転写因子Nrf2は他のbZIP型転写因子よりDNAに強く結合し、酸化ストレス応答やがん化に関わることが明らかに
*1応答*2や肺がんなどのがん化に重要な役割を果たす転写因子*3であるNrf2の立体構造を解明し、Nrf2はbZIP型類似転写因子より強くDNAに結合することで遺伝子発現を厳密に制御していることを明らかにしました。本研究は、Nrf2の過剰発現によるがん化やがん治療抵抗性の詳細なメカニズム理解へ手がかりを提供します。
本研究成果は、オックスフォード大学出版局の科学雑誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。(2022年12月1日オンライン)
研究成果のポイント
私たちの生体を構成している細胞は、常に酸化ストレスのリスクに晒されています。転写因子Nrf2は、この酸化ストレスから細胞を守る働きをしています(これを酸化ストレス応答と呼びます)。よって、Nrf2は正常細胞が化学発がんを起こすのを予防する役割を果たしますが、一方でNrf2が異常に活性化した状態では細胞のがん化を促進し、がんを治療するための化学療法(毒物)や放射線療法(酸化ストレス)に対して治療抵抗性を付与することにもなります。実際、Nrf2の異常活性化は現在までに肺がんなどの多くのがんで報告されています。さらにNrf2はがん以外に糖尿病や神経変性疾患、炎症性疾患などの疾患においても関与が知られていて、例えばNrf2活性化剤であるフマル酸ジメチルは多発性硬化症の治療薬として使われています。このように、Nrf2は生体にとって諸刃の剣であり、生体を疾患から守るためにはNrf2の活性は厳密に調節される必要があります。
酸化ストレスなどのない通常時にはNrf2は細胞内で作られてもすぐに分解され、酸化ストレス応答は起こりません。酸化ストレスの暴露があるとNrf2は分解を免れて核内に入り、Nrf2のパートナー転写因子である小Maf群タンパク質(sMaf)*4とヘテロ二量体*5を形成します。続いてNrf2-sMafヘテロ二量体はCsMBE*6と呼ばれるDNA配列(シスエレメント)を認識して結合し、酸化ストレス応答遺伝子の発現を活性化します。酸化ストレスなどのない通常時(細胞内のNrf2量が少ない時)にはCsMBE配列にはsMafがホモ二量体を形成して結合し、酸化ストレス応答遺伝子の発現を抑制しています。
一方で、CsMBE配列には別の転写因子FosファミリーとJunファミリーのヘテロ二量体が結合するTRE配列*7が含まれていることが知られていました。Fos-Junファミリーヘテロ二量体は酸化ストレス応答とは異なり、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの制御に関わる遺伝子群の転写を制御しています。Fos-Junファミリーが誤ってCsMBE配列に結合してしまうと酸化ストレス応答の厳密な転写制御の攪乱が容易に予想できますが、実際にはそのようなことは起こりません。なぜNrf2とsMafがFos-Junファミリーなどの類似転写因子の影響を受けずに酸化ストレス応答遺伝子の転写を厳密に制御するかは分かっていませんでした。
研究内容
Nrf2、sMaf、Fos、JunはbZIP領域と呼ばれるDNA結合モチーフを共通して持ちますが、Nrf2とsMafはbZIP領域に加えてそれぞれCNCモチーフ、EHRモチーフと呼ばれる固有の領域も持ち、それらがbZIP領域と共にDNA結合を担います(図1左)。研究グループはNrf2とMafG(sMafの一種)のDNA結合領域が二量体を形成して標的DNAに結合した立体構造をX線結晶構造解析*8を用いて解明しました(図1中央)。Nrf2にユニークなCNCモチーフは図1の点線で囲った領域に相当しますが、この領域は標準的なbZIP型のFosやJunタンパク質の構造(図1右)には存在しません。CNCモチーフはDNAとは直接相互作用していませんでしたが、bZIP領域のDNA結合に重要な役割を果たすアミノ酸の構造を安定化し、それによって間接的にDNA結合に寄与していました。この安定化のおかげで、Nrf2はFosやJunと比べてより多くのイオン性相互作用をDNAとの間に形成しています。
