実践女子大学(東京都日野市)の作田由衣子准教授は、年齢や種類に応じて変化する第一印象の日米間文化差の一端を明らかにしました。米国人と日本人の間で有能さについての第一印象にはギャップがあり、米国人が第一印象で「能力が高そう」と思った顔立ちであっても、日本人は逆に有能でないと判断するケースが見られました。また、相手を「信頼できそう」と思う第一印象については、日本人は大人になると、むしろ幼児よりも米国人との印象判断と一致しなくなってしまうことを解明。日本人の幼児と大人では、第一印象で「信頼できる」と思う顔立ちが違う可能性があることも分かりました。
研究成果は、第一印象の形成には人種や文化の違いが影響を及ぼす可能性のほか、第一印象の種類によっては大人になる過程で印象判断が変化するものとそうでないものがある可能性を示唆しています。
本研究成果は、学術雑誌「Frontiers in Psychology」(2022年12月7日)に掲載されました。
【本研究のポイント】
本研究は、第一印象の種類として信頼感(いい人そう)と支配性(強そう)、有能さ(能力が高そう)の3つを取り上げ、日本人の成人と米国人の成人の違い、日本人の幼児と成人の違いなどを調べました。
それによると、
●同じ大人でも、日本人と米国人とで、印象の種類によっては、同じ顔を見ても似たような第一印象を受けるもの(支配性)と、違う印象を受けるもの(信頼感と有能さ)がある。
●顔の第一印象は、印象の種類により、年齢を重ねて判断基準が変化するもの(信頼感と支配性)と、成人してもさほど変わらないもの(有能さ)がある。
●大人になる過程で文化などの影響を受け印象判断の基準が変化する可能性や、そもそも日本と米国で言葉の捉え方が違う可能性があることを示唆。
【研究の概要】
人は相手の顔を見て「いい人そう」(信頼感)、「強そう」(支配性)、「能力が高そう」(有能さ)など、自動的に様々な第一印象を知覚します。顔からの印象判断についての研究は現在、非常に注目を集めていますが、幼い子どもがどのように第一印象を知覚しているか、年齢を重ねて成人になるまで、その判断がどのように発達していくかは、そのプロセスがまだよく解明されていません。
今回の実験には、日本の幼児88人(年齢3~6歳)と成人45人(同18~23歳)が参加しました。実験で使用した画像はAlexander Todorov教授らの研究で作成された、米国人の成人についてのCG顔画像です。社会的認知の主要な印象である信頼感(その人を信頼できるかと思うか)、支配性(その人が支配的と思うか)、有能さ(その人を有能だと思うか)を基準に顔画像を選び、それぞれ(1)信頼感の高い顔と低い顔、(2)支配的に見える顔とそうではない顔、(3)より有能にみえる顔とそうは見えない顔という3種類のペアを作りました【注1】。
この3種類のペアは、信頼感と支配性、有能さについて、それぞれ米国人の成人が行った印象判断によるものです。例えば信頼感の高い顔と低い顔のペア(図1)など、Alexander Todorov教授らの研究をベースに作成しました。
(図1参照) 顔のペアの例:アメリカで信頼感が高いとされたもの(左)と低いとされたもの(右)
これらの顔写真のペアをみて、日本人の幼児や成人が「左の顔写真の方が、より信頼できそう」と、やはり米国人の成人と同じ第一印象を持つのだろうか、というのが今回の実験のテーマです。
■発見(1) 日本人と米国人の成人同士の比較
同じ成人であれば、米国人の顔に対して日本人の研究参加者も米国人の参加者と同じ第一印象を受けるものなのでしょうか。結果は印象の種類により、大きく違いました。このうち、日本人の参加者と米国人の参加者で第一印象にあまり差がなかったのが、支配性です。米国人の参加者が支配的だと第一印象で思った米国人の顔は、日本人が見ても、全体の約93%が同じく支配的だと思いました【注2】。
ところが、信頼感と有能さは違います。米国人の顔を見て信頼できそうと思う第一印象は、米国人の判断と一致する日本人は54%にすぎませんでした。有能さについても60%にとどまりました。
■発見(2) 日本人の幼児と成人の比較
同じ日本人でも、幼児の頃は印象の種類により、成人とは違う第一印象を持つことがあると分かりました。幼児については2回に分けて検討を行い、2回ともほぼ一致した傾向が見られました。以下の記述と結果のグラフ(図2)には幼児の2回目の検討結果と成人の結果のみを示しています。
