最新のCT技術により心臓アミロイドーシスの診断精度を飛躍的に向上させることに成功
―心臓機能の低下や不整脈等の診断と治療計画の大きな進歩に―
横浜市立大学附属病院 放射線診断科 加藤真吾講師らの研究グループは、コンピュータ断層撮影(CT)*1 による心筋細胞外液分画(extracellular volume fraction: ECV)のメタ解析 *2 を実施し、心臓アミロイドーシス診断におけるCT-ECVの高い精度を明らかにしました。本研究により、心臓アミロイドーシス患者のECV値が顕著に高く、CT-ECVの感度は92.8%、特異度は84.8%に達することが判明しました。この技術は、心臓アミロイドーシスの診断と治療計画に大きな進歩をもたらす可能性があります。
本研究成果は、米国心臓病学会の学会誌「JACC:Cardiovascular Imaging」に掲載されました。(2023年11月22日)
研究成果のポイント
・CTによる心筋細胞外液分画(CT-ECV)は、非侵襲的に心筋の線維化の程度を評価する新しい画像
診断技術であることを明らかにした。
・心疾患別にECV値の明らかな差異があり、特に心臓アミロイドーシスの患者では、ECV値が顕著に
高く、高い診断能を示した。
・CT-ECVが広く用いられることにより、心臓アミロイドーシスの診断と治療計画に大きな進歩を
もたらす可能性がある。
研究背景
心臓アミロイドーシスは、異常なタンパク質(アミロイド)が心筋組織に蓄積し、心臓の正常な機能を妨げる病気です。この病態は徐々に進行し、心臓の収縮能力の低下や不整脈などの症状を引き起こします。現在、治療薬は保険適用されていますが、進行した症例では効果が限定的であり、早期発見と治療が重要とされています。コンピュータ断層撮影(CT)による細胞外液分画(ECV)の技術は、心筋の異常を画像で評価することを可能にしました。この技術は近年、世界的に注目されており、その有用性を示すデータが多数報告されています。これらのデータをメタ解析により統合し、画像所見の全体像を明らかにしました。
研究内容
本研究では、42の論文から2545名の心疾患(うち心臓アミロイドーシスは161名)と554名のコントロール群のCT-ECVのデータを抽出し、メタ解析を行いました。大動脈弁狭窄症と心臓アミロイドーシスが合併することが知られており、これら二つの疾患を区別することが非常に重要です。そのため、心臓アミロイドーシスと大動脈弁狭窄症を鑑別する能力に焦点を当てて解析を行いました。結果、CT-ECV値は、コントロール群で28.5%(95% CI *3 : 27.3%-29.7%)、大動脈弁狭窄症群で31.9%(95% CI: 30.2%-33.8%)、心臓アミロイドーシス群で48.9%(95% CI: 44.5%-53.3%)でした(図1)。CT-ECVは大動脈弁狭窄症群ではコントロール群と比較して有意に上昇していましたが(P = 0.002)、心臓アミロイドーシス群では大動脈弁狭窄症群よりもさらに上昇していました(P < 0.001)。CT-ECVは心臓アミロイドーシスの高い診断精度を持っており、感度は92.8%(95% CI: 86.7%-96.2%)、特異度は84.8%(95% CI: 68.6%-93.4%)、要約受信者操作特性曲線下の面積は0.94(95% CI: 0.88-1.00)でした。
図1 コントロール群、大動脈弁狭窄症、心臓アミロイドーシスのCT-ECVの比較
今後の展開
日本はOECD加盟国の中でもCTスキャナーの保有台数が特に多いため、心臓アミロイドーシスの診断にCT-ECVの活用が有効なアプローチであると考えられます。さらに、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植え込み術(transcatheter aortic valve implantation: TAVI)の術前CTにおいて、ECV評価を行うことで心臓アミロイドーシスの合併の評価が可能になります。これはCT-ECVが最も有効に活用される状況の一例です。また、今後は心臓アミロイドーシスの薬剤治療の効果を判定する際にも、CT-ECVの有用性についてのさらなる検証が期待されています。
論文情報
タイトル: Clinical Utility of Computed Tomography–Derived Myocardial Extracellular Volume Fraction: A Systematic Review and Meta-Analysis
著者: Shingo Kato, Yuka Misumi, Nobuyuki Horita, Kouji Yamamoto, Daisuke Utsunomiya
掲載雑誌: JACC:Cardiovascular Imaging
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jcmg.2023.10.008
用語説明
*1 コンピュータ断層撮影(CT):体の周囲からのX線照射により断面画像を再構成して、体内の立体的構造を可視化し、様々な疾患を診断する画像検査法。
