同志社大学社会学部社会学科の藤本昌代教授は今年度の社会調査実習において、(地独)京都市産業技術研究所(以下、産技研)に協力を得て、明治期の京都舎密局から現代の産技研に至るまで、公設試験場(現在は研究所)が行ってきた中小企業への支援、担ってきた役割について歴史的経緯について調査を行いました。
この調査を行うに至った背景として、伝統の継承と革新を続けてきた京都には、何度となく襲ってきた経済恐慌を乗り越えて創業100年を超える老舗の中にハイテク企業も多く、その背後に公的機関の支援が重要な要素として見逃せないためです。
今年度の調査は、化学史、文化史的に明治から平成まで、特に東京遷都後に需要が激減した京都の伝統産業に公的機関がどのように支援を行い、発展に影響を与えてきたかという点について資料分析を中心に行っています。歴史的経緯の発掘から着手し、当時の研究員が内面化していた役割を読み取るために受講生・院生との調査チームで3,000枚を超える資料の収集・分析を行いました。
今年度の調査結果として以下の8点の結果を得ました。
(1)公的試験機関が社会に求められた背景の解明(中小企業には研究部門、品質管理部を充実できないため、技術相談・技術支援への強い要請)、
(2)品質管理における問題点の試験(同業者間の責任問題の化学的証明、第3者としての立場)、
(3)キャッチアップ時代における先進国の情報収集および伝播、
(4)環境問題などに関わる事業継続の危機を救済するための化学的方法の開発、
(5)独法化前から行われていた企業との柔軟な関係の構築、
(6)中小企業には困難な長期的、高額な課題への取り組み、
(7)伝統産業と特許の矛盾点の解決、
(8)新制度設計における専門的権威としての立場(基準作り、審査)
他にも多くの役割が担われ、長年、変わらず担われているものと変化しているものがあること、そして、それが当該企業の技術的な問題、名誉の問題があり、支援したことが公開できないケースが多いため、果たされた役割の社会的認知度が低い(縁の下の力持ち)ことも明らかになりました。
現在、多くの政府系研究機関、公的研究機関が独立行政法人化し、「公的立場と民間企業のような立場の両立」と「専門性」に対し、多様な役割が求められています。独立行政法人組織は、かつての国立、公立の時代の役割に戻りつつある組織や民間企業と類似した役割に向かう組織もあり、期待された役割、組織を成立させている制度について再考するべき時期にあります。本調査により「公的」機関の存在の重要性を再認識し、どのような役割を彼らに期待すべきなのかということについて組織を取り巻く人々、組織の成員が自ら考えるための材料を整理し、提供するという貢献ができると考えています。
2019年度に産技研にて行われた調査成果報告会は、同所の研究員や事務職から意見が述べられました。本研究は2020年度も引き続き、京都に多数存在する同業者組合の企業に現代の中小企業と公的機関との関わり、今後に期待する役割等について、同所と共同で調査を実施する予定です。
▼本件に関する問い合わせ先
同志社大学
住所:京都市上京区今出川通烏丸東入
TEL:075-251-3120
FAX:075-251-3080
メール:ji-koho@mail.doshisha.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/