デロイト トーマツ調査、人的資本情報開示にて人事戦略が目指す最終成果を示していない企業が76%

デロイト トーマツ グループ

企業価値向上ストーリーに必要な「経営戦略と人材戦略の連動」、「人事施策と指標・目標の連動」を示していない企業が多い実態

デロイト トーマツ グループ(本社:東京都千代田区、グループCEO:木村 研一)は、有価証券報告書における人的資本情報開示実態調査2023を実施し、その結果を発表します。本調査は、JPX400構成銘柄企業について、テキストマイニングを用いて「①人的資本に関する情報開示量」を調査しました。さらに、TOPIX100構成銘柄企業について、個別企業の開示内容を精査し、「②価値創造ストーリーの充実度」「③開示項目の傾向」を分析しました。その結果、TOPIX100企業では、人的資本に関する情報開示量の平均値は約3,000字と一定の分量で開示がされているものの、人事戦略が目指す最終成果(アウトカム)を示していない企業は76%にのぼることがわかりました。

【①人的資本に関する情報開示量】
有価証券報告書に新設されたセクション「サステナビリティに関する考え方、取組み」における「人的資本」に関する情報開示量(文字数ベース)を、JPX400企業を対象に集計したところ、全体の平均値は2,855字であった。また、TOPIX100銘柄に絞った企業群の平均値は3,270字だった。TOPIX100銘柄の情報開示量は企業間でばらつきが見られ、検討・取り組みの進捗が、開示量の差に影響している可能性が考えられる。

図1 人的資本に関する情報開示量

【②価値創造ストーリーの充実度】
人的資本を起点にした企業の価値創造ストーリー構築の取り組みが、どの程度実施されているか明らかにするため、TOPIX100構成銘柄(2023年3月決算企業)を対象に調査した。価値創造ストーリーの具体化に必要な「経営戦略と人材戦略の連動」「人事施策と指標・目標との連動」について、計4つのポイント(A~D)を実施しているか、開示内容を分析した。
76%の企業が価値創造ストーリーを構築する上で肝となる最終成果(アウトカム)の定義をしておらず、84%の企業が各施策と成果指標などとの対応関係を明示せず施策の効果が確認しにくい状況にある。多くの企業が、価値創造ストーリーの構築までは十分にできていないことがうかがえる。

<経営戦略と人材戦略の連動>(図2-1)
A. 人的資本投資を通じて創出する最終成果(アウトカム)を定義しているか
⇒76%の企業は、アウトカムに言及する記載は無かった
B. 経営を見据えたありたい姿に対する課題が明確化されているか
⇒50%の企業は、ありたい姿・課題の明示がなく、個別施策の内容を列挙する記載にとどまっていた

<人事施策と指標・目標との連動>(図2-2)
C. 各施策と指標(インプット、アウトプット)の関係性が整理されているか
⇒84%の企業は、各施策と指標との対応関係が明示されず、施策の効果が確認しにくい
D. 指標を活用し、各施策の進捗状況の検証・説明がされているか
⇒52%の企業は、目標の記載が無いか、または目標に対する進捗状況が検証・説明されていない

図2-1 経営戦略と人材戦略の連動を伝えるために必要なポイントを実施している企業の割合

図2-2 人事施策と指標・目標の連動を伝えるために必要なポイントを実施している企業の割合

【③開示項目の傾向】
「サステナビリティに関する考え方、取組み」セクションにて各社が開示した指標を、「人的資本可視化指針(内閣府)」の分類を参考に集計し、傾向を分析した。測定しやすい指標が中心に開示されており、人的資本を通じた価値創造に強く関係する、投資とその効果に関する指標は現時点ではほとんど見られなかった。
  • 開示された件数は、「ダイバーシティ(特にジェンダー)」、次いで「従業員エンゲージメント」に関する指標が多かった。
  • 価値向上に関連する「育成」「流動性」では、事業変革を見据えた人材ポートフォリオ見直しに取り組む企業は、専門スキル、自律キャリア構築、オープンタレントマーケット等の独自性のある指標を設定する例も見られた。
  • リスクマネジメントに関連する「健康・安全」「労働慣行」「コンプライアンス/倫理」については、現在の人事管理業務で測定していると推測される指標(休暇取得率や健康診断受診率)が多く見られた一方、国際的に重視されるテーマである労働災害や人権・差別問題(児童/強制労働等)に関する指標の開示は比較的少なかった。

図3 開示項目の傾向

 

【調査結果へのコメント】デロイト トーマツ コンサルティング パートナー 今野 靖秀
今回の調査結果からは、TOPIX100構成銘柄という日本を代表する企業群であっても、有価証券報告書において価値創造ストーリーを具体的にステークホルダーに伝えられている企業は、現時点では少数である実態が明らかになった。法令の適用開始から準備期間が短く、検討が十分にできなかったとも想像され、開示内容は施策の列挙にとどまっている企業も多かった。今後に向けた改善の方向性としては、現在行っている施策を起点にするのではなく、「なぜその施策に投資するのか(経営戦略と人材戦略の連動)」、「その施策によってどのような効果が上がるのか(各人事施策と指標の連動)」をストーリーとして語っていく必要があると考えられる。
また、開示項目は、「多様性(主に女性)」「従業員エンゲージメント」といった比較的測定しやすい項目が中心であった。将来に向けては自社にとって重要なKPI(特に、人的資本への取り組みが最終的にどのように企業価値に影響するのかを示すアウトカム指標)の特定、そのためのデータ基盤の整備、開示に向けたストーリー構築が必要になる。
人的資本経営に向けた日本企業の検討はまだ始まったばかりであり、企業価値を創出していくための、これからの各社の取り組みを期待したい。


【調査概要】
■調査期間        
2023年7月~2023年8月

■調査目的
日本企業における有価証券報告書での人的資本に関する開示状況を、以下の観点から調査・分析する
①人的資本に関する情報開示量のマクロ動向
②価値創造ストーリーの充実度
③開示項目の傾向

■調査対象企業
①人的資本に関する情報開示量
2023年8月時点のJPX400構成銘柄のうち、2023年3月期決算企業(347社)
②価値創造ストーリーの充実度
2023年8月時点のTOPIX100構成銘柄(100社)※1※2
③開示項目の傾向
2023年8月時点のTOPIX100構成銘柄(100社)※1

※1 「企業内容等の開示に関する内閣府令」(2023年1月31日施行)により新設された項目については、2023年3月期決算企業(82社)を対象としております
※2 集計結果を四捨五入して表示しており、数値の合計が100%にならない場合があります

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