さる11月22日(水)、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社は、医療機器の安全対策に関するメディアセミナーを開催しました。単回使用の医療機器の再使用問題が顕在化している中、厚生労働省は今年7月、安全性担保と医療費削減に向け、単回使用の医療機器の再製造に関する制度を新設しました。これは、企業が病院から医療機器を回収し、洗浄や滅菌を行うことで単回使用の医療機器の再利用を認める新しい制度です。 そこで本セミナーでは、泌尿器科領域に焦点をあて、 医療機器の再処理の課題や単回使用の今後の可能性などについて泌尿器科専門医にご講演いただくとともに、ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社の泌尿器科領域における事業戦略、および今年4月に発売した日本初の単回使用の軟性尿管腎盂鏡「LithoVueTM」について、ご紹介しました。
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◆講演1
「医療機器における安全対策 3つの方向性~泌尿器科領域における医療機器の再処理の課題~」
埼玉医科大学病院 泌尿器科 教授 矢内原 仁 先生
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制度化されたが、現実にはハードルが高い「再製造」
現在の医療機器における安全対策は、単回使用製品の再製造、リユース製品の院内再処理、単回使用の3つの方向性になっています(図1)。昨今、単回使用医療機器(SUD)が院内で再処理され使用されていることがニュースでも取り上げられています。今日はリユース製品の院内再処理が実際にどのように行われているかも含めて、泌尿器科領域における医療機器の安全対策の課題について、お話ししたいと思います。
今年7月、厚生労働省は一度の使用で廃棄すべき単回使用医療機器(SUD)の一部について再製造を認める制度を発表しました。再製造とは、使用済SUDを医薬品医療機器等法に基づいて、製造販売業の許可を得た医療機器製造販売業者が、その責任で適切に収集し、分解、洗浄、部品交換、再組立て、滅菌等の処理を行い、再び使用できるようにすることであり、再使用とは異なります(表1)。これにより廃棄物の減少や医療費の低減につながるのではないかということで、厚労省としてはこの制度を進めていきたいと考えているようです。現状では、欧米で再製造の実績があり、医療現場において複数回の使用が可能ではないかと考えられるSUDに限られており、脳神経系に使用された医療機器、植え込み型の医療機器、感染症患者に使用された医療機器等は除外されています。
この制度の背景には、日本でも一部でSUDの再使用の実態があり、社会的注目が集まっていることがあります。これについては、単回使用の徹底に関する通知を厚労省が出しています。海外では、専門業者の洗浄・滅菌による再使用を認めていた国もありますし、再製造の制度化がアメリカ、ドイツ、カナダ、オーストラリア、イスラエルなどで始まっています。日本では、それらの流れを受けて2015年から検討が行われ、2017年7月に制度化されました。
ただし、この新制度は非常に高いハードルが設定されています。再製造SUDを製造販売するためには医薬品医療機器等法に基づく
製造販売業許可を必要とする。再製造SUDは元々のSUD(オリジナル品)とは
別の品目として製造販売承認を必要とする。再製造SUDに係る
医薬品医療機器等法上の責任(安全対策、回収等)は、再製造を行った製造販売業者が担う。再製造SUDの品質、製造管理、トレーサビリティの確保等に関する基準を新設する。これらを厚労省が承認するわけですから、実際にはかなりハードルが高いと思われます。したがって、現状でSUD使用について厳密化をした場合にSUDの再製造が進むかというと、おそらく高い安全性は担保されるが、コストに見合うような製品に限られ、現実には普及は限定されることが予測されます(表2)。
泌尿器内視鏡は非常に細く、無菌環境で使われるため、院内での洗浄・滅菌が難しい
一方、リユース製品の院内再処理に関しては、再処理が十分に行われているのかどうかという問題があります。手引きやガイドライン、指針は多数出されています。一番系統立っているのは、「消化器内視鏡の感染制御に関するマルチソサエティ実践ガイド」だと思いますが、泌尿器科領域でも尿路内視鏡消毒・滅菌に関する指針があります。耳鼻科でも最近、ようやく指針が出されています。
