ショックの原因診断に対する簡易超音波検査(ポイントオブケア超音波検査)の有用性が判明
*1」の原因を、簡易超音波検査で診断する新たな手法の診断精度をシステマティックレビュー*2とメタ解析により検討し、その有効性を明らかにしました。本研究は、横浜市立大学のデータサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の吉田拓生修士課程学生(研究実施時)と水原敬洋准教授の研究チームが行いました。
本研究成果は、査読付き英文雑誌「Critical Care」に掲載されました。(2023年5月25日オンライン)
研究成果のポイント
図1 各ショックに対する診断精度のグラフ 縦軸が感度、横軸が1-特異度である。左上に曲線が位置するほど、検査性能が高い。
研究背景
集中治療領域においてポイントオブケア超音波検査は、その利便性、迅速性から注目されている検査手法です。疾病を引き起こす病態の診断に際しベッドサイドで診断を下す検査法であり、臨床現場では汎用されています。一方でその診断の正しさ、特徴の科学的評価は不十分でした。
本研究では、血圧が下がり、瀕死の状態になる急性の症候群であり、放置すれば死亡する可能性が高くなるなど迅速な原因診断が要求されるショックに対しての診断精度を評価しました。
研究内容
2022年6月までに出版された関連する医学文献を集積し、診断精度に関わる情報を引き出した上で統合解析を行いました。一次検索で見つかった1,553件の研究の中から36件の研究が全文レビューされ、最終的には1,132人の患者を含む12件の研究が統合解析の対象となりました。研究ごとの感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比について、Reitsmaの二変量ランダム効果モデル*4を用いて統合解析を行い、統合感度・特異度を算出するとともに、統合ROC曲線とその曲線下面積の算出を行いました。それぞれのショック(閉塞性ショック、心原性ショック、循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショック、混合性ショック)に対して特異度は全てにおいて0.9以上と高く、特に閉塞性ショックでは特異度0.98でした。また、それぞれのショックに対する統合ROC曲線の曲線下面積は、おおよそ0.95でした。ROC曲線下面積は診断能力を評価するためのもので、1に近いほど診断能力が高いと言えます。また、それぞれのショックに対する陽性尤度比は全て10より大きく、特に閉塞性ショックでは40と高く、確定診断に優れている事が示されました。(図1)
これらの結果から、ポイントオブケア超音波検査はショックの原因全般に対して、確定診断の際に特に有用である事が判明しました。更には、その特徴は閉塞性ショックで顕著であることがわかりました。
今後の展開
本研究結果は、臨床現場に直接的に応用できる情報となります。これらの結果はショックの症状をより正確に診断するための新しい手順、つまり「簡易超音波検査の新たな診断プロトコール」を作り出す際の大切な情報となります。この進歩により、今後、診断方法がさらに洗練され、患者ケアが向上することが期待されます。
論文情報
タイトル: Diagnostic accuracy of point-of-care ultrasound for shock: a systematic review and meta-analysis.
著者: Takuo Yoshida, Takuya Yoshida, Hisashi Noma, Takeshi Nomura, Akihiro Suzuki, Takahiro Mihara
掲載雑誌:Critical Care
DOI: https://doi.org/10.1186/s13054-023-04495-6
用語説明
*1 ショック:高度な循環不全を意味し、早期の治療介入が必要な状態である。引き起こした原因別に、ショックは閉塞性ショック、分布異常性ショック、循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショックに分類され、これらの分類ごとに具体的な治療介入方法が異なる。これらの分類を診断することは具体的な治療介入内容に直結する。
*2 システマティックレビュー:既存の論文を系統的に検索評価して解析する手法。
*3 ポイントオブケア超音波検査:臨床医が超音波検査を用いてベッドサイドで診断を下していく手法。時間をかけて精査していくのではなく、迅速かつ目標指向的に検査を実施する。急性期病態に対して実施することで、原因に即した早期治療介入を可能とし患者の予後改善を目指す。
*4 Reitsmaの二変量ランダム効果モデル:感度と特異度という2つの異なるパラメーター(変量)を同時に考慮し、それらの間の潜在的な相関を含めて統合する手法。さらに、ランダム効果モデルを用いることで、個々の研究の違いや異質性を考慮した統合を行う。
Reitsma JB, Glas AS, Rutjes AWS, Scholten RJPM, Bossuyt PM, Zwinderman AH. Bivariate analysis of sensitivity and specificity produces informative summary measures in diagnostic reviews. J Clin Epidemiol. 2005;58: 982–990.
