膀胱がんの浸潤境界部でがんの進行と予後に関連する遺伝子群を発見

〜塊のまま切除した検体からがんの進行を空間的に解析〜

東京慈恵会医科大学泌尿器科学講座の吉原健太郎 (博士課程3年)、占部文彦助教、木村高弘教授、国立がん研究センター研究所病態情報学ユニットの山本雄介ユニット長らの研究グループは、膀胱がんを塊のまま切除する膀胱腫瘍En bloc切除術(ERBT) ※1による検体にて空間トランスクリプトーム解析※2を実施し、がんが周囲に広がる浸潤境界部における詳細な遺伝子活動を明らかにしました。また、悪性度が高いがんの予後不良にも関連する15の遺伝子群を同定しました。
今回の成果は再発や進行のリスクが高い患者さんの早期の見極めや、最適な治療方針決定の実現に貢献することが期待されます。
本研究成果は、2026年4月14日付で、英科学誌『npj Precision Oncology』に掲載されました。
【ポイント】
 空間トランスクリプトーム解析により、膀胱がんの浸潤境界部に特徴的な遺伝子発現を同定しました
 ERBT検体を用いることで、従来の検体では評価が困難だったがんの浸潤境界部の空間構造を保持したまま分子レベルでの解析を行いました
 がんの悪性度が高い進行度のpT1b※3症例に特徴的な15遺伝子群を同定しました
 この遺伝子群の発現と生存期間が関連する可能性が示されたことから、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)のリスク層別化や治療方針決定への臨床応用が期待されます

研究の背景
膀胱がんは筋層まで及んだ筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)とがんが筋層に達していない筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)に分類され、新規診断症例の多くはNMIBCとなっています。また、NMIBCは再発率が高く、MIBCへの進行も認められますが、その要因は分かっておらず、NMIBC段階における浸潤メカニズムの解明は重要な臨床的課題となっています。NMIBCの治療として行われる従来の経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)では、標本の断片化や熱変性により、腫瘍の空間的方向性が損なわれるため、浸潤境界の評価や病理学的判定の正確な評価が困難となることがありました。近年、腫瘍を排尿筋とともに一塊に切除することができるERBTが注目されています。この技術により、ERBT標本は腫瘍の3次元構造を保持でき、正確に病理学分類を評価することができます。空間トランスクリプトーム解析は組織構造を保持したまま遺伝子発現を可視化できる技術であり、腫瘍微小環境や浸潤経路の解明に役立つ新たな研究技術として注目されています。本研究では、ERBT標本を用いて、空間トランスクリプトーム解析を行うことで、膀胱がんの浸潤に寄与するメカニズムの解明を試みました。

研究の内容・成果
研究グループは、7例のpT1膀胱がんERBT検体に対して、Visium CytAssist(10x Genomics)を用いた空間トランスクリプトーム解析を実施しました。ERBT検体は腫瘍を一塊のまま切除できるため、腫瘍構造や浸潤境界を保持したまま解析を行うことができます(図1)。


図1 ERBT手順の概略図および空間トランスクリプトームデータ解析ワークフロー







取得したデータをもとに細胞型のアノテーションを行い、膀胱がんスポットを抽出した上で、組織画像と遺伝子発現情報から腫瘍領域を腫瘍上部と腫瘍境界部に分類しました(図2)。


図2 膀胱がんスポットの空間配置と腫瘍領域の分類



さらに、症例をpT1aとpT1bの病理学的サブグループに分類し、腫瘍境界領域を比較したところ、悪性度の高いpT1b病変の浸潤境界部で高発現する15遺伝子を同定しました(図3)。これらの遺伝子には上皮間葉転換(EMT) ※4に関連するものが多く含まれており、膀胱がんの浸潤・進展に関連する分子基盤を反映している可能性が示されました。



図3 pT1a・pT1bにおける腫瘍境界領域の比較




さらに公開データベースであるTCGA_BLCAコホートを用いて検証したところ、遺伝子発現値が高い患者群では、全生存期間が短いことが検証されました(図4)。


図4 15遺伝子発現値に基づく予後解析






今後の展開
本研究は、膀胱がんにおける腫瘍境界部の特徴的な遺伝子発現を同定し、進行リスクの層別化や治療方針決定に関与する可能性を示しました。今後は、ERBT検体の蓄積により症例数を拡大するとともに、他コホートでの検証を進めることで、今回同定した遺伝子群の再現性と臨床的有用性を評価していく予定です。また、浸潤境界部で高発現する遺伝子がどのように進展に関与しているのかを明らかにし、新規治療標的の探索につながることが期待されます。


論文情報
 (タイトル)Spatial Transcriptomics of En bloc Transurethral Resection of Bladder Tumor Specimens Defines an Invasive-Front Gene Expression Signature
 (著者名)Kentaro Yoshihara, Fumihiko Urabe*, Miyaka Umemori, Hironori Suzuki, Kagenori Ito, Takafumi Yanagisawa, Shun Sato, Keisuke Sekine, Takahiro Kimura, Yusuke Yamamoto*(*責任著者)
 (雑誌)npj Precision Oncology
(DOI)https://doi.org/10.1038/s41698-026-01417-x


<用語説明>
※1 膀胱腫瘍En bloc切除術(ERBT):膀胱腫瘍を周囲組織ごと一塊に切除する手術法、腫瘍の構造を保ったまま検体を採取することができる。
※2 空間トランスクリプトーム解析:遺伝子の発現情報を組織内の位置情報と対応づけて解析する手法。
※3 pT1a/pT1b:膀胱がんが筋層には達していないものの、粘膜下の結合組織まで浸潤した段階をpT1と呼び、pT1a/pT1bは浸潤の深さに応じてさらに細分類した病理学的分類。
※4 EMT:がん細胞が周囲へより移動しやすく浸潤しやすい性質を獲得する変化。

<研究助成>
本研究は、以下の助成により実施されました。
日本学術振興会 科学研究費助成事業:
課題番号(23K17397, 24K12448, 25K02414)
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO, 課題番号23812437):助成事業(JPNP2004)
日本医療研究開発機構(AMED):
事業名:医学系研究支援プログラム 事業課題名:関東三大学医学研究次世代育成プロジェクト(課題番号JP256f0137008)
国立高度専門医療研究センター医療 医療研究連携推進本部基金:課題番号(JHP2023-06)



【お問合せ先】

(本研究に関するお問い合わせ)
東京慈恵会医科大学 泌尿器科学講座 助教 占部 文彦(うらべ ふみひこ)
電話03-3433-1111(3561) FAX03-3437-2389 メールfurabe0809@gmail.com

(取材・報道に関するお問い合わせ)
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課 
電話 03-5400-1280 メール koho@jikei.ac.jp

国立研究開発法人国立がん研究センター 企画戦略局 広報企画室
電話 03-3542-2511(代表) メール ncc-admin@ncc.go.jp
本件に関するお問合わせ先
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課 
電話 03-5400-1280 メール koho@jikei.ac.jp

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組織名
学校法人慈恵大学
ホームページ
https://www.jikei.ac.jp/
代表者
栗原 敏
資本金
0 万円
上場
非上場
所在地
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
連絡先
03-3433-1111

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