心不全患者の体重変化に注意!国内ビッグデータ解析から入院中の死亡率と関係を明らかに
*1患者の体重変化と入院中の死亡率の関係を明らかにしました。本研究の結果は、現在もなお適切な対応が難しい心不全患者の水分、栄養管理に貢献することが期待されます。
本研究成果は、Journal of Cachexia, Sarcopenia, and Muscle誌に掲載されました。(2022年12月23日オンライン)
研究成果のポイント
社会の高齢化とともに心不全患者は増加しています。慢性疾患患者の多くが疾病に関連した体重減少に苦しんでいて、慢性心疾患の代表である心不全もその例外ではありません。慢性疾患に関連した体重減少は、全身の炎症やホルモンの異常を伴い、がんなどの他の慢性疾患でも問題になります。がん患者においては体重減少が死亡率と密接に関連していることが明らかになっている一方、心不全における体重減少の評価は困難です。なぜなら、心不全は体内の水分量が劇的に変化する疾患であり、体重変化が水分量の変化を示すのか、筋肉や脂肪(栄養)の量の変化を示すのかの判断が難しいからです。それでも長期的に見ると、慢性心不全患者の体重減少は死亡率の上昇と関連し、逆に急な体重増加は再入院率の上昇と関連することがわかっています。しかし現在のところ、体重の変化が心不全の入院中の死亡率に及ぼす影響について、十分な数の患者を対象にした研究は行われていませんでした。この影響がわかると、死亡率の高い患者を事前に予測することが可能になるだけでなく、今後体重を減らさないための治療(栄養療法など)、体重を減らす治療(利尿薬など)の有効性を明らかにする研究の発展につながります。
研究内容
本研究では、日本の全国的な入院患者のデータベースであるDPC (Diagnosis Procedure Combination) *2を使用し、2010年から2018年の間に心不全のために入院を繰り返した患者(年齢の中央値82歳、46%が男性)計48,234人を解析対象としました。体重変化は、初回入院時と2回目入院時の体重から求めました。体重変化の中央値は-3.1%、2回の入院の間隔の中央値は172日であり、全患者の67%で体重が減少していました。様々な患者背景を調整した解析の結果、5%を超える体重減少と体重増加はともに、高い院内死亡率と関連していました(調整オッズ比*3それぞれ1.46、1.23)。 また体重増加と死亡率の関係は、2回の入院の間隔が短い(90日未満、または180日未満)患者でより顕著でした(図1)。
図1 心不全患者の体重変化と入院中死亡のオッズ比
今後の展開
本研究は、観察研究を用いて関連性を示したものであり、因果関係を示す研究結果ではありません。しかし、本研究を通じて前回入院時より体重が減っている患者は総じて死亡率が高いこと、短い期間に体重が増加した患者も死亡率が高いことが判明しました。長期的には体重を減らさないための治療(栄養療法など)、短期的には体重増加に注意する治療(利尿薬などで体重増加、水分増加を防ぐ治療)が有効である可能性が示唆され、今後の研究が期待されます。
研究費
本研究は、厚生労働科学研究費補助金19AA2007および20AA2005、日本学術振興会科学研究費助成事業20H3907の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Association of weight change and in-hospital mortality in patients with repeated hospitalization for heart failure
著者: Masaaki Konishi, Hidehiro Kaneko, Hidetaka Itoh, Satoshi Matsuoka, Akira Okada, Kentaro Kamiya, Tadafumi Sugimoto, Katsuhito Fujiu, Nobuaki Michihata, Taisuke Jo, Norifumi Takeda, Hiroyuki Morita, Kouichi Tamura, Hideo Yasunaga, Issei Komuro
掲載雑誌: Journal of Cachexia, Sarcopenia, and Muscle
DOI:https://doi.org/10.1002/jcsm.13170
用語説明
*1 心不全:
心臓の機能が低下することで息切れやむくみが生じ、寿命を縮める病気。心不全の原因はさまざまで、生活習慣病の増加や高齢化の影響で心不全の患者数は増え続け、国内においてもすでに100万人の患者が存在し、2030年代には130万人に達するといわれている。
*2 DPC (Diagnostic Procedure Combination):
診断群分類と訳され、病名や診療内容に応じて定められた1日当たりの定額の点数で入院診療費を計算する方式。診療報酬の請求のために集められたデータを解析して行われたのが本研究で、DPCを使用している病院は日本全国1200以上あり、全47都道府県の82大学病院も含まれる。
*3 オッズ比:
ある事柄の起こりやすさを統計学的に比較する方法。オッズ比が1を超えている場合は、基準となる群よりも比較対象とされた群で、ある事柄(本研究の場合、入院中の死亡という事柄)が起こりやすいことを示している。本研究では、体重変化が少ない(-2から+2%)群を基準とした場合、5%を超えて体重減少ないし体重増加した群のオッズ比は1を超える。したがって、体重変化が少ない群よりも体重減少ないし体重増加した群のほうが入院中に死亡するリスクがそれぞれ1.46倍と1.23倍高いと解釈できる。