図1 左、Nrf2や他の転写因子の機能ドメインマップ。中央、Nrf2とMafGのDNA結合領域が標的DNAに結合した複合体の立体構造。
右、代表的なbZIP型転写因子であるFosとJunが標的DNAに結合した複合体の立体構造。
そこでNrf2-MafGヘテロ二量体は、多くのイオン性相互作用により、Fos-Junヘテロ二量体などの他の転写因子と比べてより強くDNAと結合する可能性が考えられました。このことを確かめるために生化学的実験を行ったところ、Fos-Junヘテロ二量体と比べてNrf2-MafGヘテロ二量体はCsMBE配列を含むDNAに約200倍強く結合することが明らかになりました。また、MafGホモ二量体はNrf2-MafGヘテロ二量体とほぼ同じ強さでDNAに結合しました。さらに、CNCモチーフの全体を欠損するかDNA結合を安定化するアミノ酸に変異を持つNrf2を用いると、DNA親和性と転写活性化能の両方が低下することが明らかになりました。すなわち、CNCモチーフは間接的にNrf2のDNA親和性を上げることで他のbZIP型転写因子の作用によって邪魔されることなく、CsMBE配列を持つ標的遺伝子の転写活性化に働いていることが明らかになりました。
以上の結果から、Nrf2とsMafが類似転写因子の攪乱を受けずに酸化ストレス応答遺伝子の転写を制御するメカニズムが説明できます。酸化ストレスなどがない正常状態ではsMafホモ二量体がCsMBE配列に強く結合して酸化ストレス応答遺伝子の転写を抑制しています。そこに酸化ストレスが加わると、Nrf2-sMafヘテロ二量体の存在量が増加し、sMafホモ二量体と競合してDNAに結合することで酸化ストレス応答遺伝子の転写を活性化します。
Nrf2-sMafヘテロ二量体とsMafホモ二量体とはCsMBE配列に対して同程度の親和性を持ち、どちらがDNAに結合するかはそれぞれのタンパク質の相対量などによって決まります。一方で、Fos-Junヘテロ二量体などのbZIP型の転写因子もこのCsMBE配列を認識しますが、そのDNA親和性はNrf2-sMafヘテロ二量体やsMafホモ二量体と比べて低いため、Nrf2-sMafヘテロ二量体やsMafホモ二量体存在下ではこれらと競合してCsMBE配列に結合することはできず、結果として酸化ストレス応答遺伝子の転写制御を攪乱しないことがわかりました。
図2 Nrf2とsMafがFos-Junなどの他のbZIP型類似転写因子の攪乱を受けずに厳密に標的遺伝子の転写を制御するメカニズム。
Ub: ユビキチン(タンパク質の分解を導く分子)、AD: 転写活性化ドメイン。
今後の展開
本研究でNrf2の立体構造と生化学的性質が明らかになったことで、Nrf2を標的とした新たながんの治療法の合理的開発に向けた重要な手がかりが得られました。
Nrf2の他にもCNCモチーフを持つ転写因子は存在し、血球細胞分化やタンパク質品質管理などに働いています。これらの転写因子もNrf2と同様に強い親和性を持つことで厳密な転写制御を可能にしている可能性が考えられます。今後はNrf2のみならず、CNCモチーフを持つ転写因子全般を治療標的とした創薬への展開が期待されます。
研究費
本研究は、日本学術振興会、第一三共生命科学研究振興財団、武田科学振興財団、横浜市立大学の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Structural basis of transcription regulation by CNC family transcription factor, Nrf2
著者: Toru Sengoku, Masaaki Shiina, Kae Suzuki, Keisuke Hamada, Ko Sato, Akiko Uchiyama, Shunsuke Kobayashi, Asako Oguni, Hayato Itaya, Kota Kasahara, Hirotomo Moriwaki, Chiduru Watanabe, Teruki Honma, Chikako Okada, Shiho Baba, Tsutomu Ohta, Hozumi Motohashi, Masayuki Yamamoto, Kazuhiro Ogata
掲載雑誌: Nucleic Acids Research
