白金使用量を約80%削減した燃料電池の電極を開発 -- 次世代発電システムの普及促進に繋がる成果 -- 大阪大学

大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの神谷和秀助教、中西周次教授らによる、工学系分野の、 機能物性化学、エネルギー関連化学、電気化学、金属錯体化学、触媒に関する研究成果(大阪大学の最新の研究成果はこちらから: http://resou.osaka-u.ac.jp/ja


【研究成果のポイント】
■架橋高分子(※1)材料上に単原子状に分散担持した白金が、高効率な水素酸化触媒として機能することを発見し、白金触媒量が極限まで低減された固体高分子型燃料電池(※2)の燃料極の開発に成功
■固体高分子型燃料電池は、家庭用定置型や自動車などへの実用的利用が進んでいるが、触媒材料は白金に限られており、使用量低減は喫緊の課題だった
■環境調和性の高いクリーンな発電システムである固体高分子型燃料電池などの次世代発電システムへの普及促進が期待される

【概 要】
 大阪大学太陽エネルギー化学研究センターの神谷和秀助教・中西周次教授らは、東京大学、国立研究開発法人物質・材料研究機構、パナソニック株式会社と共同で、白金が単原子状態で分散担持された共有結合性トリアジン構造体(Pt-CTF)(※3)が優れた水素酸化触媒として機能することを見出し、これを元に、固体高分子型燃料電池の燃料極を開発した(図1左)。
 固体高分子型燃料電池は、家庭用定置型や自動車などで実用化が進んでいるが、水素酸化反応を実用的な速度と効率で進行させる触媒材料は、希少で高価な白金に限られており、その使用量の低減は喫緊の課題だった。
 この新規に開発した燃料極においては、白金ナノ粒子触媒が担持された従来の燃料極と比較して、約80%の白金使用量の低減が実現された。
 この成果は、次世代の発電システムとして注目を集めている固体高分子型燃料電池の普及促進へと繋がることが期待される。
 本研究成果は、ドイツ化学会誌「Angewandte Chemie」に、9月16日(金)(ドイツ時間)にオンライン公開された。また、同誌のHot paper(編集委員が特に重要性を認めた論文)にも選出された。

【研究の背景】
 水素酸化反応は、家庭用定置型や自動車などへの実用的利用が進んでいる固体高分子型燃料電池の燃料極での反応として非常に重要である。しかし、水素酸化反応を実用的な速度と効率で進行させる触媒材料は、希少で高価な白金に限られており、その使用量の低減は喫緊の課題である。白金粒子のサイズを小さくすることで有効白金原子数(表面に露出した白金数)を増大させることは、白金使用量を低減する上で有効なアプローチである。白金が単一原子レベルで分散担持された材料は、その究極的なかたちである。しかし、凝集しやすい白金を単原子状態で電極基板上に分散担持することは極めて困難であり、このことが白金使用量の究極的低減を図る上で大きな課題となっていた。
 神谷助教・中西教授らのグループは2014年に多孔質構造を有する架橋性高分子材料である共有結合性トリアジン構造体(Covalent Triazine Framework ; CTF)上に、窒素原子を介して単原子白金を分散担持することで、酸素還元電極触媒として機能させることに成功していた(Pt-CTF;図2)。今回、このPt-CTFを用いて単原子白金での水素酸化反応が進行するかを検証し、さらにこれを用いて白金量を低減した燃料極を開発し、固体高分子型燃料電池の出力特性を評価した。

