横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学谷口英樹特別契約教授(東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター再生医学分野教授)、関根圭輔客員准教授(東京大学医科学研究所附属幹細胞治療研究センター再生医学分野客員研究員、国立がん研究センター独立ユニット長)らの研究グループは、味の素株式会社、東京大学医科学研究所らと共同で、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓*1の製造に必要な3種類の細胞(肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞)をヒトiPS細胞から分化誘導し、ミニ肝臓を培養するための最適な分化誘導法と生物由来原料基準*2に対応した臨床向け分化誘導用サプリメント*3(StemFit® For Differentiation [開発コードAS400])の開発に成功しました(図2参照)。
本研究で得られた成果は、ヒトiPS細胞由来ミニ肝臓の製造における安全性・安定性・機能性の向上に貢献すると期待されます。また、本研究で開発したStemFit® For Differentiationはミニ肝臓以外にもヒトiPS細胞から肝臓細胞等の内胚葉細胞の他、血管、神経等さまざまな細胞の分化誘導にも有効であることを明らかにしました。したがって、これら細胞の製造工程における臨床向け分化誘導用サプリメントとしてさまざまな再生医療の実用化に貢献すると期待されます。
※本研究は、『Scientific Reports』に掲載されました。(英国時間10月21日10時付:日本時間10月21日18時付オンライン)
※本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)「再生医療実現拠点ネットワークプログラム(疾患・組織別実用化研究拠点)」の一環として行われました。
研究成果のポイント
未分化なiPS細胞からミニ肝臓を製造するための臨床用分化誘導法を開発
未分化なiPS細胞からミニ肝臓の作製に必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞を分化誘導、ミニ肝臓を培養するための、動物由来原料を含まず化学的に組成が明らかな(CD-AOF)臨床向け分化誘導用サプリメント(StemFit® For Differentiation [開発コードAS400])を開発
まず、iPS細胞から胚体内胚葉細胞に分化誘導する図1のステップIの培地開発に成功しました。従来の分化誘導法では、ステップIでは血管内皮細胞や間葉系細胞の分化誘導においても同じサプリメントを用いていたことから、今回、肝臓細胞分化用のステップIに対して開発したサプリメントが血管内皮細胞(ステップI V)、間葉系細胞(ステップV)の分化誘導も有効かどうかを検討しました。その結果、これらの細胞の分化誘導にも有効であることが明らかとなりました。さらに、従来法でのサプリメントは神経系細胞の分化誘導にも用いられていたことから、今回開発したサプリメントについて神経系細胞の分化誘導での有効性も確認しました。次のステップI Iでは、これまでに味の素株式会社において別の目的で開発されていた培地StemFit® Basic03が有効であること、さらに大幅な機能の向上に成功しました。ステップI I Iでは、基礎となる培地の検討後、サプリメントの各成分を一つ一つ検討すると、ほとんどのサプリメントを除いても従来培地と同等であることを明らかにしました。ミニ肝臓培養(ステップVI)はステップI I Iの培地と別の市販培地を組み合わせることで、有効な培地となることが分かりました。最終的にこれら全てを組み合わせて製造したミニ肝臓が生体内で肝機能を発揮することが示されました。
これらの結果から、未分化なiPS細胞からミニ肝臓の作製に必要な肝臓細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞の分化誘導、ミニ肝臓を培養するための分化誘導法の開発、さらに分化誘導用サプリメントの開発に成功しました。本サプリメントは肝臓細胞等の内胚葉細胞の他、血管、神経等、さまざまな細胞の分化誘導にも有効な生原基対応分化誘導用サプリメントとして、ヒトiPS細胞由来のさまざまな再生医療用細胞の製造における品質・有効性及び安全性向上に貢献が期待されます。
図2 開発した臨床向け分化誘導用分化サプリメントのStemFit® For Differentiation
今後の展開
本研究グループでは、現在AMED「再生医療実現拠点ネットワークプログラム」において、国立成育医療研究センターとともにヒトiPS細胞由来ミニ肝臓を用いた再生医療の実現へ向け、研究開発を進めています。本研究で開発した分化誘導法および分化培地を用いることにより、品質・有効性およびおよび安全性を確保された、治験*4にも対応可能な臨床用ミニ肝臓の製造が可能となります。また、本研究を通して開発された臨床向け分化誘導用サプリメントはStemFit® For Differentiation [開発コードAS400]として味の素株式会社から販売され、ミニ肝臓だけでなく、ヒトiPS細胞を用いた他の細胞・組織・臓器の製造工程における有用性が見込まれることから、ヒトiPS細胞を用いた再生医療応用の加速への貢献が期待されます。