DOI:https://doi.org/10.1093/nar/gkac1102
参考
用語説明
*1 酸化ストレス:細胞がスーパーオキシドやヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素など反応性の高い活性酸素種に暴露された状態。放射線による酸素の励起やミトコンドリアでの酸化的リン酸化など様々な要因によって細胞内で発生する。
*2 酸化ストレス応答:細胞が活性酸素の産生が増加した酸化ストレス状態や発がん作用を有する親電子物質に曝露された状態に置かれた時、DNAやタンパク質を守るための酵素(解毒酵素、抗酸化物質合成酵素、還元剤NADPHの生成を担うペントースリン酸経路の代謝酵素など)や毒物を排泄するための薬剤トランスポーターなどの遺伝子の発現が活性化されて細胞をダメージから回避する機能。
*3 転写因子:特定のDNA配列に結合して転写を制御するタンパク質。転写を活性化するものと抑制するものが存在する。
*4 小Maf群タンパク質(sMaf):転写因子の一種で、3種類のメンバー(MafF、MafG、MafK)が存在する。ホモ二量体を形成した場合は転写を抑制し、Nrf2とヘテロ二量体を形成した場合は転写を活性化する。
*5 ヘテロ二量体、ホモ二量体:二量体とは2分子のタンパク質が相互作用により複合体を形成した状態で、異種の2分子からなる二量体をヘテロ二量体、同種の2分子からなる二量体をホモ二量体と呼ぶ。
*6 CsMBE(CNC-sMaf-binding element):Nrf2-sMafヘテロ二量体が標的とするDNA配列。抗酸化剤応答配列(antioxidant response element: ARE)あるいは親電子性物質応答性配列(electrophile responsive element: EpRE)とも呼ばれる。
*7 TRE(TPA-responsive element)配列: Fos-Junヘテロ二量体が標的とするDNA配列。
*8 X線結晶構造解析:生体高分子の立体構造を決定する手法の一つ。生体高分子の結晶にX線を照射し、得られる回折データから結晶内部の電子分布を調べ、立体構造を計算する。
横浜市立大学大学院医学研究科 生化学 仙石徹准教授、椎名政昭助教、緒方一博教授らの研究グループは、立命館大学生命科学部、理化学研究所生命機能科学研究センター、常葉大学保健医療学部、東北大学東北メディカル・メガバンク機構、東北大学加齢医学研究所との共同研究で、酸化ストレス本研究成果は、オックスフォード大学出版局の科学雑誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。(2022年12月1日オンライン)
研究成果のポイント
- 酸化ストレス応答やがん化に関与する転写因子Nrf2がDNAに結合した複合体の立体構造を解明
- Nrf2は特徴的なCNCモチーフを持つことで、他のbZIP型転写因子より強く標的遺伝子に結合して発現を厳密に制御
- 研究成果はNrf2の過剰発現によるがん化やがん治療抵抗性に対する新たな創薬への手がかりを提供
私たちの生体を構成している細胞は、常に酸化ストレスのリスクに晒されています。転写因子Nrf2は、この酸化ストレスから細胞を守る働きをしています(これを酸化ストレス応答と呼びます)。よって、Nrf2は正常細胞が化学発がんを起こすのを予防する役割を果たしますが、一方でNrf2が異常に活性化した状態では細胞のがん化を促進し、がんを治療するための化学療法(毒物)や放射線療法(酸化ストレス)に対して治療抵抗性を付与することにもなります。実際、Nrf2の異常活性化は現在までに肺がんなどの多くのがんで報告されています。さらにNrf2はがん以外に糖尿病や神経変性疾患、炎症性疾患などの疾患においても関与が知られていて、例えばNrf2活性化剤であるフマル酸ジメチルは多発性硬化症の治療薬として使われています。このように、Nrf2は生体にとって諸刃の剣であり、生体を疾患から守るためにはNrf2の活性は厳密に調節される必要があります。
