超高齢者の受療行動:Yokohama Original Medical Databaseを用いた都市部75歳以上住民の全数調査
本研究成果は、Geriatrics & Gerontology International誌に掲載されました。(日本時間2022年4月16日)
研究成果のポイント
- 90歳以上の超高齢者では、75-89歳と比較して外来受診は少なく、救急室受診・入院・訪問診療・通所および居宅介護サービスの利用が多い(図1)
- 生活保護受給者の方はそうでない方に比べ、診療所外来の受診が少なく、病院外来受診・救急室受診・入院・訪問診療が多い(図2)
- 2050年に予測される人口構成を用いると、現在と比較して、訪問診療と通所介護サービスの利用は約1.4倍、居宅介護サービスは約1.2倍になること予想される。(図3)
研究背景
世界保健機関は21世紀の全世界的な課題として「都市化」を挙げています。現在世界の人口の55%が都市部に集中しており、2050年には68%に達することが予想されています。同時に高齢者の増加も世界的な健康課題となっています。しかし、「高齢者」は一様な集団ではなく、90歳以上の超高齢者の受療行動は十分に知られていません。
世界に先駆けて高齢化が進行している日本の高齢者の受療行動を調査することは他国の高齢者医療政策にとっても有意義と考えられるため、今回の研究を行いました。
研究内容
本研究はレセプトデータ*2を用いた横断研究であり、2018年4月1日から2019年3月31日の間に横浜市に住民票があった75歳以上の住民かつ後期高齢者医療広域連合加盟者および生活保護受給者の方、全数が対象となりました。
診療所外来受診、病院外来受診、特定機能病院外来受診、救急受診、病院入院、特定機能病院入院、訪問診療、往診、居宅介護サービス利用、施設介護サービス利用を1000人当たりかつ1か月当たりに少なくとも1回以上行った人数を集計し、月ごとの日数に応じた加重平均を用い、性別・年齢5歳階級別・生活保護の有無に基づいて上記の人数を算出しました。
対象者は45万4366人であり、1000人当たりかつ1か月当たりに換算した人数(75-89歳/90歳以上)は、診療所外来受診622/570、病院外来受診300/263、特定機能病院外来受診16/6、救急受診10/27、病院入院45/96、特定機能病院入院2/1、訪問診療36/228、臨時往診6/38、居宅介護サービス173/533、施設介護サービス32/178(単位:人)でした。
今後の展開
今回の研究結果では、75-89歳と比較した際の90歳以上の医療・介護サービス利用の現状および75歳以上の生活保護受給者の方の医療・介護サービス利用の現状を調査しました。この結果は、今後の医療政策の策定や評価する際の指標の一つとして活用できる可能性があると考えられます。
研究費
本研究は、横浜市立大学 学長裁量事業 学術的研究推進事業 「若手研究者支援プロジェクト」の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル:Ecology of medical care for 90+ individuals: An exhaustive cross-sectional survey in an ageing city
著者:Makoto Kaneko, Sayuri Shimizu, Makoto Kuroki, Sachiko Nakagami, Taiga Chiba, Atsushi Goto
掲載雑誌: Geriatrics & Gerontology International
DOI: 10.1111/ggi.14387
用語説明
*1 YoMDB(Yokohama Original Medical Database):横浜市が保有する医療・介護・保健データを、医療政策への活用のために集約しデータベース化したもの
参考URL:https://www.city.yokohama.lg.jp/kurashi/kenko-iryo/iryo/seisaku/bigdata.html
本学と横浜市は、平成30年に「データ活用に関する包括連携協定」を締結し、さらに、ヘルスデータサイエンスの政策活用に向けた覚書を令和2年9月に締結しました。これにより、横浜市はデータに基づく医療政策の推進、本学はYoMDBを教育・研究活動に活用することで、高度な人材育成や研究力の向上が期待されます。
https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/202009ycuhds_yokohamacity.html
*2 レセプトデータ:診療報酬明細書の通称で、患者の病名と行った医療の詳細が請求額とともに記載され、各医療機関から患者単位、1か月単位で発行されます。