しかし、国内における手引きやガイドラインには問題点が潜んでいます。一番重要なのは、消化器内視鏡領域以外では教育システムがないことです。学生への医療機器の再処理に関する教育は十分ではありません。また、遵守の度合いが検証されているわけではなく、そもそも手引きやガイドライン自体に科学的な検証がなされていません。ガイドラインの手順を完全に守ったとして完ぺきな結果が得られるのかどうかを検証した科学的なデータがないのです。さらに、機器の進歩にガイドラインが対応できていない可能性もあります。残念なことに、遵守したとしても国内の医療保険では正当な評価がなく、逆に遵守しなくても罰則がない、という問題もあります。
アメリカにも一部にガイドラインや認証制度がありますが、やはり消化器内視鏡や膀胱鏡、尿管鏡などによる集団感染の報告がみられるのが現実です。なぜ、このような問題が起きるのでしょうか?再処理自体の問題点と、再処理に関する泌尿器科組織の問題点に切り分けができると思います。前者には消毒方法の選択とその限界、滅菌方法の選択とその限界、後者には消毒・滅菌の使い分けのコンセプトや実臨床での再処理の実際、再処理のルールの策定と教育といった問題点があります(表3)。
泌尿器内視鏡の特徴として、非常に細いことが挙げられます(表4)。胃内視鏡は7~8mmはあると思いますが、膀胱用軟性鏡は径4~5mm、さらに尿管用軟性鏡は外径 2mm前後です。特徴として灌流・操作チャンネルを有しています。耳鼻科軟性鏡は観察にしか使わないことが多いため、チャンネルがある機種は少ないのですが、泌尿器科の内視鏡は中に鉗子などを挿入するチャンネルが必ず存在し、構造としては複雑です。さらに重要なのは、基本的には無菌領域で使用されるということです。また、消化器内視鏡ではあまりないことですが、泌尿器内視鏡はCCDカメラヘッドを分離して使用する構造のものもあります。
このように非常に細い内視鏡のため、用手洗浄が難しいという大きな問題があります。うまくやっていたとしても、本当にすべての事例で質が保証されているのかどうかわかりません。国内には泌尿器内視鏡の用手洗浄の教育制度もありません。消化器内視鏡には自動洗浄機がありますが、軟性尿管鏡では器械洗浄ができないものが多数あります。尿管鏡は細くなり性能は上がりましたが、再処理のことまで考えられていない設計のものが多数あり、それを医療機関の責任において再処理しているのが現状です。
現在、泌尿器内視鏡に使用できる高水準消毒剤はグルタルアルデヒドと過酢酸の2種類がありますが、本当に消毒でいいのかという問題があります。一般的なグルタルアルデヒドで処理できない緑膿菌が存在していることが、すでに報告されています。それなら滅菌すればよいのでしょうか?現在、日本で行われている主な滅菌方法はエチレンオキサイド滅菌と過酸化水素低温プラズマ滅菌の2種類です。エチレンオキサイド滅菌は安価で使用しやすい方法ですが、残留するガスを処理するエアレーションという作業が必要で、1回滅菌に出すと、機器が通常2日間ぐらいは使えません。このため、頻繁に機器を使わなければならない施設では、過酸化水素低温プラズマ滅菌を用いることが多いです。この方法は環境には優しく、1回の滅菌が1時間強で終わりますが、機器への負担が大きく、内視鏡がよく壊れてしまいます。エチレンオキサイド滅菌に比べるとコストがかかります。残念ながら、滅菌していたつもりでも、それは十分ではない可能性があるという実例も報告されています。アメリカでは、用手洗浄、消毒、エチレンオキサイド滅菌を行ったにも関わらず、内視鏡の培養からカルバペネム耐性菌が検出されてしまったという事例、また2ヵ所の施設の内視鏡を調べたところ、軟性尿管鏡のすべてが用手洗浄、過酸化水素低温プラズマ滅菌をしているにも関わらず処理が不完全で、中にタンパクがこびりついていたり、傷ができていたりしたという報告もみられます。リユース製品は劣化が避けられず、劣化すれば消毒や滅菌の質はどんどん下がるという問題もあります。
「再処理」には工場レベルのQuality Assuranceが求められるが、明確なルールや教育制度が存在しない
では、泌尿器科で、どのように泌尿器内視鏡を扱わなければならないのでしょうか? 軟性膀胱鏡は、通常は高水準消毒レベルで管理され、外来で用いられていますが、膀胱は無菌領域です。手術に用いる軟性尿管鏡は、通常は滅菌レベルが要求されるのが正しいと思います。ただし滅菌を行った場合、例えばエチレンオキサイド滅菌をすると内視鏡は2日間使えないので、手術を1日に3つ行うには、単純に考えて9本の内視鏡が必要になってしまいます。このため、結果的に実臨床においては高水準消毒で使われていることがかなり多いのではないかと思います。消毒でいいのか、滅菌がいいのか、この点についてはデータがないのでわかりません。