横浜市立大学学術院医学群 循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一教授、小西正紹講師、東京大学大学院医学系研究科の小室一成教授、康永秀生教授、金子英弘特任講師らの研究グループは、日本の大規模な疫学データベースを解析することで、心不全本研究成果は、Journal of Cachexia, Sarcopenia, and Muscle誌に掲載されました。(2022年12月23日オンライン)
研究成果のポイント
- 心不全患者の体重変化と入院中の死亡率の関係を明らかにした日本初の観察研究
- 前回入院時より体重が減っている患者は総じて死亡率が高いことが判明
- 短い期間に体重が増加した患者も死亡率が高いことが判明
社会の高齢化とともに心不全患者は増加しています。慢性疾患患者の多くが疾病に関連した体重減少に苦しんでいて、慢性心疾患の代表である心不全もその例外ではありません。慢性疾患に関連した体重減少は、全身の炎症やホルモンの異常を伴い、がんなどの他の慢性疾患でも問題になります。がん患者においては体重減少が死亡率と密接に関連していることが明らかになっている一方、心不全における体重減少の評価は困難です。なぜなら、心不全は体内の水分量が劇的に変化する疾患であり、体重変化が水分量の変化を示すのか、筋肉や脂肪(栄養)の量の変化を示すのかの判断が難しいからです。それでも長期的に見ると、慢性心不全患者の体重減少は死亡率の上昇と関連し、逆に急な体重増加は再入院率の上昇と関連することがわかっています。しかし現在のところ、体重の変化が心不全の入院中の死亡率に及ぼす影響について、十分な数の患者を対象にした研究は行われていませんでした。この影響がわかると、死亡率の高い患者を事前に予測することが可能になるだけでなく、今後体重を減らさないための治療(栄養療法など)、体重を減らす治療(利尿薬など)の有効性を明らかにする研究の発展につながります。
研究内容
本研究では、日本の全国的な入院患者のデータベースであるDPC (Diagnosis Procedure Combination) *2を使用し、2010年から2018年の間に心不全のために入院を繰り返した患者(年齢の中央値82歳、46%が男性)計48,234人を解析対象としました。体重変化は、初回入院時と2回目入院時の体重から求めました。体重変化の中央値は-3.1%、2回の入院の間隔の中央値は172日であり、全患者の67%で体重が減少していました。様々な患者背景を調整した解析の結果、5%を超える体重減少と体重増加はともに、高い院内死亡率と関連していました(調整オッズ比*3それぞれ1.46、1.23)。 また体重増加と死亡率の関係は、2回の入院の間隔が短い(90日未満、または180日未満)患者でより顕著でした(図1)。
今後の展開
本研究は、観察研究を用いて関連性を示したものであり、因果関係を示す研究結果ではありません。しかし、本研究を通じて前回入院時より体重が減っている患者は総じて死亡率が高いこと、短い期間に体重が増加した患者も死亡率が高いことが判明しました。長期的には体重を減らさないための治療(栄養療法など)、短期的には体重増加に注意する治療(利尿薬などで体重増加、水分増加を防ぐ治療)が有効である可能性が示唆され、今後の研究が期待されます。
研究費
本研究は、厚生労働科学研究費補助金19AA2007および20AA2005、日本学術振興会科学研究費助成事業20H3907の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Association of weight change and in-hospital mortality in patients with repeated hospitalization for heart failure
著者: Masaaki Konishi, Hidehiro Kaneko, Hidetaka Itoh, Satoshi Matsuoka, Akira Okada, Kentaro Kamiya, Tadafumi Sugimoto, Katsuhito Fujiu, Nobuaki Michihata, Taisuke Jo, Norifumi Takeda, Hiroyuki Morita, Kouichi Tamura, Hideo Yasunaga, Issei Komuro
掲載雑誌: Journal of Cachexia, Sarcopenia, and Muscle
DOI:https://doi.org/10.1002/jcsm.13170
用語説明
*1 心不全:
心臓の機能が低下することで息切れやむくみが生じ、寿命を縮める病気。心不全の原因はさまざまで、生活習慣病の増加や高齢化の影響で心不全の患者数は増え続け、国内においてもすでに100万人の患者が存在し、2030年代には130万人に達するといわれている。
*2 DPC (Diagnostic Procedure Combination):
診断群分類と訳され、病名や診療内容に応じて定められた1日当たりの定額の点数で入院診療費を計算する方式。診療報酬の請求のために集められたデータを解析して行われたのが本研究で、DPCを使用している病院は日本全国1200以上あり、全47都道府県の82大学病院も含まれる。
*3 オッズ比:
ある事柄の起こりやすさを統計学的に比較する方法。オッズ比が1を超えている場合は、基準となる群よりも比較対象とされた群で、ある事柄(本研究の場合、入院中の死亡という事柄)が起こりやすいことを示している。本研究では、体重変化が少ない(-2から+2%)群を基準とした場合、5%を超えて体重減少ないし体重増加した群のオッズ比は1を超える。したがって、体重変化が少ない群よりも体重減少ないし体重増加した群のほうが入院中に死亡するリスクがそれぞれ1.46倍と1.23倍高いと解釈できる。