日本製鉄株式会社(以下、日本製鉄)は、「鉄鋼スラグによる多様な生態系を支える海の森創生技術の開発の開発」で、科学技術に関する開発、理解増進等において顕著な成果を収めた者に対してその功績を讃える「令和7年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)」を受賞しました。
<受賞内容>
(1) 受賞名 : 令和7 年度 文部科学大臣表彰 科学技術賞(開発部門)
(2) 受賞件名 : 鉄鋼スラグによる多様な生態系を支える海の森創生技術の開発
(3) 受賞者
小杉 知佳 日本製鉄株式会社 技術開発本部鉄鋼研究所材料信頼性研究部 課長
赤司 有三 日本製鉄株式会社 スラグ事業・資源化推進部 部長代理
田﨑 智晶 日本製鉄株式会社 名古屋製鉄所資源化推進部 上席主幹
篠崎 晴彦 日本製鉄株式会社 設備・保全技術センター土木建築技術部 主幹
(4) 概要
① 開発の背景
海藻藻場は多様な生態系を支える重要な場ですが、明治時代より海藻藻場は減少(磯焼け)し始め、現在も全国で進行しています。なお、磯焼けの原因として、海藻の捕食動物の増加、栄養塩の減少、鉄不足等が推定されています。
② 従来技術の課題
鉄は土壌中の鉄と腐植酸などが結合し、河川を通じて沿岸域へ供給されると考えられており、コンブ類のライフサイクルで、鉄が成長と成熟に必須であることが実験的に示されています(図1)。従来の磯焼け対策は、魚類などの捕食動物の駆除、海藻の移植、また森・川・海の連関に着目したものですが、いずれも経験値に基づいた対策が多く、広大な沿岸環境に対する効果は限定的でした。
③ 開発内容
今般、日本製鉄は、海中で直ちに酸化される鉄を、海藻が摂取可能な状態で供給する鉄系施肥材(図2)を開発し、鉄供給源からの鉄の酸化を抑制するため、施肥材内部を低い酸素濃度に維持し、かつ腐植物質を近接配置することにより、安定的な鉄の供給を実現しました。また、鉄系施肥材による海藻藻場の創出技術の効果検証として、沿岸域で困難な水質の連続データを取得できる、大型水槽システムを開発し、確度の高い海藻藻場の造成、及び幅広いエリアでの創出を実現しました。
④ 開発成果
2004 年から北海道増毛町で鉄系施肥材による海藻藻場の造成を開始し、2014 年には同町別苅で45tを施工し、2022 年までに3.6ha の再生と1.8 倍のウニ漁獲高の向上を実証(図3)しました。また、当該取り組み事例を参考に、2023 年時点で全国56 箇所に展開しており、造成した海藻藻場では、海藻などにより貯留されるCO2 量、ブルーカーボン量を評価し、2022、2023 年度に計82.8t-CO2 のジャパンブルーエコノミー技術研究組合認証のJ ブルークレジットを取得しています。
【図1 陸からの鉄を含む栄養素の供給(過去)とその現象による磯焼け(現在)】
【図2 鉄系施肥材】
【図3 施工前の磯焼け状態(左、海中)、施工後の海藻も場の様子(右)】
以 上
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