【京都産業大学】エントロピーが駆動する新たなミトコンドリアタンパク質輸送機構を発見

京都産業大学

京都産業大学の遠藤斗志也教授らの研究グループは、酵母のMICOS複合体を構成する6種の因子のうち、立体構造をとらないMic19の輸送におけるミリストイル化の必要性と、エントロピーの調節によって駆動される新しいタンパク質輸送のメカニズムを明らかにした。  ミトコンドリア(注1)は細胞内で生命活動に必要なエネルギーを産生し、ヒトではその正常機能がヒトの健康につながる。ミトコンドリアの機能低下は老化や神経変性疾患、糖尿病、がんなど様々な病態と関連することが知られている。正常機能のミトコンドリアを維持するためには、ミトコンドリアの外(サイトゾル)からミトコンドリア内にミトコンドリアを構成する1000 種におよぶタンパク質を配送する必要がある(注2)。輸送されるタンパク質の中には、ミトコンドリアの機能に重要な内膜のクリステ構造をつくるMICOS 複合体(注3)の構成因子もある。  今回京都産業大学の遠藤斗志也教授らの研究グループは、酵母のMICOS 複合体を構成する6 種の因子のうち、Mic19 にしっかりした立体構造をとらない長い領域があると、MIA 経路(注4)による膜間部への輸送が阻害され、その解除にはMic19 のミリストイル化(注5)が必要であることを見いだした。またMic19 がミリストイル化されると、ミトコンドリアの外膜や、外膜の膜透過装置TOM複合体の受容体Tom20 への結合が促進されることも見いだした。立体構造をとらない長い領域があると、Mic19 はミトコンドリアの外でのエントロピー(注6)が特に高く、そのままでは、TOM 複合体の狭い孔には入りにくくなる。ところが、Mic19 をミトコンドリアの外膜やTom20 に結合させると、ミトコンドリアの外で自由に動き回れる空間が小さくなる、つまりはエントロピーが下がることで、TOM 複合体への輸送がスムーズに行われるようになる。  こうしたエントロピーにより駆動される輸送はこれまで想定されていなかったが、 N-ミリストイル化は哺乳動物のミトコンドリアタンパク質などで見いだされており、こうしたメカニズムが単にMic19 のみに見られるのではなく、一般的な輸送の仕組みとして働くことが考えられる。 むすんで、うみだす。  上賀茂・神山 京都産業大学 ※用語解説  1 ミトコンドリア 酵母からヒトまで広く真核生物の細胞内に見られる必須のオルガネラ(細胞小器官)。生命活動に必要なエネルギー(ATP)を酸素呼吸によって産生するほか、さまざまな物質の代謝やアポトーシスにも関わる。ミトコンドリアの機能低下や機能異常と老化やがん、糖尿病、さまざまなミトコンドリア病との関連がわかっている。ミトコンドリアの機能を健全に保つことがヒトの健康に重要であることから、健全なミトコンドリアを増やす方法が注目されている。 2 タンパク質の配送機構 細胞内で合成されたタンパク質は、働くべき目的地に正しく配送される必要がある。ブローベルらはタンパク質には宅配便のように自分自身に宛名が書き込まれており、それを目的地の装置(トランスロケータの受容体)が読み取る、という原理があることを発見した(1999 年ノーベル生理学医学賞)。シェクマンとロスマンは、さらに小胞体からリソゾーム、細胞膜を含む細胞内膜系の間のタンパク質の輸送が小胞を介して行われ、小胞を生み出す膜、小胞、目的地の膜の間でタンパク質の選別の原理が働くことを見出した(2013 年ノーベル生理学医学賞)。このようにタンパク質の宛名や選別の仕組みについては理解が進んできたが、高分子であるタンパク質が目的地に効率よく運ばれる仕組みや、その原動力については、まだ謎が多い。 3 MICOS 複合体 ミトコンドリアは内膜を陥入させてチューブ状または層状の「クリステ」と呼ばれる構造をつくる。クリステには、エネルギー産生に必要な酸化的リン酸化を担う大量のタンパク質が集積し、ミトコンドリアのエネルギー産生効率を上げている。クリステ形成には、クリステの根元にあたる「クリステジャンクション」を形成するMICOS 複合体が必須である。MICOS 複合体は外膜のタンパク質と相互作用することで、内膜と外膜が近接する部位(コンタクトサイト)をつくることで、外膜と通過する代謝物質やタンパク質を効率よく内膜に引き渡す機能ももつ。 4 MIA経路 ミトコンドリアの膜間部に局在する可溶性タンパク質の多くは分子内にジスルフィド結合をもつ。膜間部のMia40(別名Tim40)は、TOM複合体を介して外膜を通過してきたこれらのタンパク質に結合することで、膜間部への輸送を促進するとともに、基質にジスルフィド結合を導入する。 5 ミリストイル化 タンパク質の中には脂肪酸が付加されるものがある。ミリスチン酸(CH3(CH2)12COOH)からミリストイル基が付加されることをミリストイル化と呼ぶ。タンパク質のN 端にミリストイル化モチーフがあると、最初のメチオニンが切断された後、2 番目のグリシン残基にミリストイル基が付加することが知られている。 6 エントロピー 「乱雑さ」を表す物理量。熱力学的には、外部との熱の出入りがなければ、エントロピーが増大する方向に現象は進む。   関連リンク ・エントロピーが駆動する新たなミトコンドリアタンパク質輸送機構を発見  https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20190204_345_release_ka01.html ・京都産業大学研究ブランディングサイト「生命とタンパク質の世界」  https://www.kyoto-su.ac.jp/protein/ 【お詫びと訂正】 本文の内容に修正がありましたので、差し替えさせて頂きました。(2019/3/18 12:40) ▼本件に関する問い合わせ先 京都産業大学 広報部 住所:〒603-8555 京都市北区上賀茂本山 TEL:075-705-1411 FAX:075-705-1987 メール:kouhou-bu@star.kyoto-su.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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