北海道和種馬の種の保存に向けた画期的な成果
30年間保存した凍結受精卵から子馬が誕生
北海道の在来馬である「北海道和種馬(ドサンコ)」は、その頭数が減少傾向にあり、貴重な遺伝資源としての保存が求められています。これに対して、北海道立総合研究機構 畜産試験場では、受精卵の凍結保存技術を活用した種の保存を行っています。
一般的に、牛や豚といった主要家畜と比べ、馬の人工繁殖技術の研究は遅れており、特にサラブレットにおいては自然交配が繁殖の原則とされています。しかし、馬の受精卵凍結技術の先駆者である元畜産試験場場長の山本 裕介 博士は、北海道大学の大学院生時代に世界で初めて凍結受精卵からの馬の生産に成功した実績があります。
このたび、東京農業大学 北海道オホーツクキャンパスの平山 博樹 教授(かつて山本 博士の部下として受精卵移植技術の研究に従事)と学生のグループは、卒業論文研究の一環として凍結受精卵からの北海道和種馬生産に挑戦し、貴重な成果を上げました。
昨年6 月、畜産試験場から分与された凍結受精卵9個のうち、30年間液体窒素中で保存された受精卵1個を4 歳の北海道和種馬「レラ」(アイヌ語で「風」)の子 宮内に移植しました。受精卵移植は山本博士の指導の下で学生たちと一緒に実施し、見事に一度で受胎に成功しました。その後、本年5月15日20時30分に雄の子馬「エム」(アイヌ語で「太刀」)が無事に誕生しました。
放牧地で母馬のレラからミルクをもらう子馬のエム
出産直後は母馬レラがエムへの授乳を拒む場面もありましたが、学生たちが中心となって2日間にわたる夜通しの授乳訓練の結果、現在は親子仲良く放牧地で元気に過ごしています。
山本博士は、「30年も液体窒素中で保存された受精卵から子馬が誕生した例は世界的にも極めて稀であり、貴重な在来種である北海道和種馬の保存に向けた重要な成果である」と評価しています。本成果は、今夏に開催される受精卵移植技術の研究発表会で発表される予定です。
本取り組みは、北海道オホーツクキャンパスと北海道立総合研究機構の包括連携協定の一環として実施され、今後も馬の種の保存技術の確立に向けてさらなる研究が期待されます。
分娩前後の管理を担当してくれた学生たちと平山教授