(1)信頼感
米国人の顔から相手を信頼できると思う第一印象は、幼児が成人を上回り、幼児の方がより米国人に近い第一印象を持つことが分かりました。相手が信頼できると見た第一印象が米国人と同じだったのは、幼児3-4歳で74%、5-6歳で92%。成人の54%を大きく上回りました。信頼感は幼児の時は年齢を重ねるにつれ米国人の印象判断と一致率が上がるものの、成人になると一転、一致率が下がることが分かりました。信頼感については、文化の影響を受け成人になると判断基準が変化したり、あるいは、そもそも「信頼感」の言葉の捉え方が違ったりする可能性が考えられます。
(2)支配性
米国人の顔から相手が支配的だと思う第一印象は、低年齢より高年齢の幼児の方がより米国人に近い第一印象を受けることが分かりました。相手の顔を見て支配的と思う第一印象が米国人の成人と同じだったのは、日本人の幼児3-4歳で77%、5-6歳で95%でした。支配性については、文化の影響を受け判断基準が変化する可能性が考えられます。
(3)有能さ
米国人の顔を見て相手が有能そうと思う第一印象は、日本人が幼児でも成人でもほぼ変わりませんでした。幼児は、米国人の第一印象から有能そうに感じたケースは3-4歳で55%、5-6歳で62%であり、成人の60%と、さほど変わりませんでした。このことは有能さについては、日米それぞれで年齢に関係なく、文化内で共通の判断基準がある可能性が考えられます。
【研究の意義】
人は顔を見ただけで第一印象として人の内面についての印象判断を行ってしまいますが、同じ顔に対しても国・人種や文化、年齢が違えば異なる第一印象を抱く可能性があります。印象判断の発達過程を詳しく調べることで、顔からの印象判断の文化差を明らかにする手助けになると考えられます。
グローバル化が進み、異文化間の交流が盛んになる中で、言葉の問題に限らず表情なども含めたコミュニケーションも重要になってきます。第一印象を良くすることはその後の円滑なコミュニケーションにつながります。このような研究を積み重ねて第一印象の特性を解明することは、人種や文化を超えた円滑なコミュニケーション実現に貢献するのではないでしょうか。
【論文情報】
Sakuta, Y. (2022) Face-to-trait inferences in Japanese children and adults based on Caucasian faces. Frontiers in Psychology 13:955194. doi: 10.3389/fpsyg.2022.955194
※「Frontiers in Psychology」
心理学のあらゆる側面をカバーするピアレビュー制のオープンアクセス学術誌。2010年に創刊され、2021年のインパクトファクターは4.232
【注1】幼児を対象とした検討では、まずは支配性と信頼感について4ペアずつ、有能さは2ペアの計10ペアを作りました。それで実験の手続きや結果を確認し、次に幼児を対象として2回目の検討を行いました。ここではペアを増やして支配性と信頼感について7ペアずつ、有能さについて5ペアを作りました。大人を対象とした実験では、2回目の幼児の検討と全く同じ19ペアを使いました。
【注2】実験では、たとえば信頼感の高い顔と低い顔のペアを見せてどちらが信頼できそうかを判断してもらったときに、日本人の参加者もアメリカの成人が信頼できると判断した顔の方を選んだら、アメリカ人の判断と「一致」したとカウントしました。最終的に、3種類のペアそれぞれについて一致率の平均値を計算しました(たとえば信頼感のペアについては7ペア分の判断の平均を出しています)。
(図2参照) 日本人の幼児と成人の印象判断が米国人の成人とどれくらい一致するか
■研究内容に関するお問い合わせ
実践女子大学生活文化学科 准教授 作田由衣子
E-mail: sakuta-yuiko@jissen.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
実践女子学園
広報課
住所:〒191-8510 東京都日野市大坂上4-1-1
TEL:042-585-8804
メール:koho-ml@jissen.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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