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摂南大学(大阪府寝屋川市)農学部応用生物科学科井上亮教授と予防医療の検査サービスを展開しているプリメディカ(東京都港区)、京都府立医科大学(京都府京都市)は共同研究である「腸内細菌叢研究データベースの統合解析による腸内環境評価システムの開発」により得られた研究成果を社会実装します。これに先立ち本学はプリメディカと共同で本学初の大学発ベンチャー企業「フローラディスカバリー」を設立しました。
【本件のポイント】
●これまでは難しかった複数の腸内細菌叢研究の高精度な横断分析を実施
●日本人の健常人と疾病有病者1,803人からなる国内屈指の腸内細菌叢データ
●日本人特有のエンテロタイプを特定し、腸内細菌叢と疾患との関連性を明らかに
●本学初の大学発ベンチャー企業を設立
腸内細菌叢の研究は世界的に盛んに行われるようになり、膨大なデータが公開データとして蓄積されています。しかし、それらのデータは別々の研究で得られ、データの取得方法が異なることから、研究を横断した分析においては研究間で大きな誤差が生まれていました。また、日本人の腸内細菌叢検査に欧米で取得されたデータが活用されてきましたが、日本人と欧米人では腸内細菌叢の構成が大きく違うことが明らかになるなど、欧米と同様の指標で日本人の腸内細菌叢を特徴付けることの妥当性に関してはさまざまな議論がありました。
今回、井上教授とプリメディカ、京都府立医科大は、全く同じ手法で腸内細菌叢を解析した16の臨床研究で得られた、合計1,803人分の日本人の健常者と疾病有病者の腸内細菌叢データを横断解析し、日本人特有の腸内細菌叢のタイプ(エンテロタイプ)の特定に成功しました。更に、日本人特有のエンテロタイプと10の疾患との関連性を明らかにしたことにより、腸内細菌叢の検査を受診することで、機能性胃腸症などの腸の病気、糖尿病などの成人病を含む10の疾患と自身の腸内細菌叢がどの程度関連性があるかを段階に分けて被験者へフィードバックすることが可能となりました。井上教授とプリメディカ、京都府立医科大は、この国内屈指のデータベースを使った腸内細菌叢検査サービスを社会実装します。
これに先駆け、井上教授とプリメディカは、本学初の大学発ベンチャー企業「フローラディスカバリー」を設立。プリメディカや京都府立医科大が取得した検査検体を、井上教授がこれまで腸内細菌叢研究で培ったノウハウを活用し、フローラディスカバリーにて測定/解析を行います。また、今後同社は本学農学部の学生が社会実装されたサービスを体験できるようインターンシップの受け入れ先となる予定です。データは現時点でも増え続けており、今後得られる知見をデータベースに反映し続けることで検査精度を向上していく予定です。
本研究成果である国内有数規模の日本人腸内細菌叢データベースを活用し、食品摂取や投薬による腸内環境への影響試験、食品の高付加価値化などの研究へ応用することを検討しています。食品介入による研究が進むことで、腸内細菌叢を改善し、あらゆる疾患を予防するためのより具体的な改善策の発見が期待されます。
【研究成果を社会実装したサービス「Flora Scan」】
Flora Scan(フローラスキャン)は本研究によって得られた国内有数規模の日本人腸内細菌叢データベースを用いた検査サービスです。背景情報まで含んだ大規模データベースを用いることにより、自分自身の腸内環境を把握できることはもちろん、腸内環境に関わるさまざまな研究において、比較評価するための指標として活用することが可能です。
本検査サービスはプリメディカにより、製薬/食品メーカーをはじめとする企業や、健康診断/人間ドックを実施している医療機関向けに、研究受託事業及び検査サービス事業として提供を開始します。
【「Flora Scan」3つの特徴】
特徴(1):日本人特有の新たなエンテロタイプの定義
腸内細菌叢の特徴を表す指標である「エンテロタイプ」は、先行する欧米での研究成果により、大きく4つのタイプに分類できるとされています。これらは摂取する炭水化物・タンパク質・脂肪のバランスといった食生活の傾向に影響されると考えられ、欧米の食生活とは異なる日本人に対して、欧米と同様の指標で腸内細菌叢を特徴付けることの妥当性に関してはさまざまな意見がありました。
本研究ではAI(人工知能)を用いて、日本人に最適なエンテロタイプの解析に着手し、38細菌属の存在比率に基づき5つのタイプに定義できることを明らかにしました。腸内環境検査サービスでは日本人の腸内細菌叢を特徴付けるエンテロタイプを5つのタイプに再定義し、評価しています。
特徴(2):疾患との関連性を評価
本研究における統合解析により、腸内細菌叢と疾患との関連性が明らかとなりました。本検査サービスでは、上述した日本人の腸内細菌叢を特徴付けるエンテロタイプと各疾患(炎症性腸疾患:IBD、機能性胃腸症、肝疾患、内分泌疾患、心疾患、精神疾患、高血圧、高脂血症、高尿酸血症、糖尿病)との関連性を評価*1しており、この評価手法は三者共同での特許出願を行いました。
本手法を用いた評価において、例えばIBDのオッズ比*2が、最も健康だと評価されるタイプの約27倍というタイプも存在することが明らかになっています。
特徴(3):独自の測定/解析ノウハウ
本検査サービスでは井上教授が考案した腸内細菌叢測定ノウハウを移転した、本学発ベンチャーである株式会社フローラディスカバリーにて測定を行います。井上教授が保有する独自の解析前処理工程及び解析プログラムを活用することで、検査時間の短縮や腸内細菌叢の測定におけるデファクトスタンダードの確立を目指します。
用語説明:
*1 特願2021-106050、発明の名称「疾患リスク評価のための腸内細菌叢のタイプ分類方法」
*2 オッズ比とは、ある事象の起こりやすさを2つの群で比較して示す際の指標です
▼本件に関する問い合わせ先
学校法人常翔学園 広報室
坂上・上田
住所:大阪府寝屋川市池田中町17-8
TEL:072-800-5371
メール:sakagami.kyoko@josho.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/