関西大学と北海道大学が、特定の信号で自発的に「群れ」をつくる分子ロボットの共同開発に成功。



北海道大学大学院理学研究院の角五彰准教授、関西大学化学生命工学部の葛谷明紀准教授らの研究グループは、ロボットに必要な3要素である駆動系(動く)、知能・制御系(考える)、センサー(感じる)を備え、群れのように振る舞う分子ロボットの開発に世界で初めて成功しました。
本研究では、北海道大学が駆動系の設計、分子ロボットの組み立てと集団運動の実演を、関西大学が知能・制御系部分の化学合成とセンサーの組み込みを担当しました。
本研究成果は、英国時間2018年1月31日(水)公開のNature communications誌に掲載される予定です。




【本件のポイント】

・ロボットの3要素である「動く・考える・感じる」のすべてを備えた分子ロボットを開発。
・特定の信号を感知することで、自発的に「群れ」を形成・解消でき、理論演算も実行可能。
・医療現場などで活躍するナノマシンとしての応用展開に期待。



<概要>
 ロボットの一種に、鳥や魚のような群れを再現する「群(ぐん)ロボット(*1)」 があります。群ロボットは、リーダーがいなくても自発的に環境に合わせて群れの形を変えるほか、仕事を効率よく分担したり、不具合を補い合ったりするなど、単体のロボットでは不可能なこともできるのが特徴です。医療や災害の現場での応用が期待されており、世界的にも競争の激しい分野ですが、ミクロサイズのロボットの開発は難しく、これまで成功例はありませんでした。本研究では、機械による従来のロボットではなく、化学的に分子部品を組み立てることで、世界最小の群ロボット(分子ロボット)を作りました。
 今回の分子ロボットは、私たちの細胞内で物質輸送に使われているモータータンパク質(*2)と遺伝情報を記録するDNA(*3)が組み合わされており、ロボットの3要素では前者が駆動系、後者が知能・制御系に相当します。さらにセンサーとして、光を感知する色素(*4)をDNAに人工的に組み込みました。これにより、化学的信号だけでなく光などの物理的信号を感知し、自発的に群れたり別れたりする分子ロボットができました。将来は、体中などで働くナノマシンとしての応用が期待されます。



<背景>
 人工知能(AI)が急速に発展するなか、AIがヒトの知能を超える「技術的特異点(シンギュラリティ)」が話題に上るようになりました。一方、2016年度ノーベル化学賞の受賞テーマになるなど「ナノマシン(分子機械)」も注目を集めており、人知を超えたAIがナノマシンを制御することで、社会に計り知れない変化をもたらすと予測されています。
 AIは情報科学分野の研究対象ですが、ナノマシンは化学や工学などの応用科学分野に属しており、AIによるナノマシン制御のためには、両分野にまたがる新しいアプローチが必要です。このような背景から、従来のロボット工学の手法に倣って、分子サイズの部品から分子ロボットを組み上げる新しい学術分野「分子ロボティクス」が創成されています。本研究グループは、ロボット工学で最も注目される研究対象の一つである「群ロボット」を分子システム(分子ロボット)として開発することに、世界で初めて成功しました。


<研究手法>
 本研究では、情報処理しながら群れを自発的に形成する分子ロボットを、「モータータンパク質」「DNA」「色素」を組み合わせ、工学的な設計手法に基づいて作成しました。
 今回使用したモータータンパク質は、細胞のなかで輸送網として機能する微小管―キネシンの組み合わせで、従来のロボットの駆動系に相当します。微小管―キネシンの組み合わせは化学的なエネルギーを力学的な仕事へと変換するシステムで、優れたエネルギー変換効率を有し、単位重さあたりの出力も一般的な電磁モーターの20倍です。
 DNAは、化学的に合成した一本鎖DNAを使用しました。DNAの分子認識能力を利用することで、デジタルデータを記録したり、DNAコンピューターを構築することができます。このDNAコンピューターが分子ロボットの知能・制御系に相当します。DNAの配列を特別に設計することで、相手を識別しながら群れを作るかどうかを自ら判断することができるようになります。
 さらに、色素には感光性分子(アゾベンゼン)を採用しました。紫外線や可視光に反応して構造が変化する性質を利用し、DNAコンピューター機能のON/OFFを切り替えることができます。つまり、これがセンサーに該当します。
 このようにして合成した人工分子が分子ロボットそのものであり、動物の群れを構成する個々の鳥や魚に相当する基本単位になります。大きさは直径25ナノメートル、全長は5マイクロメートル(髪の毛の20分の1)程度です。

