www.toyotariken.jp/
【リリース発信元】 大学プレスセンター
http://www.u-presscenter.jp/