大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻ケミカルバイオロジー領域 菊地和也教授らによる生命科学・医学系分野の2型糖尿病、グルコース輸送体、糖鎖、タンパク質ラベル化、蛍光プローブに関する研究成果。(大阪大学の最新研究情報はこちら:
http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/top )
【研究成果のポイント】
◆2型糖尿病発病の一因である、糖タンパク質GLUT4の細胞内動態を可視化する新技術を開発し、結合している糖鎖(※1)の役割を解明
◆GLUT4に結合している糖鎖がGLUT4を細胞膜に引き留める役割を持つことを発見
◆糖鎖が機能しないGLUT4も細胞膜上に一時局在するが、すぐに細胞内に戻される様子を画像化
◆血中グルコースを細胞内に取り込み、血糖値を下げる役割を担うGLUT4の一連の挙動を画像で記録
◆2型糖尿病の発症メカニズム解明や新しいタイプの治療薬開発に繋がると期待
【概 要】
大阪大学大学院工学研究科の菊地和也教授らの研究グループは、タンパク質の細胞内動態を可視化する新手法を開発することで、グルコース輸送を担う糖タンパク質GLUT4に結合している糖鎖の役割を明らかにした。
GLUT4はその機能を阻害すると2型糖尿病発症の一因となることが知られている。GLUT4は、インスリン刺激時に細胞膜に移行し血中のグルコースを細胞内に取り込むことで、血糖値を低下させる役割を担っている。近年、GLUT4に結合している糖鎖がGLUT4の細胞内動態において、どのような役割を果たしているかが注目されていた。
同グループは、GLUT4が細胞膜に移行したとき蛍光プローブ(※2)によりGLUT4を光らせる新しい技術を開発しており、この技術を用いることで、謎とされていたGLUT4に結合する糖鎖の役割を世界で初めて解明した。
今後、GLUT4の膜局在化機構の解明に加え、糖尿病の発症機構の解明と新しいタイプの治療薬の開発に繋がるものと期待される。
本研究成果は、『Nature Chemical Biology』(8月23日(火) 午前0時(日本時間))にオンライン掲載された。
【本研究成果の内容】
本研究で開発した蛍光プローブは、タンパク質と結合することで初めて蛍光強度を上昇させる機能を持っている。また、蛍光プローブが細胞膜非透過性であるために、細胞膜に出てきたタンパク質のみを標識することができる。これらの機能のおかげで、細胞膜に移行したGLUT4のみを蛍光プローブにより迅速に蛍光標識し、明瞭にGLUT4の細胞膜移行痕跡を蛍光検出することができる。これまでは、蛍光タンパク質や免疫染色などの手法を用いてGLUT4の動態解析が行われてきたが、細胞の中に存在するGLUT4が細胞膜へ一旦移行したことがあるかどうかの痕跡を厳密に調べることができなかった。本研究で開発した技術を用いることで、GLUT4の細胞膜移行の痕跡を正確に判別できるようになった。言い換えると、細胞膜に短時間局在した証拠を記録することを可能とした。本研究では、この新しいイメージング技術を用いて、GLUT4の糖鎖形成を阻害したときと糖鎖が欠失したときのGLUT4の細胞内動態に与える影響を調べた。その結果、糖鎖に異常のあるGLUT4は細胞膜へ移行するものの細胞膜へ留まることなく細胞の中に戻っていくことが分かった。以上より、糖鎖がGLUT4を細胞膜へ引き留める役割を果たしていることが分かった。この結果は、細胞内での局在とその機能の痕跡を示す上記技術の開発・応用によって初めて証拠を示すことが可能となった。
【社会に与える影響】
GLUT4は、インスリン刺激により細胞膜へ移行しその局在を維持させ、血中のグルコースを取り込み血糖値を低下させる役割を担っている。GLUT4の膜局在の維持に関わる仕組みの破綻は、血糖値を低下させる仕組みが働かなくなるため、2型糖尿病の発症の原因となる可能性が指摘されている。このため、本研究成果は、GLUT4の膜局在化機構の解明に加え、糖尿病の発症機構の解明と新しいタイプの治療薬の開発に繋がることが期待される。
【掲載論文・雑誌】
本研究成果は、『Nature Chemical Biology』8月23日(火)午前0時(日本時間)にオンライン掲載された。
【論文タイトル】
“Fluorogenic Probes Reveal a Role of GLUT4 N-Glycosylation in Intracellular Trafficking”
【著 者】
Shinya Hirayama, Yuichiro Hori, Zsolt Benedek, Tadashi Suzuki, and Kazuya Kikuchi
【用語解説】
(※1) 糖鎖
複数種の糖がつながった生体高分子。タンパク質や脂質などの生体分子と結合する。
(※2) 蛍光プローブ
プローブは元々探針という意味だが、転じて蛍光プローブは、特定の分子と反応することで強い蛍光を発したり蛍光色を変えたりする機能性分子を指す。
▼研究に関する問い合わせ先
大阪大学 大学院工学研究科生命先端工学専攻
ケミカルバイオロジー領域
教授 菊地 和也 (キクチ カズヤ)
TEL: 06-6879-7924
FAX: 06-6879-7875
E-mail: kkikuchi@mls.eng.osaka-u.ac.jp
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