<研究成果>
 まず緑と赤の2種類で色分け(蛍光色素)した分子ロボットを500万体用意しました。これらの分子ロボットをキネシンとともに自由に走らせているところに、集合させる命令を書き込んだDNA鎖を加えると、命令どおりに集まり始め、最終的にはほぼすべての分子ロボットが群れを形成しました(図1)。さらに解散させる命令を書き込んだDNA鎖を加えることで、その群れを完全に解消させることに成功しました。より複雑な命令も可能で、適切なプログラムを与えることにより、これらの分子ロボットに理論的な演算をさせることができました。センサーとして、光を当てると性質が変わるような分子をさらに組み込むことで、これらの命令を光信号で与えることもできました。この場合、可視光(波長 480ナノメートル)の照射で集合し、紫外光(波長365ナノメートル)で群れが解消します(図2)。さらに、微小管の剛性(硬さ)を調節することで、群れの運動を直進や回転など自在に制御することに成功しました(図3)。

<今後への期待>
 5年後には、以下のような応用例が想定されています。
・マイクロサイズの人工筋肉(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト予算により開発研究中)
・画像素子(化学的・物理的な刺激に応じて分子ロボットの群れが変形することで、自在に画像を描き出すシステム)
・遺伝子診断キット(感知した遺伝情報を、分子ロボットが画像を描き出し視覚的に表示するシステム)
・マイクロリアクタ(分子ロボットによるナノ部品の組み上げ工程や化学プラントなどのシステム)
 また、30年後には、医療現場や災害現場で、検査や情報収集に活用されるナノマシンが実現できているかもしれません。

<論文情報>
論文名 DNA-assisted swarm control in a biomolecular motor system
      (DNAによってアシストされるモータータンパク質の集団運動制御)
著者名 Jakia Jannat Keya1,鈴木隆平1,Arif Md. Rashedul Kabir2,井上大介2,浅沼浩之3,佐田和己1,2,
    Henry Hess4,葛谷明紀5,角五 彰1,2,4(1北海道大学大学院総合化学院,2北海道大学大学院理学研究院,
    3名古屋大学大学院工学研究科, 4コロンビア大学生命医工学部,5関西大学化学生命工学部)
雑誌名 Nature Communications
DOI 10.1038/s41467-017-02778-5
公表日 日本時間2018年1月31日(水)午後7時(英国時間2018年1月31日(水)午前10時)(オンライン公開)



<参考図>
本文下の画像をご参照ください。

<お問い合わせ先> 
両教員とも長期海外出張中につきメールにてご連絡ください
・北海道大学大学院理学研究院(兼コロンビア大学生命医工学部)准教授 角五 彰(かくご あきら)
  TEL 011-706-3474
  FAX 011-706-3474
  メール kakugo@sci.hokudai.ac.jp
  URL https://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/~matchemS/
・関西大学化学生命工学部 准教授 葛谷 明紀(くずや あきのり)
  メール kuzuya@kansai-u.ac.jp


<配信元>
北海道大学総務企画部広報課(〒060-0808 札幌市北区北8条西5丁目)
 TEL 011-706-2610   FAX 011-706-2092 メール kouhou@jimu.hokudai.ac.jp
関西大学総合企画室広報課(〒564-8680 大阪府吹田市山手町3-3-35)
 TEL 06-6368-0201   FAX 06-6368-1266 メール kouhou@ml.kandai.jp




【用語解説】
*1 群ロボット ... 多くの単純なロボットから構成されるロボットシステム。ロボット間で相互作用しながら群れとして行動することで、単体のロボットにはできない複雑な仕事を効率よくこなすことができる。鳥や魚、昆虫などの群れが群ロボット開発のヒントになっている。
*2 モータータンパク質 ... アデノシン三リン酸(ATP)の加水分解によって生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質。生物のほとんどすべての細胞に存在しており、物質の輸送や細胞分裂に関わっている。アクチン上を動くミオシン、微小管上を動くキネシンやダイニンが知られている。本研究では微小管とキネシンを使用した。
*3 DNA ... デオキシリボ核酸の略。ATGCの四種の塩基配列情報に基づく高度な分子認識能力をもち、生体内で遺伝子情報の保存と伝達を担っている。近年、DNAの化学合成が容易になってきたことから、この分子認識能力を活用して、複雑なナノ構造体(DNAオリガミ)やデジタルデータの記録のほか、数学的問題を解くことのできるDNAコンピューター(計算機)などへも応用されるようになった。
*4 光を感知する色素(感光性分子)... 光をあてると色や構造が変わり、また別の波長の光をあてることで元の色・構造に戻すことができるような有機材料のこと。本研究では感光性分子として、可視光で平面形態(トランス体)、紫外光で屈曲形態(シス体)となるアゾベンゼンを使用した。

【リリース発信元】 大学プレスセンター http://www.u-presscenter.jp/

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組織名
関西大学
ホームページ
https://www.kansai-u.ac.jp/
代表者
前田 裕
上場
非上場
所在地
〒564-8680 大阪府吹田市山手町3丁目3-35
連絡先
06-6368-1121

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