酸化ストレスなどのない通常時にはNrf2は細胞内で作られてもすぐに分解され、酸化ストレス応答は起こりません。酸化ストレスの暴露があるとNrf2は分解を免れて核内に入り、Nrf2のパートナー転写因子である小Maf群タンパク質(sMaf)*4とヘテロ二量体*5を形成します。続いてNrf2-sMafヘテロ二量体はCsMBE*6と呼ばれるDNA配列(シスエレメント)を認識して結合し、酸化ストレス応答遺伝子の発現を活性化します。酸化ストレスなどのない通常時(細胞内のNrf2量が少ない時)にはCsMBE配列にはsMafがホモ二量体を形成して結合し、酸化ストレス応答遺伝子の発現を抑制しています。
一方で、CsMBE配列には別の転写因子FosファミリーとJunファミリーのヘテロ二量体が結合するTRE配列*7が含まれていることが知られていました。Fos-Junファミリーヘテロ二量体は酸化ストレス応答とは異なり、細胞の増殖、分化、アポトーシスなどの制御に関わる遺伝子群の転写を制御しています。Fos-Junファミリーが誤ってCsMBE配列に結合してしまうと酸化ストレス応答の厳密な転写制御の攪乱が容易に予想できますが、実際にはそのようなことは起こりません。なぜNrf2とsMafがFos-Junファミリーなどの類似転写因子の影響を受けずに酸化ストレス応答遺伝子の転写を厳密に制御するかは分かっていませんでした。
研究内容
Nrf2、sMaf、Fos、JunはbZIP領域と呼ばれるDNA結合モチーフを共通して持ちますが、Nrf2とsMafはbZIP領域に加えてそれぞれCNCモチーフ、EHRモチーフと呼ばれる固有の領域も持ち、それらがbZIP領域と共にDNA結合を担います(図1左)。研究グループはNrf2とMafG(sMafの一種)のDNA結合領域が二量体を形成して標的DNAに結合した立体構造をX線結晶構造解析*8を用いて解明しました(図1中央)。Nrf2にユニークなCNCモチーフは図1の点線で囲った領域に相当しますが、この領域は標準的なbZIP型のFosやJunタンパク質の構造(図1右)には存在しません。CNCモチーフはDNAとは直接相互作用していませんでしたが、bZIP領域のDNA結合に重要な役割を果たすアミノ酸の構造を安定化し、それによって間接的にDNA結合に寄与していました。この安定化のおかげで、Nrf2はFosやJunと比べてより多くのイオン性相互作用をDNAとの間に形成しています。
図1 左、Nrf2や他の転写因子の機能ドメインマップ。中央、Nrf2とMafGのDNA結合領域が標的DNAに結合した複合体の立体構造。
右、代表的なbZIP型転写因子であるFosとJunが標的DNAに結合した複合体の立体構造。
そこでNrf2-MafGヘテロ二量体は、多くのイオン性相互作用により、Fos-Junヘテロ二量体などの他の転写因子と比べてより強くDNAと結合する可能性が考えられました。このことを確かめるために生化学的実験を行ったところ、Fos-Junヘテロ二量体と比べてNrf2-MafGヘテロ二量体はCsMBE配列を含むDNAに約200倍強く結合することが明らかになりました。また、MafGホモ二量体はNrf2-MafGヘテロ二量体とほぼ同じ強さでDNAに結合しました。さらに、CNCモチーフの全体を欠損するかDNA結合を安定化するアミノ酸に変異を持つNrf2を用いると、DNA親和性と転写活性化能の両方が低下することが明らかになりました。すなわち、CNCモチーフは間接的にNrf2のDNA親和性を上げることで他のbZIP型転写因子の作用によって邪魔されることなく、CsMBE配列を持つ標的遺伝子の転写活性化に働いていることが明らかになりました。
以上の結果から、Nrf2とsMafが類似転写因子の攪乱を受けずに酸化ストレス応答遺伝子の転写を制御するメカニズムが説明できます。酸化ストレスなどがない正常状態ではsMafホモ二量体がCsMBE配列に強く結合して酸化ストレス応答遺伝子の転写を抑制しています。そこに酸化ストレスが加わると、Nrf2-sMafヘテロ二量体の存在量が増加し、sMafホモ二量体と競合してDNAに結合することで酸化ストレス応答遺伝子の転写を活性化します。
