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再生可能エネルギー(再エネ)*2 の大量導入や電力化率*3 の向上によりカーボンニュートラルを実現するためには、新しい電力システムや電化機器が必要となる(図1)。埼玉大学大学院理工学研究科 稲田優貴 准教授、名古屋大学大学院工学研究科 兒玉直人助教、東京工業大学工学院 全俊豪 助教(研究当時、現:青山学院大学 理工学部電気電子工学科 准教授)、東京大学大学院工学系研究科 大西亘 准教授、金沢大学理工研究域電子情報通信学系 中野裕介 助教(研究当時、現:准教授)らの研究チームは、これらの実現に直結する全く新しい電力機器「限流*4 遮断器」を開発し、これまで大型の重機器でないと遮断が難しかった直流kV・kAの電力*5 を、コンパクトかつ軽量な機器で高速遮断することに成功した。これはビッグデータや量子コンピュータを内包した大規模データセンターの構築にも資する基盤技術であるため、本成果はカーボンニュートラルだけでなく、IoT、Beyond 5G/6G といった未来社会の実現にも大きく貢献すると考えられる。本成果は2024年6月1日0時に国内論文誌『電気学会論文誌D(産業応用部門誌)』に公開された。
【ポイント】
・ サイズ・重量においてメリットを有する新電力機器「限流遮断器」を開発。
・ この限流遮断器により、直流kV・kA の電力を高速で切る(=遮断する)ことに成功。
・ 本研究により、太陽光や風力を大量導入した新しい電力システムの実現が期待される。
・ 電気を動力源とした電気自動車や電動航空機、電動船舶の普及拡大に大きく貢献する。
・ ビッグデータや量子コンピュータを内包した大規模データセンターの実現に繋がる。
【研究の背景】
パリ協定2016が掲げる「抜本的なCO2削減」を達成するには、①再エネの大量導入と②最終エネルギーの電力化率向上が必須である。これらを実現する電力システムや電化機器の多くは、現在広く実用に供している「交流」ではなく、「直流」で運用されている。ここで、自然災害や経年劣化などにより電力システムや電化機器が異常状態に陥ると、これらの内部には通常運用時の数十倍以上にも達する大電力が発生する。これは、大規模故障や火災の原因となるため、電力を安全に運用するためにはこの異常な大電力を速やかに遮断する必要がある。
このように電力の安全運用には、既に普及している交流だけでなく、これから急激な需要増を迎える直流の電力も遮断できる「汎用的な安全装置(=遮断器)」が必須である。しかし交流に比して直流の遮断は劇的に難しいため、汎用的な遮断器は長年開発できておらず、①②の実現を阻む大きな障害となっている。
【研究内容】
そこで本研究では、ヒューズ・半導体・メカトロニクス制御が協創した全く新しい遮断方式を採用することで、サイズ・重量において高いメリットを有するにも関わらず、直流・交流を問わず、ありとあらゆる電力が毎回確実に高速で遮断できる「限流遮断器」を開発した。この開発の過程において本研究ではまず、ヒューズ・半導体が連携した新遮断方式の基礎原理を初めて実証し(参考文献(1))、次にこれをメカトロニクス制御と組み合わせることで、高速ヒューズ転換による再閉路*6を実現してきた(参考文献(2))。これらの基礎技術は既に国際特許化されている(参考文献(3))。
しかしこれまでの開発成果は、数100V・数100A の小電力に限定されていた。そこで本研究ではこれまでの研究成果(参考文献(1-3))を発展させ、このたびヒューズ・半導体・メカトロニクス制御の協調動作を強化した。これにより、適用可能な電力量を更新し、次世代の電力システムや電化機器に適用される直流kV・kA の電力を約10msで高速遮断することに成功した(図2)。さらに本限流遮断器のサイズと重量は、現行機器に比して最大1桁の優位性がある(図3)。
【今後の展開】
この遮断器では、ヒューズにより異常な大電力を迅速かつ自動で検知し抑制(=限流)することで、通常運用時の数十倍以上にも達する大電力の発生を、未然に防ぐことが可能である。これにより、異常な大電力通電に耐えるための余剰設計を緩和することができるため、電力システムや電化機器の全体サイズ・重量を大幅に削減しつつ、電力システムや電化機器の安全性と堅牢性を著しく改善することが可能になる。そのため本研究は、太陽光や風力といった再生可能エネルギーが大量導入された新しい電力システムや、電気を動力源とする電動航空機や電動船舶、さらにはビッグデータや量子コンピュータを内包した大規模データセンターの実現を加速させ、カーボンニュートラルやIoT、Beyond 5G/6G といった未来社会の実現に大きく貢献できると考えられる。
【論文情報】
掲載誌:電気学会論文誌D(産業応用部門誌)
論文名:ヒューズと半導体を併用した限流遮断器による低電圧システムの事故・負荷電流遮断