まとめると、最大の問題は絶対的なルールが策定されていないことです。ルールを策定するためのエビデンスがない。海外においてもデータはありません。また、ある程度のルールはありますが、それを自分たちの都合で理解してしまっている。それは、ルール遵守のインセティブがないからです。ルール自体の重要な部分が欠落している可能性もあります。本当に大きな問題だと思います。
2017年4月、あるアメリカの記事に、内視鏡の再処理において、本来は工業(工場)で用いるレベルのQuality Assuranceが求められる、さらに、それに対して検証・検査が行われる必要があって、各々の施設が明確な洗浄のプログラムを策定する必要がある、との見解が示されていました。これは当然のことですが、きわめて高いハードルです。
人手やコストの問題もあります。消毒レベルでよい消化器内視鏡に比べ、泌尿器内視鏡は人手もコストも要します。高水準消毒レベルとしても、高水準消毒レベルを保ったまま患者さんのところへ移動し使用しなくてはならないので、1人で行うのは無理ですし、コストもかかります。
軟性尿管鏡の再処理に関して、ある程度のルールは存在していますが、実際にはいろいろな問題があります(表5)。現状では国内の泌尿器内視鏡再処理の指針が改定されていません。さらに再処理のための教育制度が構築されていません。再処理コストは保険償還されていません。ルールを策定するためのデータがありません。しかし、求められているのは工業レベルです。そうなると、医師自身が率先して脆弱なルールを破ってしまうこともあることは容易に想像できると思います。
そのほかにも再処理に影響を与えそうなことはいろいろあります。例えば施設の構造設計に関して、消毒をする場所が使用する場所から遠ければ、消毒レベルを維持したまま患者さんのところへ持っていけるのでしょうか。老朽化した施設、清掃関連スタッフの行動、再処理を考慮しない機材の購入、機器の複雑な構造など、さまざまなことを考えなければなりません。機器の管理・故障への対応も大きな問題です。
2012年に日本泌尿器科学会は、これらの問題についてある程度のコンセンサスを発表しています。泌尿器内視鏡の再処理を行う場合に、ある程度以上のレベルを求めようと思うと、コストとのバランスがとれなくなります。そうなると結局は守ってもらえない。どのレベルでどのようにすれば、どれぐらいのコストがかかり、それが医療現場で、ないしは医療を享受される患者さんにとって許容されるレベルなのかどうかを考えてガイドラインや手順を作らなければコンセンサスが得られない、というのが私たちの見解です。
製品の性能向上、安全面、衛生面などの観点から「単回使用」が主流の医療機器も
その中で単回使用製品の話をします。もし使い捨て医療機器が十分に機能的であればどうなるでしょうか?再処理方法の策定や人材の教育、再処理方法のチェック体制などの指針が不十分であると述べてきましたが、考える必要がなくなります。再処理にかかわるコストも機器の修理費用も考えなくていいです。実は内視鏡において、修理は非常に大きな問題です。経験が少ない医療従事者が扱った場合は、非常に頻繁に起こりますが、例えば尿管鏡を壊すと1回80万円ぐらい、時間も2~3週間かかることもあります。再処理方法が破綻していた場合の、処理に関する費用、その中で今回の再製造SUDへの可能性というものも考えることができます。
一昔前は再使用が当然でしたが、現在は技術の進歩、製品の性能向上、安全面、衛生面、経済性の観点などから、単回使用が主流になっている製品もあります。注射針もマスクもそうです。社会の中で単回使用品が受け入れられるかどうか、コスト面も考え、いろいろな使い分けをしながら医療機器が使われていくのではないでしょうか。
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◆講演2
「ボストン・サイエンティフィックの事業紹介」
ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社 代表取締役社長 内木 祐介
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30周年を迎え、「日本 医療 つなぐ」をありたい姿に
ボストン・サイエンティフィックの企業ミッションは、革新的な治療法を提供することで、全世界の患者さん、そのご家族の人生を実り多いものとすることです。誠実さと思いやり、意義のあるイノベーション、高い業績、グローバルな連携、多様性、ウイニングスピリットの6つのコアバリューの下、全世界のメンバーがミッションの達成を目指しています。