Nrf2-sMafヘテロ二量体とsMafホモ二量体とはCsMBE配列に対して同程度の親和性を持ち、どちらがDNAに結合するかはそれぞれのタンパク質の相対量などによって決まります。一方で、Fos-Junヘテロ二量体などのbZIP型の転写因子もこのCsMBE配列を認識しますが、そのDNA親和性はNrf2-sMafヘテロ二量体やsMafホモ二量体と比べて低いため、Nrf2-sMafヘテロ二量体やsMafホモ二量体存在下ではこれらと競合してCsMBE配列に結合することはできず、結果として酸化ストレス応答遺伝子の転写制御を攪乱しないことがわかりました。
Ub: ユビキチン(タンパク質の分解を導く分子)、AD: 転写活性化ドメイン。
今後の展開
本研究でNrf2の立体構造と生化学的性質が明らかになったことで、Nrf2を標的とした新たながんの治療法の合理的開発に向けた重要な手がかりが得られました。
Nrf2の他にもCNCモチーフを持つ転写因子は存在し、血球細胞分化やタンパク質品質管理などに働いています。これらの転写因子もNrf2と同様に強い親和性を持つことで厳密な転写制御を可能にしている可能性が考えられます。今後はNrf2のみならず、CNCモチーフを持つ転写因子全般を治療標的とした創薬への展開が期待されます。
研究費
本研究は、日本学術振興会、第一三共生命科学研究振興財団、武田科学振興財団、横浜市立大学の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Structural basis of transcription regulation by CNC family transcription factor, Nrf2
著者: Toru Sengoku, Masaaki Shiina, Kae Suzuki, Keisuke Hamada, Ko Sato, Akiko Uchiyama, Shunsuke Kobayashi, Asako Oguni, Hayato Itaya, Kota Kasahara, Hirotomo Moriwaki, Chiduru Watanabe, Teruki Honma, Chikako Okada, Shiho Baba, Tsutomu Ohta, Hozumi Motohashi, Masayuki Yamamoto, Kazuhiro Ogata
掲載雑誌: Nucleic Acids Research
DOI:https://doi.org/10.1093/nar/gkac1102
参考
用語説明
*1 酸化ストレス:細胞がスーパーオキシドやヒドロキシラジカル、過酸化水素、一重項酸素など反応性の高い活性酸素種に暴露された状態。放射線による酸素の励起やミトコンドリアでの酸化的リン酸化など様々な要因によって細胞内で発生する。
*2 酸化ストレス応答:細胞が活性酸素の産生が増加した酸化ストレス状態や発がん作用を有する親電子物質に曝露された状態に置かれた時、DNAやタンパク質を守るための酵素(解毒酵素、抗酸化物質合成酵素、還元剤NADPHの生成を担うペントースリン酸経路の代謝酵素など)や毒物を排泄するための薬剤トランスポーターなどの遺伝子の発現が活性化されて細胞をダメージから回避する機能。
*3 転写因子:特定のDNA配列に結合して転写を制御するタンパク質。転写を活性化するものと抑制するものが存在する。
*4 小Maf群タンパク質(sMaf):転写因子の一種で、3種類のメンバー(MafF、MafG、MafK)が存在する。ホモ二量体を形成した場合は転写を抑制し、Nrf2とヘテロ二量体を形成した場合は転写を活性化する。
*5 ヘテロ二量体、ホモ二量体:二量体とは2分子のタンパク質が相互作用により複合体を形成した状態で、異種の2分子からなる二量体をヘテロ二量体、同種の2分子からなる二量体をホモ二量体と呼ぶ。
*6 CsMBE(CNC-sMaf-binding element):Nrf2-sMafヘテロ二量体が標的とするDNA配列。抗酸化剤応答配列(antioxidant response element: ARE)あるいは親電子性物質応答性配列(electrophile responsive element: EpRE)とも呼ばれる。
*7 TRE(TPA-responsive element)配列: Fos-Junヘテロ二量体が標的とするDNA配列。
*8 X線結晶構造解析:生体高分子の立体構造を決定する手法の一つ。生体高分子の結晶にX線を照射し、得られる回折データから結晶内部の電子分布を調べ、立体構造を計算する。