血圧が下がり、瀕死の状態になる急性の症候群である「ショック本研究成果は、査読付き英文雑誌「Critical Care」に掲載されました。(2023年5月25日オンライン)
研究成果のポイント
- ショックの原因診断に対する簡易超音波検査(ポイントオブケア超音波検査*3)は、特異度が高く、確定診断の際に特に有用な検査であることが判明しました。
- 特に、閉塞性ショックの同定においてその傾向が強く見られ、その診断手法として非常に効果的であることが示されました(図1)。
研究背景
集中治療領域においてポイントオブケア超音波検査は、その利便性、迅速性から注目されている検査手法です。疾病を引き起こす病態の診断に際しベッドサイドで診断を下す検査法であり、臨床現場では汎用されています。一方でその診断の正しさ、特徴の科学的評価は不十分でした。
本研究では、血圧が下がり、瀕死の状態になる急性の症候群であり、放置すれば死亡する可能性が高くなるなど迅速な原因診断が要求されるショックに対しての診断精度を評価しました。
研究内容
2022年6月までに出版された関連する医学文献を集積し、診断精度に関わる情報を引き出した上で統合解析を行いました。一次検索で見つかった1,553件の研究の中から36件の研究が全文レビューされ、最終的には1,132人の患者を含む12件の研究が統合解析の対象となりました。研究ごとの感度、特異度、陽性尤度比、陰性尤度比について、Reitsmaの二変量ランダム効果モデル*4を用いて統合解析を行い、統合感度・特異度を算出するとともに、統合ROC曲線とその曲線下面積の算出を行いました。それぞれのショック(閉塞性ショック、心原性ショック、循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショック、混合性ショック)に対して特異度は全てにおいて0.9以上と高く、特に閉塞性ショックでは特異度0.98でした。また、それぞれのショックに対する統合ROC曲線の曲線下面積は、おおよそ0.95でした。ROC曲線下面積は診断能力を評価するためのもので、1に近いほど診断能力が高いと言えます。また、それぞれのショックに対する陽性尤度比は全て10より大きく、特に閉塞性ショックでは40と高く、確定診断に優れている事が示されました。(図1)
これらの結果から、ポイントオブケア超音波検査はショックの原因全般に対して、確定診断の際に特に有用である事が判明しました。更には、その特徴は閉塞性ショックで顕著であることがわかりました。
今後の展開
本研究結果は、臨床現場に直接的に応用できる情報となります。これらの結果はショックの症状をより正確に診断するための新しい手順、つまり「簡易超音波検査の新たな診断プロトコール」を作り出す際の大切な情報となります。この進歩により、今後、診断方法がさらに洗練され、患者ケアが向上することが期待されます。
論文情報
タイトル: Diagnostic accuracy of point-of-care ultrasound for shock: a systematic review and meta-analysis.
著者: Takuo Yoshida, Takuya Yoshida, Hisashi Noma, Takeshi Nomura, Akihiro Suzuki, Takahiro Mihara
掲載雑誌:Critical Care
DOI: https://doi.org/10.1186/s13054-023-04495-6
用語説明
*1 ショック:高度な循環不全を意味し、早期の治療介入が必要な状態である。引き起こした原因別に、ショックは閉塞性ショック、分布異常性ショック、循環血液量減少性ショック、血液分布異常性ショックに分類され、これらの分類ごとに具体的な治療介入方法が異なる。これらの分類を診断することは具体的な治療介入内容に直結する。
*2 システマティックレビュー:既存の論文を系統的に検索評価して解析する手法。
*3 ポイントオブケア超音波検査:臨床医が超音波検査を用いてベッドサイドで診断を下していく手法。時間をかけて精査していくのではなく、迅速かつ目標指向的に検査を実施する。急性期病態に対して実施することで、原因に即した早期治療介入を可能とし患者の予後改善を目指す。
*4 Reitsmaの二変量ランダム効果モデル:感度と特異度という2つの異なるパラメーター(変量)を同時に考慮し、それらの間の潜在的な相関を含めて統合する手法。さらに、ランダム効果モデルを用いることで、個々の研究の違いや異質性を考慮した統合を行う。
Reitsma JB, Glas AS, Rutjes AWS, Scholten RJPM, Bossuyt PM, Zwinderman AH. Bivariate analysis of sensitivity and specificity produces informative summary measures in diagnostic reviews. J Clin Epidemiol. 2005;58: 982–990.