糖尿病の新たな治療標的Betageninを発見 〜膵β細胞の増殖を促進する革新的な糖尿病治療薬の開発に期待〜

埼玉医科大学

【ポイント】 ⊳ インスリン分泌を促進する消化管由来因子としてBetageninを同定し、このBetageninは膵β細胞の増殖およびアポトーシス注1)抑制作用も併せ持つことを明らかにした。 ⊳ 細胞外に分泌されるアミノ酸配列に基づくBetageninペプチド注2)の合成に成功し、このBetageninペプチドは薬剤誘導性の糖尿病モデルマウスの病態を改善した。 ⊳ マウスにBetageninを強制発現させると、糖尿病が改善し、膵β細胞量が回復した。 ⊳ Betageninを標的とした創薬研究の発展により、新しい糖尿病治療薬の開発が期待できる。 ■概 要■ 埼玉医科大学医学部中央研究施設の豊島秀男客員准教授、横尾友隆准教授、筑波大学医学医療系の島野仁教授、順天堂大学大学院医学研究科難病の診断と治療研究センターの岡﨑康司センター長、大阪大学大学院生命機能研究科の髙島成二教授らの共同研究グループは、消化管から分泌される生活習慣病に関連する液性因子を広く探索し、糖尿病治療の新たな候補分子としてインスリン分泌促進と膵β細胞注3)増殖促進の二つの作用を併せ持つ消化管由来ペプチドBetagenin(ベータジェニン)を発見しました。Betageninは動物モデルで糖尿病を改善する効果があり、その作用機序を詳細に解析すると重要なことに、糖尿病によって減少した膵β細胞を再生することが明らかとなり、長期的な血糖コントロールを改善する画期的な治療法につながる可能性があります。 本研究成果は、Journal of Biological Chemistryのオンライン版に2025年1月16日(木)付で公開されました。 ■背 景■ 糖尿病はインスリンの絶対的、相対的な作用不足により発症します。インスリンは、膵β細胞から分泌される血糖を低下させる唯一のホルモンです。1型糖尿病は自己免疫的機序によって膵β細胞が絶対的に減少し、2型糖尿病は膵β細胞が相対的に減少し十分なインスリンが分泌されず、血糖値が上昇する事が知られています。 糖尿病の臨床では、経過と共に膵β細胞からのインスリン分泌能が低下することが病態悪化の大きな要因の一つであると考えられています。現在、膵β細胞からのインスリン分泌を増加させる治療薬が臨床で使用されています。一方、現在までに膵β細胞の量を増やし、インスリン産生を促進させる治療法は確立されていません。近年、インクレチン注4)関連製剤が糖尿病治療薬として大きな成功を収めていますが、インスリン分泌能の維持、膵β細胞の保護作用について結論は出ていません。 ■研究内容と成果■ 本研究で、我々は消化管から分泌される生活習慣病に関連する液性因子を探索し、消化管特異的に発現するTm4sf20遺伝子に由来し細胞外に分泌されるペプチド断片(Betagenin)が膵β細胞の細胞量の増加とインスリン分泌を促進し糖尿病モデルマウスの病態を改善することを明らかにしました。 培養細胞を用いた実験から、Betageninがインスリン分泌を促進すること、膵β細胞を増やすことを見出しました。糖尿病モデルマウスにBetageninを強制発現させることで糖尿病が改善し、膵β細胞量が増加していることを明らかにしました。また、Betagenin過剰発現トランスジェニックマウスとノックアウトマウス注5)では、コントロールマウスと比較して、それぞれ3倍以上と4倍未満の膵β細胞量を示しました。細胞外に分泌されるBetageninを精製し、そのアミノ酸配列を元に人工合成したBetageninペプチドは、ヒトおよびマウスの膵島注6)においてインスリン分泌を増強し、膵β細胞の増殖を促進しました。さらに、この合成ペプチドを糖尿病モデルマウスに投与すると、膵β細胞量が回復することで血糖値が低下し、糖尿病を改善する効果がありました。これらの結果から、BetageninやBetageninを制御する分子を標的とした創薬によって、糖尿病患者の血糖値の改善と膵β細胞の再生誘導を同時に実現する革新的な治療法の開発ができる可能性が示唆されました。 ■今後の展開■ 本研究により、Betageninを標的とする膵β細胞の減少を食い止め、再生と増殖を促しインスリン分泌を増強するという従来とは異なる新しい作用機序の糖尿病治療薬が開発される可能性があります。また、膵β細胞を直接増やす作用機序から、1型糖尿病のみならず2型糖尿病に対する改善効果も大いに期待出来ます。さらに、Betageninは膵島や膵臓の再生医療にも応用できる可能性も秘めていると考えられます。 以上のことから、今回、我々が発見したBetageninは、糖尿病研究に様々な波及効果をもたらし、新たな治療薬の開発、治療戦略の構築につながると期待されます。 ■用語解説■ 注1)アポトーシス 細胞が構成している組織をより良い状態に保つためのプログラム細胞死のこと。 注2)ペプチド 2つ以上のアミノ酸がペプチド結合でつながったもので、ホルモンや酵素など生理作用をもつものが知られている。 注3)膵β細胞 膵臓ランゲルハンス島にあり、インスリンを合成・分泌する細胞のこと。 注4)インクレチン 食事を摂取することにより消化管から分泌され,膵β細胞に作用してインスリン分泌を促進するホルモンのこと。現在、GLP-1(Gulcagon-Like Peptide-1)とGIP(Gastric Inhibitory Polypeptide)が知られている。 注5)トランスジェニックマウス・ノックアウトマウス 特定の遺伝子を人為的に挿入あるいは欠失したマウスのこと。 注6)膵島 膵臓内でインスリンやグルカゴンなどのホルモンを分泌する細胞(内分泌細胞)が集 まっているところ。ラ氏島あるいはランゲルハンス氏島とも呼ばれる。 ■研究資金■ 本研究は、主に日本学術振興会(JSPS)(課題番号23K08017、23K10876)からの助成を受けて、主に埼玉医科大学および筑波大学において実施されました。 ■掲載論文■ 論文名:Betagenin ameliorates diabetes by inducing insulin secretion and β-cell proliferation (Betageninはインスリン分泌と膵臓β細胞増殖を誘導して糖尿病を改善する) 著者名:Tomotaka Yokoo; Kazuhisa Watanabe; Kaoruko Iida; Yutaka Nakachi; Hiroaki Suzuki; Hitoshi Shimano; Seiji Takashima; Yasushi Okazaki; Nobuhiro Yamada; Hideo Toyoshima     横尾友隆(埼玉医科大学)、渡邉和寿(筑波大学、自治医科大学、現 東京家政大学)、飯田薫子(筑波大学、現 お茶の水女子大学)、仲地ゆたか(埼玉医科大学、現 熊本大学)、鈴木浩明(筑波大学、現 実践女子大学)、島野仁(筑波大学)、髙島成二(大阪大学)、岡﨑康司(埼玉医科大学、現 順天堂大学)、山田信博(筑波大学)、豊島秀男(埼玉医科大学) 雑 誌:Journal of Biological Chemistry DOI:10.1016/j.jbc.2025.108202(https://doi.org/10.1016/j.jbc.2025.108202) 公開日:2025年1月16日(オンライン先行公開) 【お問い合わせ先】 埼玉医科大学医学部 客員准教授 豊島秀男(とよしまひでお)  E-mail:toyoline[@]saitama-med.ac.jp 埼玉医科大学 広報室  Tel:049-276-2125 E-mail:koho[@]saitama-med.ac.jp ※ E-mailは上記アドレス[@]の部分を@に変えてください。 ▼本件に関する問い合わせ先 広報室 蒔田喜彦 住所:埼玉県入間郡毛呂山町毛呂本郷38 TEL:049-276-2125 FAX:049-276-2086 メール:koho@saitama-med.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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