著者名:稲田 優貴、全 俊豪、大西 亘、兒玉 直人、中野 裕介、高田 康宏、佐々木 怜音、宮岡 優太、塚本 幸佑、山田 圭矢、山納 康
DOI:
https://doi.org/10.1541/ieejias.144.502
【参考文献】
(1) S. Zen, Y. Inada, W. Ohnishi, Y. Fukai, N. Takayasu, M. Maeyama, and Y. Yamano: "Prototype Current-Limiting Hybrid DC Circuit Breaker Incorporating a Fuse and a Semiconductor Device," IEEE Trans. Power Del., Vol. 36 pp. 2231-2233 (2021)
(2) W. Ohnishi, Y. Inada, S. Zen, R. Sasaki, Y. Takada, Y. Miyaoka, K. Tsukamoto, and Y. Yamano: "Proofof-Concept of a Fuse-Semiconductor Hybrid Circuit Breaker with a Fast Fuse Exchanger," IEEE Trans. Power Del., Vol. 38 pp. 937-946 (2023)
(3) Y. Inada, Y. Yamano, M. Maeyama, S. Zen, and W. Ohnishi, "Current interruption device and current interruption method," 2020/09/15. PCT/JP2020/034978. 2021/03/25. WO 2021/054338 (2021)
本研究の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)未踏チャレンジ2050(事業番号21501372-0、21501373-0、コンパクトで安価かつ汎用的な限流遮断器の開発)の支援を受けて実施した。
【用語解説】
*1 遮断:電力(電流)を切ること。
*2 再生可能エネルギー:太陽光や風力、水力、地熱といった自然界に常に存在するエネルギーのこと。石炭や石油、天然ガスなどは特定の場所にしか存在しない限りあるエネルギーでCO2 を排出する一方、再生可能エネルギーは、「どこにでも存在する」「枯渇しない」「CO2を排出しない(増加させない)」といった特徴がある。
*3 電力化率:石炭・石油・天然ガス・水力・原子力などの1次エネルギー総供給量のうち発電に用いられるエネルギーの比率。
*4 限流:通常運用時の数十倍以上にも達する大電力(大電流)を抑制すること。
*5 直流・交流の電力:直流の電力は、流れる向きと大きさが変化しない一方、交流の電力は流れる向きと大きさが周期的に変化する(東日本では1秒間に50回、西日本では1秒間に60回)。よって、交流には電力が0となる時刻が存在するため、電力はその時刻で遮断される。他方、直流には電力が0となる時刻が存在しないため、遮断は困難となる。
*6 再閉路:電力(電流)の遮断後、電力の供給を再開すること。
【問い合わせ先】
<研究に関して>
埼玉大学大学院理工学研究科
稲田 優貴(イナダ ユウキ)
TEL:048-858-3478
e-mail:inada@mail.saitama-u.ac.jp
名古屋大学大学院工学研究科
兒玉 直人(コダマ ナオト)
TEL:052-789-3635
e-mail:kodama@nuee.nagoya-u.ac.jp
青山学院大学理工学部電気電子工学科
全 俊豪(ゼン シュンゴウ)
TEL:042-759-6253
e-mail:zen@ee.aoyama.ac.jp
東京大学大学院工学系研究科
大西 亘(オオニシ ワタル)
TEL:03-5841-6791
e-mail:ohnishi@ctl.t.u-tokyo.ac.jp
金沢大学理工研究域電子情報通信学系
中野 裕介(ナカノ ユウスケ)
TEL:076-264-6318
e-mail:nakano@se.kanazawa-u.ac.jp
<報道対応に関して>
埼玉大学 総務部 広報渉外課
TEL:048-858-3932
e-mail:koho@gr.saitama-u.ac.jp
名古屋大学 総務部 広報課
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金沢大学 理工系事務部総務課総務係 広報担当
TEL:076-234-6821
e-mail:s-somu@adm.kanazawa-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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