【研究の手法と成果】
 酸性溶液中での電気化学測定から、このPt-CTFは過電圧(エネルギーロス)を示すことなく、高効率に水素を酸化することが確認された。これは、単原子白金で水素酸化反応が進行することを示した世界で初めての報告である。また、ほぼ同量の白金ナノ粒子を担持した市販の触媒と比較して、Pt-CTFは約5倍の水素酸化電流を示した。これは、白金を単原子化することで有効白金原子数が増加したことを示している。
 続いて、実際にPt-CTFを用いて固体高分子型燃料電池の燃料極を作製し、発電効率を評価した。その結果、新規に開発したPt-CTFからなる燃料極を搭載した固体高分子型燃料電池は、燃料極での使用白金量が約80%低減されたにもかかわらず、白金ナノ粒子が担持された従来の燃料極(白金担持量:0.1 mg・cm-2)を搭載した固体高分子型燃料電池と同等の最高出力を示した(図1右)。

【本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)】
 今後、本研究成果を元に実用化開発を進めることで、クリーンな発電システムである固体高分子型燃料電池の社会への普及促進が期待される。また、白金は燃料電池の電極触媒としてだけでなく、自動車排ガスの清浄化など環境・エネルギーに係る多くの反応に対して唯一無二の実用的触媒材料であることから、本研究で得られた知見がさまざまなデバイス・装置へと水平展開されることが期待される。

【特記事項】
 本研究成果は、9月16日(金)(ドイツ時間)にドイツ化学会誌「Angewandte Chemie」(オンライン)に掲載された。なお、本論文は同誌のHot paperに選出された。
・タイトル:
 Oxygen-tolerant electrodes with Pt-loaded covalent triazine frameworks for the hydrogen oxidation reaction(邦訳:白金担持共有結合性トリアジン構造体から成る酸素存在下での水素選択酸化触媒)
・著者名:
 Ryo Kamai†,1,2,, Kazuhide Kamiya†,3,4, Kazuhito Hashimoto*5 and Shuji Nakanishi*3
 1.東京大学大学院工学系研究科先端学際専攻、2.パナソニック、3.大阪大学太陽エネルギー化学研究センター、4.JSTさきがけ、5.物質・材料研究機構
 *Corresponding author、†Both authors equally contributed to this work.

 なお、本研究は、JST戦略的創造研究推進事業個人型研究(さきがけ)「超空間制御と革新的機能創成」研究領域(黒田一幸研究総括)における研究課題「多孔性共有結合性有機構造体から成る革新的空気酸化触媒の創製」(研究代表者:神谷和秀)の一環として行われた。

【用語説明】
(※1) 架橋高分子
 鎖状の高分子の分子間に、橋渡しの結合をさせることで二次元、もしくは三次元のネットワーク構造をもった重合体。
(※2) 固体高分子型燃料電池(polymer electrolyte fuel cell、固体高分子型燃料電池)
 プロトン伝導性を有する高分子膜を電解質に用い、水素と酸素から水が生成する反応の化学エネルギーを電気に変えるデバイス。自動車搭載型や定置型などがある。
(※3) 共有結合性トリアジン構造体(Covalent Triazine Frameworks ; CTF)
 1,3,5-トリアジン構造を骨格に持つ、多孔性架橋高分子材料の総称。その特徴的な細孔構造や高い耐久性から気体分離や触媒材料への応用が期待されている。

▼本件に関する問い合わせ先
 大阪大学 太陽エネルギー化学研究センター
 教授 中西周次 (なかにししゅうじ)
 TEL: 06-6850-6695
 FAX: 06-6850-6699
 E-mail: nakanishi@chem.es.osaka-u.ac.jp

 大阪大学 太陽エネルギー化学研究センター 
 助教 神谷和秀 (かみやかずひで)
 TEL: 06-6850-6696
 FAX:  06-6850-6699
 E-mail: kamiya@chem.es.osaka-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター http://www.u-presscenter.jp/

この企業の関連リリース

この企業の情報

組織名
大阪大学
ホームページ
https://www.osaka-u.ac.jp/
代表者
西尾 章治郎
上場
非上場
所在地
〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-1

検索

人気の記事

カテゴリ

アクセスランキング

  • 週間
  • 月間
  • 機能と特徴
  • Twitter
  • デジタルPR研究所