*2メタ解析:複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法で、より高い見地から分析すること。
*3 95% CI(信頼区間):真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。
本研究成果は、米国心臓病学会の学会誌「JACC:Cardiovascular Imaging」に掲載されました。(2023年11月22日)
研究成果のポイント
・CTによる心筋細胞外液分画(CT-ECV)は、非侵襲的に心筋の線維化の程度を評価する新しい画像
診断技術であることを明らかにした。
・心疾患別にECV値の明らかな差異があり、特に心臓アミロイドーシスの患者では、ECV値が顕著に
高く、高い診断能を示した。
・CT-ECVが広く用いられることにより、心臓アミロイドーシスの診断と治療計画に大きな進歩を
もたらす可能性がある。
研究背景
心臓アミロイドーシスは、異常なタンパク質(アミロイド)が心筋組織に蓄積し、心臓の正常な機能を妨げる病気です。この病態は徐々に進行し、心臓の収縮能力の低下や不整脈などの症状を引き起こします。現在、治療薬は保険適用されていますが、進行した症例では効果が限定的であり、早期発見と治療が重要とされています。コンピュータ断層撮影(CT)による細胞外液分画(ECV)の技術は、心筋の異常を画像で評価することを可能にしました。この技術は近年、世界的に注目されており、その有用性を示すデータが多数報告されています。これらのデータをメタ解析により統合し、画像所見の全体像を明らかにしました。
研究内容
本研究では、42の論文から2545名の心疾患(うち心臓アミロイドーシスは161名)と554名のコントロール群のCT-ECVのデータを抽出し、メタ解析を行いました。大動脈弁狭窄症と心臓アミロイドーシスが合併することが知られており、これら二つの疾患を区別することが非常に重要です。そのため、心臓アミロイドーシスと大動脈弁狭窄症を鑑別する能力に焦点を当てて解析を行いました。結果、CT-ECV値は、コントロール群で28.5%(95% CI *3 : 27.3%-29.7%)、大動脈弁狭窄症群で31.9%(95% CI: 30.2%-33.8%)、心臓アミロイドーシス群で48.9%(95% CI: 44.5%-53.3%)でした(図1)。CT-ECVは大動脈弁狭窄症群ではコントロール群と比較して有意に上昇していましたが(P = 0.002)、心臓アミロイドーシス群では大動脈弁狭窄症群よりもさらに上昇していました(P < 0.001)。CT-ECVは心臓アミロイドーシスの高い診断精度を持っており、感度は92.8%(95% CI: 86.7%-96.2%)、特異度は84.8%(95% CI: 68.6%-93.4%)、要約受信者操作特性曲線下の面積は0.94(95% CI: 0.88-1.00)でした。
図1 コントロール群、大動脈弁狭窄症、心臓アミロイドーシスのCT-ECVの比較
大動脈弁狭窄症のCT-ECVはコントロール群に比べて有意に高かった。また、心臓アミロイドーシスのCT-ECVは大動脈弁狭窄症よりも著しく高かった。これは大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)の術前CTにおけるECV評価の有用性を示唆している。
今後の展開
日本はOECD加盟国の中でもCTスキャナーの保有台数が特に多いため、心臓アミロイドーシスの診断にCT-ECVの活用が有効なアプローチであると考えられます。さらに、大動脈弁狭窄症に対する経カテーテル大動脈弁植え込み術(transcatheter aortic valve implantation: TAVI)の術前CTにおいて、ECV評価を行うことで心臓アミロイドーシスの合併の評価が可能になります。これはCT-ECVが最も有効に活用される状況の一例です。また、今後は心臓アミロイドーシスの薬剤治療の効果を判定する際にも、CT-ECVの有用性についてのさらなる検証が期待されています。
論文情報
タイトル: Clinical Utility of Computed Tomography–Derived Myocardial Extracellular Volume Fraction: A Systematic Review and Meta-Analysis
著者: Shingo Kato, Yuka Misumi, Nobuyuki Horita, Kouji Yamamoto, Daisuke Utsunomiya
掲載雑誌: JACC:Cardiovascular Imaging
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jcmg.2023.10.008
用語説明
*1 コンピュータ断層撮影(CT):体の周囲からのX線照射により断面画像を再構成して、体内の立体的構造を可視化し、様々な疾患を診断する画像検査法。
*2メタ解析:複数の臨床研究の結果を統計学的に統合する解析方法で、より高い見地から分析すること。
*3 95% CI(信頼区間):真値(知りたい値)を推定するにあたり、95%の確率で真値を捉えると考えられる区間のこと。