私たちの製品は年間2百万人以上の患者さんに使われています。全世界の売上規模はおよそ9千億円で、年間1千億円以上の開発費用を投じています。年間135本の臨床試験を実施しており、日本でも現在、5本の臨床試験が進行中です。来年にはさらに2本のスタディが行われる予定です。日本のメディカルデバイスの企業の中で、臨床試験を5本同時に行っているような企業はほかにないと思っています。対象疾患は、神経系、呼吸器系、消化器系、心血管系、そして今日のテーマである泌尿器系と、ほぼ全身の疾患をカバーしています。代表的な製品は、ステント、ペースメーカー、植え込み型除細動器などで、それらの製品に加えて消化管、呼吸器、泌尿器を対象とした内視鏡用のデバイスも取り扱っています。
事業は100ヵ国以上で展開していますが、全体の売上の約40%はアメリカ以外の国の売上で、日本の売上は全体の約10%を占めています。日本は重要なマーケットであり、中野区に本社、全国主要14都市に営業拠点を設けています。特に先生方の手技トレーニングにも力を入れており、東京と宮崎にドクター向けのトレーニング施設を有しています。特に宮崎の施設は最新設備を有しており、開設して来年で20年になりますが、延べ1万人以上の先生方にご活用いただいています。
弊社は今年、創立30周年を迎えたのを機に「日本 医療 つなぐ」というコンセプトを、ありたい姿として掲げました。「日本と世界」をつなぎ、「患者様と医療従事者の皆様」をつなぎ、「今の医療と未来の医療」をつなぐ活動を全力で行っていきますので、今後ともよろしくお願い申し上げます。
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◆講演3
「泌尿器科領域における事業紹介及び『LithoVueTM』製品紹介」
ボストン・サイエンティフィック ジャパン株式会社
執行役員 ウロロジー&ペルビックヘルス事業部長 諸冨 優子
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日本初の単回使用の軟性尿管鏡で、ストレスフリーな治療環境を
弊社ウロロジー&ペルビックヘルス事業部は、腎臓結石(尿路結石症)、前立腺肥大、女性腹圧性尿失禁、骨盤臓器脱、男性尿失禁の5つの疾患を主にカバーしています。それぞれに治療選択があり、それを支える製品を提供させていただいています。
腎臓結石においては、ガイドワイヤ、バルーン、ステントなど尿管からアプローチする製品を扱っています。本日ご紹介するLithoVueTMは主に腎臓結石の治療に使う軟性尿管腎盂鏡で、日本初の単回使用の軟性尿管鏡です。ワークステーションとカメラ付きの尿管鏡からなり、ワークステーションのモニターで中の様子を見ながら操作するようになっています。
日本尿路結石症学会の2015年の全国疫学調査データによると、腎臓結石の治療は体外から衝撃波を与えて石を砕く手技の数が減り、代わりに尿管から内視鏡でアプローチする破砕術が増えてきています。LithoVueTMは初めての単回使用の軟性尿管鏡ですが、リユースの軟性尿管鏡に関しては、矢内原先生のお話にもありましたように、メンテナンスや劣化などの問題があります。修理の頻度が高くなると、それだけ費用もかかりますし、洗浄や滅菌のプロセスにも費用がかかります。感染にも気をつけながら使わなくてはなりません。
単回使用の軟性尿管鏡は、修理の必要がなく、洗浄・滅菌のプロセスも不要になります。また、通常のリユースの軟性尿管鏡はかなりの重さがあり、手が非常に疲れるという声が先生方からよく聞かれますが、LithoVueTMは非常に軽量であるため、術者の疲労を軽減することも期待できます。修理や煩雑な洗浄・滅菌プロセス、感染への不安から解放され、ストレスフリーな治療環境を提供できるのではないかと考えています。
LithoVueTMは、そのコンセプトやねらいが評価され、2017年度グッドデザイン賞を受賞することができました。もちろん、すべての機器を単回使用にすればいいわけではありません。弊社は必要なところに必要なものを提供していくという姿勢で、今後も患者様、医療従事者の皆様のQOLを向上させるような製品を開発していきたいと考えています。
◆◇尿路結石症の治療◇◆
尿路結石症は尿路に結石ができる病気で、結石のできる位置によって、腎結石、尿管結石などと呼ばれます。なかでも尿管結石は、人生で味わう三大激痛と言われるほどの非常に激しい痛みを伴うことで知られています。
結石の大きさや場所などにより、薬物治療や外科的治療が選択されます。外科的治療として、体外衝撃波結石破砕術(ESWL)、経尿道的結石破砕術(TUL)、経皮的結石破砕術(PNL)などの内視鏡治療が行われますが、近年、軟性尿管鏡の登場などを背景に、TULが増加しています。2015年に行われた全国疫学調査(日本尿路結石症学会)では、侵襲的治療のうちESWLが60%、TULまたはPNLが40%と、ESWLが約9割を占めた1995年の前回調査に比べ、泌尿器内視鏡治療手術の割合が著増していることが示されています。